第21話 賽は投げられた。
"バハムウト"。それは魔物の最上位種である神話級に分類される龍。
その
生物の頂点とも言えるその古龍は、魔力を多く含む物を好むため、”魔力の泉”の付近を根城にしていた。
しかし、突如としてその泉は汚染され、山脈の力は分散されてしまった。
いつもの飲み場を失った古龍は、新たな食事を求めて眷属ワイバーと共に首都を襲撃。
バハムウトの狙いは膨大な魔力を持つこの国の王女アリア。対魔物兵器や聖騎士達の奮闘によって、魔物たちの侵攻をなんとか食い止め追い払ったが、またいつ襲ってくるか分からない。
予断を許さない状況だ。
被害は最小限に済んだとはいえ、民家も大半が高熱のブレスによって
次の襲撃でなんとかしなければ姫はもちろん、この都市は壊滅してしまう。
「という状況なのだ……」
非常事態のため前回の騒動は不問にされ、俺たちは王の元へ呼ばれた。
王もバルザックも気丈に振舞ってはいるが、かなり疲れが見える。
「私が原因で
アリアも自身の魔力がバハムウトを呼んでいることを知り、精神的にも参っている様子。ごめん、それ俺たちが諸悪の根源なんだわ。
「兵藤殿……戻ってこられて急だが、我々を助けてくれんか? 貴殿の力があれば何とかなるかもしれぬ」
兵藤は経緯はともあれ、この国最強の闘技者になった。その戦力はこの状況では使わない手はない。王の願いは道理だ。
「うーん、今首都にある魔道具と武器を全部見せてくれ。それから考える」
バルザックの案内と共に、武器保管庫・宝物庫・物資などを見せてもらった。どれもバハムウトにダメージを与えられそうなものはない。
「これは?」
「それは"ダイナメイト”。ドワーホが作り出した強力な爆弾のようなものだ」
しかし、その爆弾でも強力な外皮と鱗を持つ龍には効果がないらしい。
かなりの量が保管されているが無用の長物となっている。
「で、どうであった? なんとかなりそうか?」
アリアと王の元に戻った俺たちはすぐに返答を聞かれた。
「一つ条件がある」
「条件とは?」
「アリア、お前は命を賭けられるか?」
兵藤は質問に対して、開口一番に条件を出した。それはアリアに命を賭けろというものであった。姫を守るための戦いだが、あの龍を倒すには姫が命を賭けるしか方法はない言う。
「それは──「します」
王が何か呟きかけた瞬間、アリアが遮った。
その目はとても真っすぐで、何よりも誇り高いものであった。覚悟を決めたその姿に、王はそれ以上何かを言うことはなかった。
「それで、私は何をすればよろしいのでしょうか?」
「いいだろう、作戦の内容は──」
「「「「─────ッ!!!」」」」
◇
俺と山田は聖騎士達と共に散らばり所定の位置につき、セラルは壁の上からを警戒していた。
そして兵藤とアリアは城のてっぺんに立っていた。
「兵藤様……うまくいくのでしょうか?」
「心配するな、命を賭けると言ってもお前は死なん」
不安がるアリアとは対照的に、兵藤はいたって落ち着いていた。
他のみんなも作戦に向け互いを鼓舞していた。
──とその時。
ドンッ!!!
壁から上空へ大きな光が打ち上げられる。
龍共が来たというセラルからの合図だ。
「「「グギャアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」」」
30匹前後いるワイバーの群れ、その上に巨大な龍が高速で城に向かって真っすぐ飛んでいた。
「総員──発射ぁああああああああああああああッッ!!」
弓兵や砲兵・魔法使いの攻撃が合図と咆哮によって打ち出され、次々にワイバーたちに直撃する。
ダメージを受け、羽を傷つけられ、高度を落とすワイバー達。しかし低空飛行となった魔物どもはダメージを受けた復讐のためか、建物や近くにいる人にわざとぶつかり暴れだす。
「お前らァああああああああ!! 行くぞおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」」」
接近可能となったワイバーたちに聖騎士や兵士たちは一気に襲い掛かった。
人も魔物もお互いの命の奪い合いに、踊り狂っている。
そんな中、眷属達の生死を意に介さず、バハムウトは真っすぐ加速しながら城のてっぺんに立っている餌に向かって進んでいく。
その速さはもはや回避不能の領域にまで到達し、餌たちは完全に覚悟を決めた。
「行くぞ」
「はい、私を……この国をお願いします!」
そして二人は高速で突っ込んできた古龍に
────食われた。
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