第26話 力こそパワー。
9回の表、イニング数が重なったことにより永岡は体力を減らし、その制球力は確実に落ちていた。
今まで抑えることが出来ていた球も打たれ始め、相手は9人補充されているのに対し、こちらは8人の守備。その穴も容赦なく突かれ、気が付けば7-2の大差となってしまった。
そして、9回裏。先ほどのイニングで差はより開き11-2。最後の勝負。粘ってなんとか3点追加したが結果は11-5。
──俺たちは負けた。
「「「さあ約束だ。その女を寄こせ」」」
分身ブラン達が近づいてくる。山田は怯えていた……この先、自分が何をされるのか分からない恐怖に。
「や、やめて……」
「うるさい! 僕たちの仲間をあんな卑劣な真似しておいて何を言ってるんだ!!」
「おいおい、卑劣なんて人聞きの悪いぞ」
山田が連れていかれそうになった瞬間、突然相手ベンチから聞き覚えのある声がした。
おかしい、あのベンチにはブランの本体がいるだけ。他には気絶している四天王の二人。
でも、その声はブランのものではなかった。
「き、貴様!!」
「なんだ? まさか卑怯とは言うまいな?」
──その声の主は兵藤だった。
そしてその胸元には、首を絞められ刃物を突き立てられたブラン本体。
そう、兵藤は自軍のベンチから退場した後、武器を調達してそのまま廊下を渡り、相手ベンチに潜入していた。
なぜ球場に武器があるのかというと、兵藤は勝負の内容に関わらず、確実に四天王の息の根を止めようと考えていたからだ。
そして、四天王の能力を見た兵藤は野球では勝てないと判断し、そこからグロリーとベリアルを気絶させブラン本体を確実に仕留める作戦を決行した。
「つー訳だ」
「僕たちは勝ったんだぞ!? ひッ、卑怯者がッ!! グギャッ!!!」
ブランの悲痛な叫びを耳元で受けた兵藤は「うるさいなぁ」と言わんばかりに、ブランの意見をガン無視してぶん殴った。そして普通に刃を刺した。
(((ひ、ひどい…………)))
「さて、分身共も消えて一件落着! さあ、球場の外にある船に行くぞー」
◇
俺たちはブランの
「それじゃあ、みんなとはここでお別れだな」
俺はみんなに挨拶をした。名残惜しいがこの世界ともさよならだ。
「永岡様、またお店に来てくださいね」
キアニーナさん……二度と行くかボケ。
心中ぐちゃぐちゃになっていた俺の横では、セラルとアリアが兵藤をめぐって争っていた。
ムカつくのでそこは割愛させてもらう。
「ってあれ? 山田はどこいった?」
さっきまでいた山田の姿がない。おかしいな? 先に船に乗ったわけでもないし。
しばらくあたりを捜索したが見つからない。
なにしてんだアイツ?
最後だからって球場の土でも拾いにいったか?
そんな俺たちに何者かが話しかけてきた。
「あなたたちが探してるのはコレかしら?」
「お前はッ!?」
俺達に突如話しかけてきたのは……先程まで気絶していたはずの四天王。
───【邪眼】のベリアルだった。
「アンタの目なんか探してねーよ」
「そうじゃないわ、よく見なさい」
ベリアルは自身の右眼を指さしていた。
促されるままその眼をよく見ると、その瞳孔の中に──山田がいた。
「は!?」
「うふふ、驚いたわね! そう、私の【邪眼】は死霊を見通し支配する!」
ベリアルは山田を邪眼の中に封印し、その力を支配していた。
「これだけじゃない! 私の頭にわざとボールを当てといて、これだけで済むと思わないでよ!!」
ベリアルはその怒りを
「なんだ!? 何してんだ!?」
「フフ、私の左眼は千を超えル亡霊が封印されテいる。その全ての"死"の力と……この子の"死を否定”する力にヨッテ……」
ドス黒い炎に包まれたベリアルは自身の肉や皮を崩壊させ突き破り、ものすごいスピードで巨大化していく。
ソレは妖怪伝説に出てくるガシャドクロのような骨の体、光輝く天使の輪のような物を頭に浮かび上がらせ、ドス黒い炎を我が身の一部かのように
そして更に更に大きくなっていく。
「ドウダ!? コレガ"死”を完全に支配した姿ッ!! これこそが我々が追い求めた"混沌"の力ダッ!!!」
その化け物は遥か上空から、俺たちを見下し語りかけている。
そして次の瞬間、その化け物は指で少しだけ地面を払った。
するとあたり一面に咲いていた草木は枯れ、その風圧と衝撃で地面はひび割れ、少し離れた山々は崩れ落ち、空の雲は消えた。
一瞬で地図が書き換わるほどの天変地異が起きたが、その事態を飲み込めていなかった俺たちも空から雲が消えた事でその現実を突き付けられた。
その化け物は明らかに人類が手に負える相手ではない。
おいおい─────。
「デカすぎんだろ…………」
ベリアルの大きさは、大気圏を突破していた。
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