第47話 今こそ当たりを引く時だ。

 鏡よ鏡、この世界で一番美しいのは誰かしら?


『この者でございます』

「誰!? この女!」

『最近コチラに来られた罪人のようですね』


 魔女は魔法使いの名家に生まれた。


 長い歴史を持つ先祖代々魔法使いの家系。その中でも優秀だった魔女は、誇り高く生きていた。


 そんな魔女が25の歳。両親からの紹介で出会った男は、自分に見合わない不出来な者だった。


 そいつは両親が紹介するだけあって経済的な面では恵まれていた。しかし見た目はまあまあ、年齢は30なかば、性格は穏やかで物静かな感じ。


 とてもじゃないが、自分には不釣り合い。


 歳はともかく身長は180センチ、見た目は桃太郎のように眉目秀麗びもくしゅうれい。名家の生まれでないなら、せめてアストラル魔法大学ぐらいの学歴は欲しい。


 と私は早々に彼との縁談を断った。


 それからも両親は何人か紹介してきたけど全部ダメ。お話にならない相手ばかり。でも大丈夫、私ほどの魔法使いなら、素晴らしい相手がきっといるはず。


 そう私は考えていた。


 しかし、待てど暮らせど私だけの理想の王子様。そんなものは、現れなかった。


 気がつけば40代・50代と年齢だけが増えていく。


 私は正直言って焦った。


 若い男が私を見てくれない。相手にしてくれる男のグレードが年々下がっていく。


 休むことなく研鑽を続けていた私の魔法の研究・技術だけは評価されているのに、素晴らしい私の元に何故かクズばかり。


 これなら最初に出会っていた彼と、結婚してあげれば良かった………。


 でも、私が望んでいた幸せの王子様も、きっとどこかにいるはず────。


 そう考えた私は更に長い間探し続けた。


 そして、ついに! 私の思いは身を結んだ!


 ついに、ついに見つけたんだ!!


 私の求める理想の王子様。

 全てが素晴らしく、全てが完璧。まさに理想。


 そんな王子様を見つけ、喜んでいたのも束の間。


 彼には────婚約者がいた。


 "白雪姫"とかいう若い女だ。


 絶対に私の方が美しいのに、私の方が先に生まれたのに、私の方が強く望んでいたのに……。


 …………奪われた。


 許さない。絶対に許さない。


 私の気持ちを裏切ったあの男も、あのクソみたいな女も、許すことなど出来ない。

 

 そして私は二人を手にかけ、夢を完全に諦め、魔法の道に邁進まいしんしていくことにした。


 夢を諦めても、私が世界一素晴らしく、世界一美しいということには変わりない。


 それなのにこの鏡は、私を一番ではないという。


 忌々しい、白雪姫の次はこの女か。

 どいつもこいつも若い女がいいのか?


 いや、若さなら負けてはいない。魔法と霊薬の力によって、全盛期の美貌を永遠に手に入れた私だ。


 なら何故? いや理由はどうでもいい。

 邪魔者は白雪姫と同様に眠らせよう──。


「「ええ!? あなた誰?」」


「「真似しないで!!」」


「どっちが本物だよ……」

「「私!!」」


 セラルが二人、おそらくどちらかがセラルに化けた魔女だろう。だが、寸分違わない見た目。

 

 どちらが本物か皆目かいもく検討がつかない………。


「「ヒョウドル! 私が本物だよ!!」」


「なるほど……、本物は……」


 まるで答えが分かっているかのように二人の元にゆっくりと近寄る兵藤。その目はスンッと真っ直ぐとした物であり、おそらく100年前からの長い付き合いによって、何か感じる物があったのだろう。


「「本物は?」」


「分からん!!!」

 バコッ!!

「「ギェェッ!!!!!!」」


 全然分かってなかった。


「何するのよアンタ!」

「そうだよ! するなら私だけにして!!」 


「へっ?」

 

「なるほど、こっちが本物か」


 面食らっている偽物とは対照的に、本物は違う理由でプンプン怒っている。


 妻としての喜びを、何故かバイオレンスな方で感じているセラルもセラルだが。それ以上に兵藤はその反応を見てとても微妙な表情をしていた。


「なるほど……あなた達は夫婦なのね……」

「うん!」

「…………」

 

「それがあなた達の愛の力なのね……」

「うん!」

「違います」

 

 はぁ……とため息をつくと観念したのか、偽セラルはシュルシュルと変身を解いていき、元の姿に戻る。


 それはセラルとは似ても似つかない、どちらかというと大人なお姉さんタイプ。つまり俺のストライクゾーン。黒ずくめのザ・魔法使いですって感じの服装に、とても豊満ほうまんなワガママボディ。


 正直、最高です。この世の全てに……。

 いや、あの世の全てに、感謝を…………。


「お前は、魔女ってやつか?」

「いかにも、私は呪いの魔女。名はヒルド」

「なるほど、まあそんな事はどうでもいいんだが……」

「じゃあ聞くなよ」


 魔女はやれやれといった様子を見せながら、よっこらせと椅子に座ってゆっくりと茶を飲みだした。


「ふーっ、落ち着く。で、要件は何だったかしら?」

「【三種の神器】、お前の持っているその鏡をオレたちに寄越よこせ」


 兵藤の話を聞きつつ、ズズッと更に茶を飲んで、ひと心地ついた魔女は、を開けて言った。


「……条件があるわ」


 魔女ヒルドが出した条件。


 それは─────。


「「「王様だーれだ!」」」


「はいはいはい! 俺でーす!!」


 王様ゲーーームッ!!!

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