第52話 始まりは忘れた頃にやってくる。

 こんにちは、永岡ながおかです。永岡善之助と申します。

 突然ですが、皆さんは霊魂って信じますか? 

 俺は信じます。ていうか俺、死んじゃったしね。


 でも、心残りはない……。


 閻魔を倒して最後の試練を突破した俺と兵藤は、亡者の裁判所。閻魔殿の座の前に立っていた。


「なんでおっさんピンピンしてんだよ」


「はっはっはっ、矮小わいしょうな人間の攻撃など食らうわけがなかろう! 演技よ演技」


「あの、エンマ様……、ケツからめっちゃ血が出てますけど……」

「違うからね、これは持病の痔が切れちゃっただけだから、椅子の座りすぎが原因だから」


 尻どころか背中や頭からも血がドバドバ流れている地獄の審判。


「おほんッ、既に女二人は生き返っている」


「おおっ、じゃあ後は俺達だな!」

 と俺が言葉を返すも、閻魔は渋い顔で口を開く。

 

「ふむ、貴様らは女共と違い普通には戻れない」

「どういうことだ?」


 俺の隣にいた兵藤も、疑問の言葉を投げかける。


「貴様はコチラに来た時に地球を消滅させただろう? それによって、あの世は多くの労力を使わされた。その分の清算がまだだ」


 兵藤が自殺に使った[パプロフの首輪]。


 その爆発は誤作動によって抱きついたセラルだけでなく、範囲を拡大させて地球全体にまでおよんでいた。


 地球の修復や死ぬはずでは無かった者達の復活など、ただでさえ忙しい管理者たちもサービス残業に明け暮れてしまった。


「……いやいや、それ兵藤のせいだから。俺は普通に蘇っていいでしょ」


「ダメだ、お前は裁判の時に浄玻璃じょうはりを破壊した」


「ジョウハリ? ……あっ」


 ◇

 

「ダメだ、お前たちはただの地獄行き。とりあえず鏡を使って刑の重さを決め──」

 バキッ

「うっせぇよ、いいから連れていけ」


 俺は殴った。ツーーと拳から血が垂れ、割れた鏡が赤く染まっていく。

 浄玻璃じょうはりの鏡だっけか、大層大事そうな鏡を、ぶっ壊してやった……。


 ◇


「……………………」

 自分の愚行、その重大な過ちに今更気がついた永岡は押し黙るしかなかった。そしてそんな永岡の気持ちを知ってか知らずか閻魔は話を続けた。


「というわけで、お前達がで蘇ることを罰とする」


 ニヤリと笑う閻魔。その顔は裁判官とは思えないほどに悪い顔をしていた。


 一番嫌な蘇り方? なんだそれ?


「それは────」

「「それは?」」


 いや待て、何か既視感がある。とてつもなく嫌な予感がする…………。


「お前たちをに転生させることだ」

「「……はぁっ!?」」


 兵藤と永岡は同時に気がつき、同時に叫ぶ。

 待て待て待て! それってつまり────。 


「「ふざけんじゃねぇッ!!」」


「俺がこんなクズに────」

「オレがこんなバカに────」


「「なってたまるかッ!!!」」

「ハイズドーーーーーーーーーーーンッ!」


 消え去る意識の中、2つの魂が混ざり合う。


 薄れゆく、記憶の奥深くに刻まれた感覚。

 現世に蘇り肉体を手に入れ、成長し、歴史を重ねて今に至る。そして──────。



 兵藤は宇宙船に乗って地球へ向かっていた。



 そろそろ着く、それにしてもえてる。チキュー人を使ってゲームを楽しもうだなんて、天才の発想としか思えない。


「……………」

 それにしても先程から何か、何か大切なことを忘れているような気が…………。


「……………」

 まあ、気のせいだろう!


 

 ゲームの起動通知が来た! やっと会える!!

 

 あの日の約束を忘れたことなんて一度もない。

 きっとヒョウドルもそうに違いない。

 またみんなで一緒に遊べる!


 ゲームをして、宇宙を駆け巡って、いっぱい食べて、遊びながら暮らしてく。それでもって愛を深めてヒョウドルと結婚……きゃーーッ!!


 子供は何人? どこに家を構えよう?

 ちょっと気が早いかな? そうだ!!


 二人っきりの時間を30年ぐらい過ごしてから子供をもうけよう!


 よしッ! そうと決まれば行動!

 まずはアマノガワ銀河へ行こう!!



 私は大学に入学して、楽しいキャンパスライフを送っている。単位もそこそこに、サークルやバイト生活も充実してる。


 今日は大学の仲の良い友人達と飲み会があるから、午前中の講義だけ受けて昼からはフリー。たしか今回は永岡もいるんだっけ?


 高校時代のみんなにまた会いたいなぁ。

 兵藤とセラルは元気かなぁ?

 ……ん? 誰? 後で永岡に聞いてみるか。


 

 つい最近、新しいアパレルショップが出来たらしい。夕方の飲み会まで、まだ時間はある。


 せっかくだし行ってみるか。


 と永岡は服が立ち並ぶ店内を見て回っていると、その目にはある商品が飛び込んでくる。


「この『ジャケット』……いいセンスだ」


 しばらく物色して見つけたその服は、



 『緑のミリタリージャケット』。



 サイズもピッタリで値段も安い。これは決まりだ。飲み会の時にでも羽織って着て行こう。


 そういえば前に同じ服を着ていた奴がいたな。

 アイツは元気にしてるかな?

 ん? ……誰だ?


「まあ、どうでもいっか!」


 こうしてオレはジャケットを買った。

 そして今日も──生きている。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ミリタリージャケット!!! 南雲ぜんいち @nagumozenichi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説