第22話 運命は常に動いている。

 薄い暗がりの中に私はいた。


 無限に広がる空間の中で、私は出会った。

 ブクブクに太った吸血鬼に──。


「ふはははは! ようこそ我輩わがはいの世界へ!!」

「どなたか存じ上げませんが、なぜそんなにヨダレを垂らしているのですか?」

「ヨダレではない、海水だ!」


 ワイバー達の撃滅に成功した俺たちは空を見ていた。


 先ほど城に突っ込み、兵藤とアリアを喰ったバハムウトはぐるぐると首都の上空を飛んでいる。


「おい、あれは成功したのか? それとも失敗してんのか?」

「分かんない、でも待つしかないよ」

「私たちは私たちで出来ることをしよう」


 ワイバーの残党や倒壊した建物で動けなくなった人がいないか探すことにした。


 山田は城近くにある救護場で負傷者を癒してくると別行動をとることになった。


「……ここがクソトカゲの火炎袋か」


 龍の体内はブレスの影響で高熱になっており、あらゆる毒や病原菌を熱で無効化してしまう。


そのためいつもの十八番おはこが使えない兵藤は、バハムウトの体内に導火線を張り巡らせていた。

 

「さて、吉と出るか凶と出るか……」


 そう言うと兵藤は最後のダイナメイトを火炎袋の近くに設置し、火のついたマッチをそのまま手から落とす。


「グギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!!!!!」


「なんだ!?」


 空を飛んでいたバハムウトは突如悲鳴を上げ、鱗と鱗の間、口や目の隙間から黒い煙を出しながら滑空するように城に向かって落ちる。


 巨大な体を持つバハムウトの二度目の激突、その衝撃によって完全に城は崩壊し、崩れ落ちた。


「おい、大丈夫か山田! 返事しろ!!」


 城の倒壊によって近くにあった救護場も土砂崩れにあったかのように、瓦礫がれきの山と化していた。城の残骸ざんがいに覆いかぶさっているバハムウトはまったく動く気配はない。


おそらく作戦は成功したのだろう。しかし、山田の姿がない……。頼む…………。


「山田あああああああああああああああああああああああああああ!!」


「うるさいぞお前」


 俺の叫びに返答したのは山田ではなく、兵藤だった。ボロボロの服に焦げ臭い煙、体中に火傷を負いながらもピンピンしていた。


「兵藤! 生きてたのか!! いや、そんなことより山田が──」

「そんなことよりって、お前も結構ひどいよな」


「山田が瓦礫がれきに潰されちまったかもしれねーんだよ!!」

 兵藤は「?」と不思議そうな顔をしている。爆発の衝撃のせいか、それとも状況が呑み込めていないのか、本当にその態度がムカつく。


「おい! お前も手伝え! 探すぞ!!」

「探すって何を?」


 あ? 山田に決まってんだろ。いい加減ぶっ殺すぞ。


「山田ならさっきからお前の横にいるだろ」

「は? うええええええええええッ!?」


「『山田が潰されちまったかもしれねーんだ!』」

 俺の隣に、俺の真似をする山田がいた。


 無事な山田の姿を見た俺は思わず抱き着こうとした。が、見事に避けられてなぜか平手打ちされた。


その直後、兵藤にも平手打ちされた。お前は本当になんでだよ。


「永岡、心配してくれたんだね。私は無事だよ、ありがとう」

「ああ、感動の再開でも抱き着くのはダメなのね。世の中厳しい」 

 

「なんか騒がしいね、何かあったの?」

 ワイバーの残党を狩っていたセラルが遅れてやってきて、騒いでいる俺たちに不思議そうな顔で話しかけてきた────。


 

 こうして俺たちは、バハムウトとその眷属ワイバー達の撃退に成功。


 あのクソトカゲの体内に入った兵藤は魔法袋から大量のダイナメイトを取り出し、逆に袋に入れることによってアリアを爆発の衝撃から守った。


しかし、設置と着火の両方を行う兵藤は衝撃をもろに受けている。神話級の魔物を体内からとはいえ、殺すほどの威力。なんでコイツ生きてんだ?


「さあ? 日頃の行いかな」


 それから数週間の時が過ぎた頃、首都は元の姿に戻りつつある。


 この国の英雄になった俺達だったが、そもそもの原因であり、城も結果的に破壊してしまった罪滅ぼしのため、復興の手伝いをしている。

   

 そしてある日の昼、作業を一通り終えた俺たちは休憩がてら昼食をとっていた。


「いやぁ、だいぶ城や城下町も戻ってきたな」


一時いちじはどうなるかと思ったけどね」


 壊れた城や民家・その他建築物も、住民や兵のみんな一丸となって復興に臨んだ結果、ものすごいスピードで修理されていった。


魔道具や魔法のおかげってのも大きいが、それでも現実世界じゃ1年以上はかかっただろう。


「全部オレのおかげだな」

「「全部お前のせいだろ」」


「まあ冗談は顔だけにしておいて聞いてほしい」

「おい、どういう意味だ」

「いいから聞け」

 

 その時、兵藤はいつになく真剣な顔をしていた。思えばバハムウト討伐以降の兵藤は、様子がおかしかった。


 そして現在発しているただならぬ雰囲気。それを察した3人は、兵藤に耳を傾けた。


 「…………」


 「黙ってねえで言えよ」


 「オレは────」


 兵藤は重い口を開いて言った。それは、この先の運命を変えるような一言ひとこと


 この訳の分からない世界の答え合わせ。それを俺たちにするための──その話の始まり。


 「オレは記憶が戻った」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る