第19話 ご利用は計画的に。

 妖精:妖精とは神話や伝説に登場する超自然的な存在。人間に対し、好意的な者から人をだますような者まで、しばしば気まぐれな者と形容される。フェアリーはラテン語のfate(運命)を由来ゆらいとする。


 俺たちは妖精達の住む”魔力の泉”の近くに来ている。ここはダンジョンまでの道のりである大きな山脈、その山奥のとある場所に存在した。


 なぜ俺たちがココにいるかというと、約5分前にさかのぼる。


「おい、あれ妖精だよな!」

「うん、私も見るのは初めてだけど間違いない」


 小人のような手のひらサイズの身体に、蝶のような羽、とても可愛らしく、そしてとても美しい妖精たちが泉の周りを飛んでいた。


「俺、もっと近くで見てくる」

「ちょっ──」

 俺は妖精たちをもっと近くで見ようと泉に一人で歩み寄った。


 後ろでセラルが何か言ってるような気がしたが、まあ後で聞けばいいだろう。


「やあ、妖精さん達。俺は永岡って言うんだ」


「ナガ、オカ? ……ヒューマ?」


「そう、俺は人間だよ」


 どうやら言葉も通じる。ひょっとしたらこれを機に『妖精使い』になっちゃたりして。俺に気が付いた妖精たちは、取り囲むように集まってくる。


「ナガオカ……ヒューマ?」

「ヒューマ? コイツヒューマ?」

「そう、あいむひゅーま! イエスイエス!」


「「「ヒューマ!!」」」

 人間が珍しいのかな? 妖精たちはとても興奮している様子。


 そうか、俺のあまりのかっこよさに妖精すらも見惚れちまったか?


「ヒューマコロス! ヒューマコロス!」

「「「コロス!!」」」

「え?」

 妖精たちはそういうと、小さな魔方陣のようなものを浮かび上がらせ、火・水・風・雷・闇・光それぞれの属性レーザーを俺に向かって放つ。


「ぎゃああああああああああああああああああああああああ!!!!」


 レーザーは水鉄砲のように小さい。が、何十匹もいる妖精たちの攻撃により、俺の全身は穴だらけになり、至る所から出血しまくり。


「や、やばいッ! 逃げ──」


 妖精たちはさらに俺を確実に仕留めるため、次弾じだんの魔法陣を展開。

 とその瞬間、2~3匹の妖精が矢に射られる。


「セラル!」

 矢を放ったのは美しいエリフの少女、セラルだった。


「早く! こっちに!!」

 妖精たちがセラルを殺そうと気がそれた瞬間、山田が俺を抱え、その場を離れることに成功した。


 命からがら助かり、傷を癒してもらいながら一息ひといきつくと話を聞かされた。


 ここの妖精達は元々生息している生き物以外を問答無用で襲うことで有名らしい。  


 肉体能力は小柄なこともあり貧弱だが、魔力の泉を定期的に摂取しているため、魔力切れをしない魔法の達人。非常に高い戦闘能力を誇るという。


 本当なら泉を迂回してダンジョンに向かいたいとこだが、この山には神話級の魔物である"バハムウト”という古龍がおり、その眷属も周りに巣を作っている。


つまり、ここが一番の安全ルート。安全じゃないけど。


「めんどうだが、妖精どもは皆殺しにするか」


 大量の落葉で身を隠し、地面と同化していた兵藤がそう言い放ち、立ち上がる。



「ダウトーーーッ!」


「ふッふッ、残念だったね。7です」

「ぐにゃああぁぁ」


 そして色々あって俺たちは、ダンジョンの入り口の前でトランプゲームをしている。


 え? 妖精たちはどうしたのかって? 

聞かない方がいいことも、世の中にはあるんだ。

 


 あの後、兵藤はセラルの魔法袋に入れていた牧場のフンの残りを遠くから、しかし確実に"魔法の泉"に投げ入れていった。


透き通るような紫色の水は徐々ににごり、元の美しさは消えていく。


ワインに泥水が入ったら、それは泥水どろみず

綺麗な水にうんこが入ったら、それは汚水おすい


 それから2時間ほど放置していると、泉の水を飲んだ妖精たちは蚊取り線香の煙に触れてしまった蚊のように、ボトボトと地面に落ちていった。


 魔法は一線級だが貧弱な体を持つ妖精には、あの有毒と化した泉は致命的だったようだ。


 その光景はまさに地獄。俺はあの時初めて、本当の地獄絵図ってやつを見た気がする。


「みんなー、捕まえてきたよー」 

「うーん、微妙な歯ごたえ」

「お前、鳥を生のままで食うと当たるぞ」


 こうしてダンジョンに無事についた俺たちだったが、まだダンジョンに入っていない。


 いや正確には入れないんだ。


 セラルの狩りのおかげで食料は持つが、いつ終わるのか分からない放水作業に俺たちは正直言って辟易へきえきしていた。


そんなかたわら、兵藤はセラルが獲ってきた鳥をムシャムシャとそのまま食っている。


「兵藤、はいつ終わんだよ」

「知らん、ダンジョン内に海水が満たされるまでだ」


 やっとこさ山を越え、入口までたどり着き、さあ攻略開始だぞと意気込んでいた。


 が、そんな俺たちは兵藤にすぐ止められた。


 なんだコイツ? と思っていると、兵藤はカジノで手に入れた無限容量の魔法袋を取り出し、袋の口を入口に向けて置く。


「なにする気だ?」

「まあ、見てろ」


『袋よ。中の物を全て出せ』

 兵藤が唱えると大量の水が袋から放たれる。


「塩の匂い……海水?」

「そう、港の海底に袋を置いて貯めておいた」


 とてつもない勢いで放出されている海水は、止まる様子もなくダンジョンの奥へ奥へと流れ出る。


 どうやらコイツはダンジョン内を海水で満たし、リポップしている魔物を全て溺死てきしさせるつもりらしい。


「……いつまで待つんだ?」

「入口付近に水があふれるまで」

「たしか、このダンジョンは地下30階まであるよね?」


「「「…………」」」


 それから3日が過ぎた現在。


「終わらないね……一生このままだったりして」

「やめろ、ネガティブなことを言うな。そうでなくともダンジョン探索にワクワクしてた反動でおかしくなりそうなんだ」

「永岡と兵藤はいつもおかしいよ……」

 

「あ、終わった」

 俺たちの億劫おっくうとした気持ちを断ち切るかのように突然、兵藤が終焉の言葉を放った。


 その言葉を聞いた俺たちは反射的に入口を見ると、海水が入口から溢れ、水が地面に広がっていた。


『袋よ、閉じろ』

「「や、やっと終わった……」」


「おー、すごい。海水でいっぱいになってる」

 少し離れたところで調理していたセラルも、俺たちの様子で気が付いた。

 

「で、こっからどうすんの? 入る?」

「まだだ」

 上の階層の魔物がまだ生きてる可能性があるから、もう1日待てと兵藤が答える。

 

「かーッ、やっとダンジョン攻略かぁ」

「そもそも攻略って言っていいのコレ……」

「ところでダンジョン内を満たしてる水はどうやって回収するの?」

 セラルは不思議そうな顔をしながら、ふと問いかける。


「んなもん魔法の袋でパパッと収納すればいいだろ」

「無理だよ。魔法袋は自動でモノを取り出す機能はあっても、自動で入れる機能はない」

 

 そうだったのか。海水は海底に設置して自動で貯めたみたいだが、浅瀬に袋を置けばいい海と違い、最下層まで行って袋を設置しないといけないダンジョンでその方法は無理。


 でも大丈夫、俺たちには姑息な兵藤さんがついてる。


「兵藤、もちろん方法は考えてあるんだろ?」

「………………」

「兵藤……?」


こうして俺たちのダンジョン攻略は、幕を閉じた。

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