第48話 愛の形は人それぞれ。

 合コン。それは合同コンパの略称であり、出会いを求める男女が集まって行う飲み会。


「んめぇ~、なんだこの菓子は? オラ、こんなうんめぇ菓子初めてだぁ」

「よりにもよって、尻丸出しの男なんか連れてくるなんてね……」

「だって他に連れてこれそうな人いなかったし」


 男2人と女3人では人数が釣り合ってない、と山田が勾玉の力で金太郎を連れてきた。


 魔女ヒルドから放たれる冷ややかな視線に気付かず、テーブルに置かれているリンゴのタルトをむしゃむしゃと食べる金太郎。


「これ、アンタが作ったのか? 綺麗な上に料理も出来るなんてスゲぇだ」

「……ありがとう」


 褒め言葉を受けてかヒルドは表情が少し緩んだ。プロ顔負けの料理。一人暮らしだとサボりがちな料理だが、かなりの腕前。


「おいおい!そんなことより! 俺が王様!!」

「あ、そうだったわね。さあ命令は何かしら?」


「そうだな……1番と4番がハグ!」


 王様ゲームでは数字の書かれた棒と「王様」の棒が一本。そして「王様」を引いた者が数字を指名して命令を下す。王様の命令は、絶対なのだ!


「あ、1番はオラだな!」

「お前かよ……」


 俺のプランでは軽く女の子同士が抱き合う綺麗な絵を思い浮かべていたのに……。


「で、4番は誰だ?」

「オレだな」

 

 お前かよ。


 王様の命令通り熱い抱擁ほうようわす二人。


「「永岡、お前は後で殺す」だ」


「残念でした〜、もう死んでま〜す」

 べろべろバァと舌を出して煽る永岡と、殺気を放ちながら30秒近く抱き合う二人。


「これはこれでありかも……」

「私が1番だったらなー」

「いったい、私は何を見せられているんだ」


 そして仕切り直して、次のクジへ。


「「「王様だーれだ!」」」

「あら、私が王様ね」


「そうねー……」


 次の王様はヒルドだ。さて、どんな命令かな?


 とみんなが王様の命令を待っている中、魔女はひらひらと棒を動かし呟く。


「『は、眠りなさい』」


 は???


 と俺は面食らったが、バタンッと倒れ机の上に顔を突っ伏して気絶している二人にすぐに気がついた。


「セラルどうしたの!?」

「金太郎も意識を失っているな」


「おい、ヒルド! なんの真似だ!!」


 ふぁ~ぁと退屈そうにアクビをして、ヒルドは面倒くさそうに答えた。


「何を言ってるのかしら? 王様の命令は絶対」

「そもそも、魔女の家に入って無事でいられると思って?」


「罠だったってことか……?」


「今さら気がついたの? わざと付き合ってるのかと思ってたけど、そこまでバカとは滑稽こっけいね」


 魔女の魔法、その一つである眠りの魔法。


 それは、リンゴを食べた者がある条件を満たすと強制的に永眠する呪い。


「なっ、ざけんな! 今すぐ魔法を解け!」

「条件は相手が『私の命令を待つ』こと。面倒な魔法だけど、発動してしまえば解除は不可能よ」

「まじかよ……」

「ねぇヒルドさん、なんでこんなことするの?」


 山田が問う。単純に鏡を渡したくないだけなら、こんな方法を取る意味が分からないと。

 

「そんなの決まってるじゃない、この女が私よりも美しいからよ」


「「は?」」


 ヒルドは鏡を自分の手元に置き、唱える。


「鏡よ鏡、世界で一番美しいのは誰かしら?」


 三種の神器"八咫鏡やたのかがみ"。その力は、対象の検索と持ち主をその姿に変貌へんぼうさせること。


 その力を使って自分よりも美しい白雪姫とセラルを夢の世界に消し去り、名実ともに自分が一番と確信し、鏡に問いかけた。


 しかし───。


 『はい、この者でございます』


「えっ!? ちょっと待ちなさい! 誰よこの空飛んでる女は!?」


 『カグヤ姫です』


 セラルが昏睡し、あの世で一番美しい存在になった。と鼻高々に永岡達へ鏡を見せびらかしていたヒルドであったが、そこに映し出されたのは自分ではなく和服を着た知らない女。

 

「は? 待って……じゃあ私は何番目に美しいのかしら?」

 『う〜ん、3番目ぐらい?』

 

「えぇ……」とその真実を聞いたヒルドは、プライドを完全にへし折られ、体育座りでうずくまった。


 白雪姫を手に掛け、セラルとかいう女も眠らせた。そしたらまた、どこぞの姫が一番、しかも自分は三番目。意気揚々と鏡を見せつけた恥もあって、正直泣きそうだった。


「おーい、クソ女? 何をしたいのかよく分からなかったけど、とにかく魔法を解く方法教えろな?」

 

「大丈夫、私はヒルドさんは充分綺麗だと思うよ?」


「うっさいうっさい! あんたみたいなガキには私の苦労なんて分かんないわよ!!」 

 

 肩に手を当てていた山田をバシッと振り払い、そしてそのままヒルドはうわーーんと泣き出した。


 その様子を見て、俺と山田は呆然と立ち尽くし、兵藤は大号泣をガン無視して残っている料理をむしゃむしゃと食べている。


 しばらくグズっていたが、我を取り戻して泣き止んだヒルドはやっと口を割って教えてくれた。


「一つだけ解除方法があるわ」


 毒リンゴを食べた白雪姫は王子様の口づけによって、その呪いを跳ねけたとされる。

 それをさせないためにヒルドは先に王子を昏睡させ、白雪姫を完全な眠りへといざなかった。


「つまり、王子のキスで起こすことが出来るわ」

「ま、そんな都合よくいないでしょうけど」

 

 王・またはその子供である王子の口付け、それがこの魔法の解除方法。しかし、この世界の王子は既にいない。つまり、金太郎とセラルは永遠に眠ったまま…………。


「そんな……」

「万事休すか……」


「それなら問題ない」

 絶望していた俺達をよそに、兵藤はフライドチキンをむしゃむしゃと頬張って言った。


「王子がいればいいんだろ?」


「何言って……王子なんて……あっ」


 セラルの夫になった"ヒョウドル・。要するに戸籍上、デオニス王の息子である兵藤は、まぎれもない"王子"。


 つまり───。


「うわっ、、私寝ちゃってた……ん、あれ? なんか唇が潤ってる?」

 

「正直、見てた私が恥ずかしくなりました」

「今までごめんな? 俺はお前を認めるよ」

 

「黙れ」


 状況を理解していないセラル、兵藤を煽る俺と山田、「Zzz」と寝ている金太郎。


そしてそれを見て、ぷるぷると震えているヒルド。


「あ、そう……、あなた、どこぞの王族だったのね……」

「なんの話? 王様ゲーム????」

「だからなんだ?」 


 ふぅーっと大きく息を吐いて落ち着くヒルド。


 自身が作り上げた魔法をいとも簡単に解かれ、しかも目の前で見せつけられた彼女の心情は、過去を知る者以外には理解出来ないことだろう。


「いいわ、見た目も悪くないし認めましょう。──あなたを私の夫にしてあげる」


「「なっ……!」」


「えっ? えっ? どういうこと?」

 ヒルドの発言に対し驚く俺達と、事態が飲み込めずオロオロしているセラル。


「あなたにとっても彼女より私の方がいいんでなくて? その子と違って浮気さえしないなら自由にしていいわよ?」


「……つまり、ヒョウドルと私が離婚するってこと?」


「そうよ、あなたと別れて私の物になるの」


 鏡に自分よりも上だと言われたセラルの事はそもそも嫌っていた。その上、白雪姫と同様に既に結ばれている王子がいる。という事実はヒルドにとって地雷でしかなかった。


 しかしこれは、チャンスでもある。


 あの時は諦めてしまったけど今回は違う。私は魔法の力で若々しい肉体を手に入れ、家事だって努力して覚えた。


 あの時の雪辱せつじょくを今、この女から奪い取ることで果たす。そして、私は望むもの全てを手に入れてやる。


「どうかしら? 夫になるなら欲しがっていた鏡もあげるわよ?」


「…………」


 セラルは拳を握り唇を噛み締めていた。まったく現状を理解出来ていなかったが、魔女の要求に対する返答は黙って聞くことにしたからだ。


 自分の一方的な思いをずーっと兵藤に押し付け、結婚だって乗り気ではないのになかば強引に行った。


「返答は?」


 だからもしも、もしも兵藤が自分以外の誰かが良いと言うなら、黙って身を引く覚悟をセラルは元より決めていた。


 しかし─────。


「断る、オレの女はコイツだけで充分だ」

 

 兵藤はヒルドの要求を跳ね除けた。


「どうして!? 私の何がダメなの!!? どうして男は若い女ばっかり選ぶの!!!?」


「……セラルはお前より歳上だ。でも、お前なんかより、よっぽど素直でイイ女だ」


「ヒョウドル……私のことをそんな風に……」


「黙れ、見つめてくるな。ぶっ飛ばすぞ」


 セラルが照れながら兵藤に近寄りヒューヒューと取り巻きが茶化し、兵藤が心底面倒くさそうにする中、ただ一人、ヒルドはボリボリと腹立たしそうに頭をかいて叫ぶ。


「くそッ!! くそッ!! もういいッ!!! 全部消す!!! 邪魔な奴も、邪魔な過去も、どいもこいつも、ぶっ壊して終わらせる!!!」


「おいおい、急にどうしたコイツ……」


 ヒステリックを起こした魔女ヒルドは、永岡の言葉を無視して頭をボリボリボリボリき続ける。


 次第に皮膚が傷ついて、爪で引き裂いたあとから血がダラーっと流れ、垂れ落ち、そして、その血がポタポタと床に書かれた魔法陣に落ちた瞬間───。


 悪魔が召喚された。


 

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