第24話 我々の中でも最弱。

 衝撃の事実を一気に知らされた俺は面食らっていたが、まだ話は続いた。


「話が脱線してしまったが、この話をお前達にしたのには訳がある」


 兵藤は続けて質問があると言った。その質問は山田に対するものだった。


「お前は──何者だ?」


 なに言ってんだ? 山田は山田。その質問の意図がまったく分からなかった俺は、またいつもの滅茶苦茶なことを言っているのだと思った。


 が、山田はその質問をされて押し黙った。


「何言ってんの?」でもなく「どういう意味?」でもなく、黙っていたのだ。


「兵藤、『何者』ってのはどういう意味だよ」


「オレは地球に行った。そこで──」

 兵藤は地球に訪れ、俺達地球人を拉致しに来た。


 そこで、トラックに引かれている俺と山田を見つけた。そしてを、船に乗せた。

 

 つまり、兵藤は山田を船に乗せてない。


 俺は負傷していたが治療装置で治せる。しかし、山田のケガは兵藤の宇宙船では治療不可能なレベルであったため、そのまま置いてきたというのだ。


「……本当なのか?」

「…………うん」


 俺が山田に問いかけると、すんなり認めた。


 山田はあの事故の後に死んだ。


 だが未練があったのか、幽体として俺に呪縛し、この世に残ってしまった。


 ある程度の距離は離れることが出来るが、呪縛先である俺がこの星に移動してしまったため、引っ張られて山田もここに来た……らしい。


 たしかにおかしなことはあった。山田が魔物に襲われることや傷つけられたことは今までなかった。


 でも、それは偶然だと思っていた。


 瓦礫がれきに潰されなかったのも、兵藤の爆破を食らわずに助かったのも、単純に運がいいからだと思ってた。


 でも、違った。


山田は幽霊になり、自分から物に触れることは出来ても、他者から触れることは出来ない。


 もしかして、首都で俺が抱き着こうとしたときに避けたのも……その事を知られないため?


「いや、それは反射的に避けちゃっただけ」

「あ、そうすか……」


 しかし普通に食事が出来たり、幽霊なのに治癒のような聖なる力を使えるのは何故だ?


「幽霊? ってのは知らんが、話しを聞くに山田は宇宙のルールを逸脱いつだつした存在になったってことだろ?」

「存在そのものが"死"を否定するバグみたいなものになったことで、他者の死も少しだけ遠ざける事が出来るんじゃないか?」


 兵藤は自分の推測を説明口調で言った。


 幽霊なんてものは本来はあってはならない存在。それも見た目はそのままに食事もするし、治癒能力も持っているなんてバグ以外のなにものでもない。


 もしかしたら山田は幽霊の中でも特別な存在なのかもしれないな。


「話してくれてありがとう。山田を蘇らせる方法も、これから考えていこうな」


「……うん、ありがとう」


 こうして俺たちは互いの秘密を教え合ったことでより、絆を深め合えた気がする。


 まあ、俺だけ秘密がないのがなんかムズムズするが──良しとしよう。

 


 この世界ではじめて目覚めた草原。


 その上空で光っていた。その一つが、どうやら擬態したセラルの宇宙船だったらしい。


 山田のこともあるが、とにかく俺達はそのセラルの船に乗り地球に帰ることにした。


 秘密を打ち明けてからしばらくし、首都の復興が完了したので王に挨拶を済ませた後、俺たちは宇宙船のある草原に向かった。


「ねえねえ、式はいつげる?」

「挙げん、うざい、引っ付くな」


 約束どころかセラルのことをまったく覚えてなかった兵藤だったが、セラルはあの後すぐ「まあ、これから私のこと覚えてもらえばいっか!」と気を取り戻した。


 トコトコ歩いて特に大きな危険もなく進み。


 この冒険の始まりである草原。

 あの場所へと俺たちは辿り着いた。


 しかし、すぐに問題は発生する。


 空には……太陽がしかなかった。


「あれ?」

「おい、お前の船ないぞ」


 あたりを見渡しても他にそれらしきものはない。

 そんな俺たちにある3人組が話しかけてくる。


「あら、お嬢さん久しぶりね」


「あ、あなたは! 温泉で会ったお姉さん!!」


 山田はどうやら3人組の一人と顔見知りのようだ。


「あなたが探しているのはこの空の上に浮かんでいた魔道具でしょう?」

「がはは! あの魔道具なら我々がいただいたぞ!」


「お前ら誰だ! 船を返せ!!」


 俺が盗人ぬすっとどもに問いかけると、思いもしない答えが返ってきた。


「ダメよ。あの魔導具は私達四天王の物」


 この三人はなんと、魔王軍の四天王だったのだ。


 【分身】のブラン・【魔弾】のグロリーと名乗る男達──そして、【邪眼】のベリアルと名乗る女。


 過去、勇者によって撃たれた魔王軍であったが、その残党は魔物と同様にいた。


四天王の一人は討たれてしまったが、三人は生き残り、今でもこの世界を征服しようと魔道具を収集し力を蓄えていた。


 そして、セラルの船を魔道具と勘違いしたコイツ等は船を手に入れた。


 しかし、実際には魔道具ではなく宇宙船であるため、セラルの持つコントロールキーが無ければ使用することは出来ない。


 そのことを説明しても、やつらは聞く耳を持たない。


「ふんっ、そんなこと聞かされても信じるわけなかろう」

「本当なんだ! それにそれがないと俺たちは困るんだよ!」


「いいわ、返してあげる。その代わり……」

 

 【邪眼】のベリアルは船を返すかわりに条件を出してきた。それは、四天王と勝負をして勝ったら返す、その代わりに──負けたら山田を寄こせというものだった。


 まさかこのベリアルとかいう女……山田の正体に気づいている?


 しかし、船がないことにはどうにもならない。


 山田の了承を得て、俺たちはその勝負を受けることにした。


「で、その勝負ってのは一体なんだ?」


「ふふ、その勝負はね───」


 俺達は準備を整え、草原の真ん中でのチームを作った。


 そう、その勝負とは


 プレイボーーーーーーーーーーーーッル!!!


 『野球』!!

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