第45話 酒は飲んでも呑まれるな。

 箱を開けたカグヤは、輝くばかりの美しい姫。

 

 輝夜姫となった。


 長い長い夢。幾星霜いくせいそうの時を超え、元の姿に戻ったカグヤは力を取り戻した。


「やったぜ」


 年端もいかない幼い小人から見目麗しい成人女性に。そんな和風美人が親指を立ててニッコリしている姿は中々シュールな絵だ。


「カグヤ、戻ったところ早速だけど神器の場所を教えてくれ」


「もちろんもちろん、今の妾にかかればちょちょいですよ」


 とっても機嫌の良いカグヤ、永岡に言われるがまま神器を探す。


「……────ッ」


「どうしたの?」

「なんかあったか?」


 カグヤが千里眼で見つけたのは八尺瓊勾玉やさかにのまがたま。しかし、その勾玉の場所に問題があった。その場所とは、ヤマタノオロチと現在戦っている戦士の首元。


 そしてその戦士の名は────。

 

桃太郎ももたろう


 おばあさんとおじいさんはその昔、神器を探しながら鬼ヶ島を目指していた。


 しかし二人は弱く、何とか勾玉を手に入れても肝心の草薙のつるぎが見つからない。


 気持ちだけが焦る中、時間だけが過ぎ、二人は10年以上の年月を経て、ついに諦めてしまった。


 そんな二人はお互いの孤独や虚しさを埋めるために慰め合い、何の因果か子宝に恵まれた。


 特にひいでた力もなく、見た目も平凡な女の子。しかし心優しく、クシャっとした笑顔をいつも見せてくれる娘に、二人は救われた。


 自分たちの生きるかて、そんな何よりも大切な宝物。そんな娘が────。


 喰われた。



 身に頭が八つの巨大な蛇。山のように大きな桜の木の下に生息しており、酒と若い生娘きむすめを好んで毎年喰らう害獣。


 そんな大蛇に標的にされた娘は執拗に狙われ、食べやすいように引きずられ、叩きつけられ、丸飲みにされる。しかし、無力なおじいさんとおばあさんでは蛇に太刀打ちすることは叶わず、その恨みを日増しに抱えていった。


 そんな時に出会った桃太郎。


 二人はこの出会いを運命だと感じ、自分たちの手で桃太郎を鍛え上げ、あの大蛇"ヤマタノオロチ"の復讐を決意した。

 

「──という訳で僕に力を貸してくれ!」

 

「嫌です、死んでください」

「死んだ後にその勾玉をいただく」


「お前ら……手伝ってやれよ……」


 カグヤの神通力で空を飛び、俺たちは桃太郎の元に駆け付けた。オロチは多少傷ついてはいるが、元気いっぱい。


猫の手も借りたい桃太郎は、突然現れた俺たちに気が付くとすぐに参戦の打診をしてきた。


「オロチを倒せばこの勾玉、喜んでお渡しします。美しい黒髪の君、何故ゆえ僕を恨んでいるか分からないが、今だけ許してはくれないだろうか?」

 

「ぐぬぬ…………」


 想像以上に桃太郎が真摯しんしで誠実な青年であることに面食らうカグヤ。


「ダメだ、クソ蛇にもお前の意見にも興味はない。はやくよこせ」

 聖人も善人も関係ない兵藤。


「んー、そちらの方はどうでしょうか?」

「おう、俺は元から手助けするつもりだぞ」


「おお! それは心強い。それでは女性達は危険ゆえ遠くへ」


「うーん分かった。私たちがいても邪魔にしかならないしね」

「弓があればなぁ」

「いやぁ残念。オレも斧と魔剣しか持ってないからなぁ」

わらわ神通力じんつうりきしか使えない、か弱い女子おなごゆえ見物させていただきます」


 と言ってかなり遠くにレジャーシートを引き、竜宮城から持参した大量の酒とさかなで宴会を始めた4人。


「……桃太郎、とりあえず作戦を」

「作戦に関しては僕に妙案が────」


 ヤマタノオロチを倒すには八つ首を同時に攻撃する必要がある。一つでも無傷であれば、その首が他の首を癒やしてしまうからだ。


 桃太郎は長年、オロチを倒すための修練と作を練ってきた。しかし実際に対峙し、一人で八つ首を斬るのは至難と痛感。


 そんな時に現れた草薙くさなぎを持った永岡。

 

 作戦は簡単。桃太郎がオロチの首全ての注意を引き付け、その間に永岡が神剣によって倒す。


「この、金目鯛? ウマい」

「アジのフライもお酒によく合うー」

「妾はフグと日本酒が最高と思います」

「あ、鍋煮えたよ」


 言うはやすく行うはかたし。


 オロチは蛇であるが故にピット器官によって熱感知を行い、それを複数の頭によって感知するため全方位死角はない。


「ポン酢を付けて食べるといいよ」

「いやいや、日本男児なら味噌ダレですよ」

「ゴマダレ? っていうのもあるよ」

「オレはニホン人じゃないが、味噌を頂こう」


 しかし桃太郎も歴戦の英雄。昔話の生きる伝説。オロチの猛攻を避けながら脱兎のごとく駆け抜け、流麗な剣さばきによって刃先を当ててゆく。


「あっ、セラル! 箸の持ち方はこうだよ!」

「こう、かな……?」

 

「兵藤様、こちら芋焼酎いもじょうちゅうという酒です」


 その刃先には龍宮城特性のアルコール度数の高い酒が塗られているため、さすがの大蛇も泥酔し始め感知能力を落としている。


 その隙を逃さず永岡は桃太郎が小技を当て続け時間を稼いでいる間に、感知範囲外まで迂回し背後に迫る。


「クセが強いな、この酒」

「セラル、ちょっと飲んでみ」


 "草薙くさなぎつるぎ"それは神の力が込められた神剣。じゃを払い、万物を切るその剣には、特殊な使用方法がある。それは────。


 剣からビームを出すこと。


 神の力、神の光をその剣先から貯めて放つ。その威力は筆舌ひつぜつに尽くしがたく、そこらの魔王なら一発で討伐できるほどの力。


 貯めに時間がかかること、善性の罪人にしか使えないこと、を除けばチートクラスの武器である。


「スンスン、ホントだ臭いね」

「カグヤ、このお酒の名前はなんていうの?」


 差し足、抜き足、忍び足。勇猛果敢に戦う桃太郎。そして、暗殺者のようにスーっとオロチの背後に近寄る永岡。


 そのまま無事にバレることなく、オロチを射程圏内に入れた永岡は、瞬時に息を整え構える。


 そしてある一点に狙いを定め、剣を放つと同時に永岡は叫んだ。


 超・必殺────────。


 『『千年殺し』』

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