第46話 夢は詰め込めるだけ詰め込め。

 鳥類・両生類・爬虫類は排泄と出産、それを全て同じ穴で行なう。その穴の名称を総排泄腔そうはいせつくうと呼ぶ。


 蛇も例外ではない。総排泄腔から腸、胃、食道、口へと下から上に繋がっている。


八つ首のオロチも同様で、食道を複数持っているが胃から排泄腔までのルートは一つ。



 つまり、永岡が背後から差し込んだ、それは全ての頭に繋がっている。


 剣を差し込むと同時に放った光。


 それは、ヤマタノオロチの内部を満たし、膨大な力を口先まで伝える。

  

 文字通りの必殺。それほどの手応えがあった。


「やったか!?」 


「永岡殿! それフラグです!!」


 ジューーッと内側から破邪はじゃの光に焼かれていた巨大な蛇。しかし、大蛇は反射的に全ての口を閉じ、風船のように膨むことでその力を抑え込み始める。


「やべ! 仕留め損なった!?」

  

 急激に流れ込んできたそのエネルギーを自身の餌とし、オロチは徐々に吸収し無力化していた。


とそんな時、永岡の隣に。


「これがコイツのケツの穴か?」


 魔剣を携えた兵藤が現れた。


「あ、ああ。でも今さら何しに来たんだ?」

「食材を取りに来た」

 

 竜宮城から大量に持ってきていた食料も残り少なく、酒だけが余ってしまった。


「や~~~」

「お酒重いよー」

「妾が軽くしましょう」


 パリンッ バシャッ 


「何やってんだアイツら……」


 酒の入ったびんたるをオロチに向かって投げているが、そのほとんどは手前に落ちて当たっていない。


「ただの囮役だ。気にするな」


 酒の肴がなくなり、食い意地の権化である兵藤はついに、その重い腰を上げ永岡の元に来た。


 そこに連れられた女3人も桃太郎に守られながら攻撃? に参加している。


 そのおかげかオロチは上手く光の吸収を進められず、膨らんだまま止まっていた。


 そして当然のごとくその瞬間を見逃さない。


「さて、早いとこ殺らなきゃな」


 と言って先ほどの永岡と同じ構えを取り、魔剣の切っ先を穴に向ける兵藤。

 

「おい待て! その構えは俺のひっ──」


「はぁああああああああああああ!!」


 超・必殺──────!


 『千年殺し』!!!


 ◇


 よこしまな力が光となって更に中身を膨らませる。その結果、体の膨張は限界を越え、パンッという大きな音と共にヤマタノオロチは破裂した。


 グツグツグツグツグツグツ…………。


「意外とクセがなくておいしいかも」

「魚と鶏の中間みたいな肉質だな」

「カグヤ殿、僕の肉を取らないでください」

「桃太郎の物は妾の物、妾の物は妾の物」

 

 ジューーーーーッ。


「揚がったよー、食べて食べて」

「兵藤、揚げ物はこの酒が合うよ」

「この黄色い酒は苦い」

「かぁ! キンキンに冷えてやがる!」


 大きな桜の木の下で花見酒。


 害獣ではあったが、腹を満たしてくれるオロチの肉に感謝をしながら味わった。


 それからしばらくして皆がやっと一息ついたと思っていたら、今度はカグヤと桃太郎が決闘を始めだした。


「妾はひ弱ですが神通力じんつうりきがあります、たとえあの"桃太郎"でも遅れは取りません」


「勘弁してくださいよ、話を聞くに僕に落ち度はないじゃないですか」


「はい、逆恨みです。しかしこの恨み晴らさでおくべきか……」


 桃の中でどんぶらこと流されて、勝手に拾われ勝手に育てられた桃太郎は、カグヤのことなど知らない。つまり、桃太郎はこの戦いに付き合う必要はない。


 しかしカグヤは桃太郎に執着しており、どうにかその気持ちを発散しなければ気が済まない。仕方がないと、それに付き合う桃太郎も桃太郎だ。


「はあああああああああああああああああああああああああ!」


「チェストおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


 天才剣士と超能力者の戦いは熾烈しれつを極め、オロチ以上の被害が周りに及びそうなほどに、文字通り天地をひっくり返し、くうを切っている化け物二人。


 空を飛び、遠距離攻撃が出来るカグヤの方が素人目には有利だが、桃太郎も人間離れした肉体によって、スーパーマンよろしく物理法則を無視した動きをしている。


 二人の決着が気になる所ではあるが、戦いに巻き込まれてはたまらない。そのため俺たちはその場を後にし、最後の神器の元に向かうことにした。

 

 最後の神器"八咫鏡やたのかがみ"。


 そのは魔女の住む家。魔女の工房に存在するという。


「よし、じゃあこの勾玉は山田が使ってくれ」


 俺たちは桃太郎から受け取った"八尺瓊勾玉やさかにのまがたま"でその場所まで飛ぶ、もとい瞬間移動することにした。


 神器はめんどうなことに一人ひとり一種類しか使えない。何回か確認したけど、俺が勾玉の力を使うことは出来なかった。


しかし勾玉の使用者が他者と移動することは出来そうなので、そこは安心だ。


「分かった、じゃあ行くよ!」


 バシュッという効果音と共に四人は魔女の工房の近くに移動した。


「へー、大きい建物だな」

「やっぱり建物の中じゃなくて外に移動するのか」

「どういう仕様なんだろうね?」

 

 木造建築の大きな家、工房は家内のどこかにあるのだろう。

 

「お、カギしまってないぞ」


 不用心にも戸締りがされていない家。そして当然のように入っていく奴が一人。

 気が引けるが俺たちも後をつけるように、おじゃまさせてもらった。


「おー、ザ・魔女の家って感じだな」

「そうなの?」


 しばらく進んで奥にある部屋。そこには大量の本が棚に蔵書されており、不気味な花や幾何学きかがく的な魔法陣。他にも水晶や謎の液体が入ったフラスコと鍋、机の上に羽ペンで書かれたと思われる書類が、山積みになっている。


「で、肝心の鏡はどこにあるんだ?」

「ん-、カグヤは工房の中としか言ってなかったからなぁ」

「探したらどっかにあんだろ」


「「もしかしたら魔女が移動させたんじゃないの?」」


「確かに。千里眼で見た後、別の部屋とかに──ん?」


 なんだこの違和感。なにかおかしい。いや、正確にはこの部屋に来る前からずっと何か引っかかっていた。


 俺はキョロキョロとあたりを見渡し、違和感の正体を探した。がしかしこの部屋自体は特に変哲もない。じゃあなんでだ?


「どうしたの永岡?」

「なんか様子が変だな、いつも変だが」


 お前には言われたくない。


「「そうだよ、何かあったなら教えて?」」


 !!????

 

 俺はやっと違和感の正体に気が付いた。魔女の家に入ってからずっと感じていたその違和感の正体。それは────。


「セラル……お前…………」

「「ん?」」


「なんで二人いるんだ?」


 

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