第20話 ボス戦後のセーブは常識。

 風船のようにふくらんでいる吸血鬼が、俺たちの目の前に立っている。


 事態はダンジョンが海水で満たされてから二日後の朝にさかのぼる。


「みんな見て! 海水が消えてる!!」


 山田の声に起こされた3人。ダンジョン入口まで溢れていた海水が、突如として消えた。


「どういうことだ……」


 兵藤も不思議そうな顔をしている。どうやらコイツの仕業でもないらしい。


「と、とにかくこれで入れるな!」 


 こうして探索と攻略を開始した俺達は、しお臭い迷宮を進んで行った。


 兵藤の当初の目論見もくろみ通り、ほとんどの魔物は溺死している。


 アンデッドや植物系の魔物はピンピンしていたため、まだまだ危険が多く当然戦闘もあった。ピンチやバトルシーン、その話はまた、後日。


「まあ尺の都合ってやつだね、ごめんねみんな」

「セラル、お前なんで壁に向かって喋ってんだ」


 そして、なんだかんだで最下層最奥の扉までついた。


「よし、行くぞ」


 大きな二枚扉を押すと、ギーっという音を立てながら、その扉はゆっくりと開かれる。


 そこには─────


「よぐぎたなぁ! うぷっ……我輩わがはいは──」

 パンパンにふくらんだ吸血鬼。

 

「我輩はドラキュル! このほこらり人。まあていに言うと裏ボス、うっ……おえええええええええええええええええええ」


 裏ボスさんは大量に水を吐き出した。


「くっそ、久々の登場シーンなのに……。どこぞのバカが海水なんぞをぶち込んでこなければ……」


 どうやらこのドラキュルと名乗る魔物が海水を体内に全て取り込んだようだ。


何度復活しても溺れて死んでしまうので、本来は吸血を行うための能力を海水に駆使し、結果として太ってしまった。可哀そうなやつだ……。


「この姿ではスピードが落ち、本来の力の半分も出せんが仕方がない。貴様らごとき、ハンデが──」


 戦闘前の煽りを告げようとしていたドラキュル。しかし、その視界はぬののような物に突然奪われ、暗く閉ざされた。


「はい、捕獲完了」

「デカくなってるから焦ったが、袋の拡張サイズぎりぎりだったな」


 兵藤は手のひらサイズに小さくなった魔法袋を持ってそう言った。

 

「「えぇ……」」


「ん? さすがに複数の相手や袋に入らないサイズは難しいぞ」

「いや、ボス戦の雰囲気だったじゃん……」

「おう、だからこうして安全に捕獲したんだ」

「さすが兵藤だね! ぐへへ」

 

 そうじゃなくて……いや言っても無駄か。

 ちゃっかりセラルはヨダレをたらしながら抱きついてるし。


「……ん?」

 ドラキュルの巨体で隠れていたが、よく見ると部屋の奥にさらに扉がある。

 

「あれがほこらに続く扉だろう」

 セラルを引っぺがそうと体をぶんぶん振っていた兵藤も気が付いていたようだ。


 その最奥の部屋に入ると大きな祠が本当に存在していた。


あの王様の言っていたことは事実だったのだろう。祠にはゲー厶のコントローラーのようなものが付いており、俺はそのコントローラーを手に取った。


 すると祠は光だし、ホログラムのような画面が表示された。


「えーっとなになに『RPGシミュレーションゲーム:【リトルプラネット】攻略おめでとうございます。ゲームを終了し、ご自宅に転移しますか?』」


「「は?」」


「うっ、頭が……」

「大丈夫? 兵藤」

「おいおい、ゲー厶って……この世界はゲー厶の中の世界だったってことか!?」


 つまり……この世界はゲームの中で、勇者もこれで戻った。

 ということは異世界転移ものではなく、mmoRPG系のパターンだったってことか?


 だったら見たことある世界観、自分の姿もアバターの見た目になるものじゃないのか? 


『リトルプラネット』なんてゲームは聞いたことがない。……マイナーゲームか?


「見て! なんか選択画面が出てる」


 

【ご自宅に転移しますか? はい・いいえ←】


 

 どうする? 元の世界に戻れるかも。

 しかし、こんなことを急に言われても…………。

 ええい、ままよッ! なるようになれ! 


【はい】!!

 ブブッ

【既に使用期限・使用回数を超えています】


【はい】!!!

 ブブッ 

【既に使用期限・使用回数を超えています】


 ───は?????


 ◇


 どうやら祠の力はもう使えないと知った俺たちはダンジョンを後にし、途方にくれた。

 

「どうする? 兵藤はずっと頭を押さえてブツブツ言ってるし」

「とりあえず、次の目的地を決めなきゃだね」

「て言っても、もう宛はないよ」


「首都に戻ろう……」


「おいおい、どの面下げて戻るってんだ? ついに頭痛でおかしくなったか?」


「祠を見てから何か思い出せそうだったんだが……肝心なとこにモヤがかかってる感じだ」

 

 おいおい、ついに記憶が! 俺は勝手な予想で、コイツは現実世界の有名な指名手配犯なんじゃないかと踏んでいる。


「よしっ、兵藤の言う通り首都に戻ってみよっか」

「仕方ない、王様に再度有益な情報がないか聞いてみるか」


 結局、首都まで戻ることになった。そして兵藤の記憶は戻らず頭痛も収まった。


 その時のセラルと山田は少し残念そうな顔をしていた。そんな二人の気持ちが、俺にはエスパーのようによく分かったよ。

 そうだよな……もっと頭痛で苦しんでほしかったよな!?


 

 こうして、帰りは特に問題なく俺たち首都に戻った。


 しかし、その肝心の首都は────。


 魔物達に破壊されていた。

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