第25話 本気の部活は良い思い出。

「アウトー------ッ!」


[1番 投手 永岡]・[2番 捕手 山田]

[3番 三塁 兵藤 ]・[4番 遊撃 セラル]


 そしてアリア・ドラキュル・バルザック・モウコンダ・キアニーナ。

 今まで出会った5人を加えて俺たちは今、四天王と戦っていた。野球で。


 先ほどまでの草原は四天王の持つ魔道具によって某ドームほどの大きさの野球場と化していた。


 そして相手チームは【分身】のブランが7体の分身を出すことによって9人揃え、オリジナルである本体は、監督としてベンチで悠々自適にジュースを飲んでいる。


 一回の表は永岡の好投もありノー失点で抑える。


 そして一回裏、こちらの攻撃。


「ふッ、ついに俺が輝く時代が来たか……」


 永岡は高校時代、強豪校のスタメンとして甲子園出場経験もある根っからの球児であった。


元々はコントロールを持ち前に抑えていく投手であり、下位打線のバッターだった。しかし一回の表の四天王のプレイを見て確信した。


 こいつらは身体能力を生かしてカバーしているだけで技術や球際の強さはズブの素人。


良くて中学生の平均ぐらい。打線があんなもんなら守備はよりザルだ。1~2球見ていけば、俺ならポンポン打てる。


「行くぞ! ヒューマ!!」


「来いッ!!!」


 【魔弾】のグロリー第一投。大きく振りかぶって──────。


 投げたッ!

 バチュッ!!!!!!!


 グロリーの投球と共に、大きな音が後ろから聞こえ、何かの液体が俺に大量にかかった。


恐る恐る音のした方向を振り向くと、キャッチャーブランのミットから上が…………。


 吹き飛んでいた。


「うッ…………打てるかあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」


 その後グロリーの豪魔球は続き、バットに当てるどころか、次々に補充されていくキャッチャーブランの血飛沫で、俺たちの全身はビショビショになった。


 そしてお互いの失点無しが続き、気が付けば6回裏。ここまで出塁できたのは相手の失投からのフォアボールだけ。


 しかしそこから点に繋がることはなく、2アウト1塁で3番兵藤の打順となった。


「頼むぞ兵藤!」

 

 兵藤は億劫おっくうそうにバットを構える。この世界の野球ではなぜか盗塁は禁止にされている。そのため、正直相手ピッチャーの失投以外に点を取るすべはない。


「たく、普通に殺して船を取り返せばいいものを」


 兵藤の構えに合わせ、グロリーは大きく振りかぶって投げる。


「ふんッッッ!!」


 しかしその球は、ブランのミットや体に収まることはなく。


────兵藤の顔面を捕らえた。


「ッ!? 大丈夫か!?」


 兵藤は鼻血を吹き出しながら何故かニヤついている。むしろ、その様子を見ていたセラルの方が鬼の形相だ。


 本来ならデッドボールと言いたい所だが、兵藤はまったく避けようとしなかったため、ただのボール球になってしまった。


 兵藤はケガを山田に治療してもらった後、打席に戻り何もなかったかのように構えた。


「ふんッ、頑丈だな。次は仕留めてやる」


 コイツ……確信犯か! いくら兵藤が頑丈な宇宙人とはいえ、打ちどころによってはヤバい……。全力で避けろ兵藤!!


 グロリーは第2投目も大きく振りかぶって────投げた!


 そのたまキャッチャーミットの場所とは大きくズレ、またもや兵藤の顔面に真っすぐ向かっていく。


「やばいッ! 避けろ兵藤ッ!!」


 が兵藤はまた顔面に魔球を直撃し、今度は倒れた。


「兵藤ッッ!!!」

 すぐに俺たちは兵藤の元に駆け付けた。

 がそんな俺たちに兵藤は言った。


「よし、仕留めたぞ」


 兵藤は体をゆっくりと起こしながら、ピッチャーマウンドを指さす。


 そこにはバットの形に顔が陥没かんぼつし、体を痙攣させてぶっ倒れているグロリーがいた。


 そう、兵藤は一球目の投球から二度目は確実にグロリーを仕留めることを決めていた。


もちろん相手チームからの抗議はあったが、ボールが当たった影響で手元が狂って投げてしまったと言う兵藤に、ベリアルもブランも何も反論出来なかった。


 そして、グロリーの実質的な退場と塁を進めることに成功した俺たちはこの回、初の得点を獲ることに成功した。


 そして7回の表、【邪眼】のベリアルの打順。


 ブランやグロリーは今まで抑えてきたが、このベリアルとかいう女は邪眼を持っているというだけあり、俺の球を正確に読んで何度も出塁している。


 1点リードしている今、コイツに打たれる訳にはいかない。


 一球目は外角低めギリギリのストレートで行く。


 そして永岡は一球目を──投げる!


 カッキーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッン!!


「まずい! レフトぉ!!!」


 レフト守備にいたモウコンダは全力でアフロを抑えながら走る! が、ボールはそのままグラウンドの地面に落ち、ヒットとなってしまう。


 ベリアルはランニングホームランと言わんばかりの勢いで塁を走り抜け。


 モウコンダの送球が三塁に届くころには、既にベリアルはホームに向かっていた。


 そして、三塁守備の兵藤は全力で投げた。


 そう、ベリアルの後頭部に。


 猛スピードの球はそのまま完璧に頭部を捕らえ、走っていた勢いそのままベリアルはホームベースにタッチ。


 そして審判ブランの判定は────。


「セーーーーーーフ! そして兵藤! 退場ぉッッ!!!」


 こうして、兵藤はグラウンドから追い出された。

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