第41話 ゴロゴロする勇気たるや。

 [DOL指数]。この数値が何を表しているのか、知っているだろうか?


 それは人間が感じる痛み。を表す数値である。


 人それぞれで見た目の違いや性格の違いがあるように、同じケガをしても感じる痛みの程度は違う。そんな痛みを尺度化したものが、DOL指数である。


 そして現在金太郎は膝を地面に着き、DOL指数"52"相当の痛みを感じていた。


 この痛みは腕の切断や、時速30㎞の車にはねられる痛みを瞬間的に超える数値であり、さすがの金太郎もこれには悶絶もんぜつ。長い相撲人生の中で初めて、膝を土で汚すこととなった。


「ぐっ……がッ…………」


「よし勝った」


 そしてその様子を見ていた永岡も何故か股間に手を当てており、他のみんなも顔を引きつらせる。

 

 そう、金太郎の[金太郎]は──お亡くなりになった。


『えぇ…………』


「オイラの……オイラの金太が…………」


『……あっ、ちなみに労災は出ないからね』


「…………」

 

 痛みに悶え地面に突っ伏していた金太郎はこの時決意した。


 絶対「この仕事辞める」と─────。



 こうして完全なる反則ではあったが4人は無事に最初の難関を突破。


 目指すは鬼ヶ島。まずは【三種の神器】を集めるところからスタートだ。


 宛のない俺たちは天の声に言われるがまま、まずは近くにある"泉"に向かった。


 肉体や服装はそのままだが、宇宙道具や装備は再現されておらず丸腰の状態。


 かろうじて兵藤が金太郎に勝った特典としてマサカリ。つまり斧を貰ったわけだが、ここはあの世。


どんな敵が出てくるか分からない。早く神器や他の武器も手に入れないと……。


 しかも今回はリトルプラネット以来の4人旅。

 いったいどうなることやら……。


「これかな?」

「結構小さいな」


 しばらく歩いて着いた泉は、家庭用の浴槽3つ分ぐらいの大きさだった。

 

『その泉に誰か石を投げ入れてみて』

「なんで?」

『いいから』


「じゃ、じゃあ私が」

 そういうと山田が近くにあった小石を泉の中に、ポイッと投げ入れた。


 すると、途端に泉が金色の光を放ち、真ん中から丸い陰影が現れ始める。

 そしてその影の正体が、スーッと泉から浮かびあがり────。


「んッん! えー、あなたが落した石はこの"銀の石"ですか? それともこの"金の石"ですか?」


 泉から現れたのは、とても美しい女神のような女性。

 その手には先ほど山田が投げ入れた石とはまったく違う物が二つ。


 この質問・このパターンはまさか…………。


「えーっと、私が落したのはどっちでもなくて……ただの石です」


「ふふ、あなたは正直者ですね。いいでしょう、それではこの金と銀の石を差し上げましょう」


「あ、はい。ありがとうございます」


 山田にその金銀の石を渡した女神さまはスーッとまた、泉の中に消えていった。


「……兵藤、ちょっとその斧を泉に入れてみろ」

「なぜだ? 意味が分からん」

 

「いいから」

 

 不思議そうな表情をしていたが、兵藤は永岡に言われるがまま、ヒョイッと金太郎から貰った斧を泉に投げ入れた。


 するとまたもや泉は輝き、泉のど真ん中から影が現れ、先ほどの女神が再度姿を現す。


 そしてその手に持っていたのは─────。


「えー、あなたが落したのはこの"神剣・草薙剣くさなぎのつるぎ"ですか?」

「それともこの"魔剣・バルムンク"ですか?」

 「なんでだあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」


「えッ、えッ、なんですか急に。びっくりするので大きい声を出さないでください」


「いやいや、女神様。あんた、キコリの泉の女神だよね!? さっきのパターン的に"金の斧"と"銀の斧"じゃないのかよ?」


「なんですかそれ……知りませんよ、そんなの」


「ええ…………」


 美しい女神さまは俺の話を聞いて「なに言ってんだコイツ」という表情で答える。

 そしてしばらくして落ち着いた女神は再度、兵藤に問いかける。

 

「それで、答えは?」

「あー、鉄で出来た斧だ。どちらでもない」


「そうですか、あなたは正直者ですね。それでは先ほど手に入れたこの"ただの石"を差し上げます」

「なんでだあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」


「うわッ、なにッ? またあなたですか……ビックリするな、もぉー」


「『ビックリするなもぉー』じゃねえよ。せめて斧返せよ」


「いやいや、落とした斧の所有権はわたしにありますから。それともなんですか? あなた達の物だっていう『証拠』はあるんですか?」


 なんだこの女神、腹立つ顔しやがって。


「とにかくですね、石も渡しましたし。わたしはおうちに帰ります」


「「「「…………」」」」


 ──チャポンッ


「……あの、帰ろうとしてるのに無言で泉に物入れないで貰えます?」

「おいこらクソ女神。斧返せや」

「斧? はてそれはどこの食べ物ですかね?」


「……とにかく、わたしもゲームとかゴロゴロするので忙しいので、もう物を投げ入れるのはやめてくださいね」


 そしてスーッと泉の中に女は帰っていく─────。


 バシャッ


「「…………」」


「あの……返すので、乱暴は嫌です……」


 再度出てきた女神の両隣にある泉に落された物。

それは────。


 永岡と兵藤。


「あの……ごめんなさ─────」

『ファイアーボール』

「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」



 私は親から絶縁され、見放された。


「ん? おい、なんだこれ!」


 放浪生活を続けていたわたしは、やっとのことで住む泉を見つけ、近場の旅行客が落としていった物を転売したり、海賊サイトの違法アップロードで荒稼ぎし、腹を満たした。


「最低じゃねえか」


 悠々自適なニート生活! 絶対にこの生活を手放さない! もう実家の農作業はしたくないッ! 


 そんなわたしの前に現れた4人の旅人。


 可憐で美しく、そして神々しいわたしから力にモノを言わせ、大事なものを奪おうとしている。


 でもわたし負けない! 絶対にわたしはまっとうに働かないッ!!


「学校なんて行くな! 君も仕事をやめよう!! そうだ!! 社会の壁をぶち壊せ!!!」


「さっきからお前は誰に話してんだよ……」


 それからもキコリの女神は虚空に向かって、社会に対するり方を────叫び続けた。

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