第51話 理屈は抜きにぶっ飛ばせ。

 平凡な人生を送ってきた。


 特にこれといった才能もなく、本気で熱中したものもない。……いや、野球は結構頑張った。


 でもプロで活躍したいと思うほどでもなく、夢が見れるほど、現実が簡単ってこともない。


 ただ、何も考えていない訳じゃない。


 俺にだって好きなものや嫌いなものはある。我慢や諦めの中で、譲れないこともある。


 その譲れないことが最近増えてしまった……。


 あー、重たい。家に帰って寝たい。

 でも、やるべきことはやらなきゃいけねぇ。


 ……だけどさ、これはダメだろ。


「熱っちィッ!!」


 雲床くもゆかの炎上。灰色の雲海うんかいからマグマのような火柱が吹き荒れる。


「永岡、しっかりして!」


 セラルはこの地獄の炎熱に動じず弓をる。

 が、その矢は閻魔にはまったく当たらず、明後日の方向に飛んでいく。


「どこを狙っている? そんなことでは弓が泣くぞ」

「弓が泣くわけねぇだろ!」

「おっとっとぉ、危ない危ない」


 火の海を避けながら閻魔に近づき、剣を振り続けるも、当たらない。

 一発を放つにしても、このオッサンは早すぎる。


 どうにか動きを止めねぇと…………。


「まさか神剣の持ち主がこの程度とは……。だが油断は禁物『黄泉送よみおくr────』」


 閻魔はドス黒く光る手の平を俺たちに向け、何かを放とうとする──。


「ヤベェ! なんか来るぞ!!」


 それは、あからさまに当たったら終わる何か。

 しかし、攻撃を避けようにも火柱の影響で身動きが取れない。


 動けば死ぬ、動かねば死ぬ。


 絶体絶命、そんな俺たちの視界に、あるものが颯爽さっそうと入ってくる。


「オイラにまかせろッ!」


 聞いたことのある声。それは閻魔の背後から聞こえてきた。


 大きなマサカリをたずさえたオカッパ頭の男。


「なッ! お主が何故!?」

「積年の恨み、晴らしに来ただよッ!」


 ソイツは間髪かんぱつ入れず、ブンッと斧を振り回し、閻魔のアキレス腱を横なぎにぶっ叩く。


「ぐがぁッッ!?」


 予期せぬ攻撃。切断とまではいかないまでも、片足に大きなダメージを受ける閻魔。


 正直言って……助かった。


「良かった、間に合ったー!」

「山田! 起こせたんだね!」

「うん、魔法も解けてたから叩いたら起きた」


 閻魔に一撃食らわせたのは、坂田金時。

 "金太郎"──その人だった。


 そんな金太郎をよーく見ると、ほほがパンパンにれている。どんだけしばいたんだよ……。

 

「ぐ……、小娘がいなかったのは此奴こやつを呼ぶためか……」


「ああ、俺たちだけでアンタを倒せるなんて思ってねぇよ」


 山田は金太郎の眠る魔女の家まで移動し、ココまで連れて来た。


 どうしても、俺たちの他に戦力がいる。


 桃太郎やカグヤでもいいが、あいつらを止めて説得していたら間に合わない。


 だから、このケツ丸出しの男に賭けた。


「だが! この程度ではワシはやれんッ!!」

「『えんm──』」


 そして、さらにもう一人。


 片足を切られても戦意を失わない閻魔。

 そんな閻魔の後ろから、が現れる。



「変身─『限定解除』」



 それは鮮血のような赤い肌、頭に二本の角──。


「よぉ、閻魔。元気か?」

「ッ!? 鬼!? いや違う……誰だ貴様!」


「知るか、あの世で言ってろ」


 その男は閻魔の問いに答えることなく、武器を一閃に振り下ろして斬りつける。

 「いやココがあの──ぐぁあああッツ!!」


 後ろから現れた鬼のような男。


 その男の持つは閻魔の胴体に深い傷を与え、割れた傷口から血を噴出させる。


「まさかその剣は……。何故……何故あのから出てこれた……?」


「頑張ったら出れた」

 

「えぇ……」

 と切られた勢いで態勢を崩す閻魔。それを見るや千載一遇のチャンス! と、永岡は閻魔が兵藤に気を取られている隙に、ふところに急接近し構える。


 ここしかない! 今! ここで放つ!!


「『千年ご────』」


阿呆あほうがッ! やらせぬと言ったはずだぞ!!」

「『炎魔えんま』!!」


 それは全ての亡者を焼き払い、そのばつを刻みつける地獄の炎熱。一度触れたが最後、消えることのない無限の業火。

  

 閻魔大王は態勢を崩しながら、そんな巨大な炎の塊をに放った。


「そっか、閻魔様にもちゃんと……私がんだね」

 

 

 火に燃やされ鏡の力が解けてしまったセラルは、そのまま間髪入れず閻魔の足元に剣を投げつける。


 そしてそこには────。


「おっさん、そろそろ退勤の時間だ」

 

 魔剣を持った悪魔と神剣を持った人間。

 

「や、止めろッ!! 『黄泉送よみおくッ──「おっと、オイラを忘れてねぇか?」


 完全に目線を下に外したその横っ面に、金太郎のフルスイングがぶち当たる。その衝撃から「がぁあッ!!」と更に態勢を崩す閻魔。


 そんな隙を見逃すことなく、二人のバカと鬼畜は写し鏡のように同じ構えをとる。


 その末路は一つ。


「いくぞ兵藤」

「合わせろ永岡」


「待て待て待てッ! 降参だ!! ワシの負けでいッ────」


 悪いな閻魔様、これはバトル物の作品じゃねぇ。

 理屈は抜きにぶっ飛ばす。


 一点に狙いを定めたその一撃は止まらない。

 兵藤、そして永岡の魂の一撃。

 これまでの全てを込めた………。


 超・必殺────────。



 『『千年殺し』』!!!


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