第42話 生きることは美しい。

 女神から神剣と魔剣を受け取った一行。


草薙剣くさなぎのつるぎっていうのは確か【三種の神器】……だよな」


「ほう、ちょっと触らせ──」


 パンッ!


 永岡が持っていた神剣を触ろうとした兵藤。

 しかし、その手は何か見えない力で弾かれる。

 

 他の二人は普通に持てたのに、何故か兵藤だけが弾かれた。


「おーい、天の声。触れないんだけど、これ不良品じゃないのか?」


『それはない。【三種の神器】は罪人にしか扱えないと言ったが、それ以外にも善なる心を持っていないとダメだ。おそらく、お前はソレなのだろう」


「それは差別だ。人を中身で選ぶな」


「人を中身で選ぶのは差別じゃないし、お前はそもそも宇宙人だろ」


 兵藤は気に食わない、という顔をしつつも、結局魔剣を腰に・斧を背中にたずさえた。

 

 ひとまず、この神剣しんけんは俺が持っておこう。


『さて、ワタシの案内はここまで。残りの神器を集め、鬼を頑張って倒してみせよ!』


「ちょ待て待て! 他の神器はどこにあんだ──」


 と質問しても答えは返ってこない。本当に、ここからは手探りでやっていかないとダメなようだ。

 まあ冒険てのは普通はそういうものだから、しょうがない。


 元を正せばここは地獄。


毒の沼地・極寒・焦熱しょうねつ・砂漠など、過酷な環境があってもおかしくない。こっからは本番、気を引き締めないと。


 こうして俺たちは、本当にあてもなく、ひらけた道をまっすぐ進んでいった。


 そしてしばらく歩いていると、一本の大きな木があり、その木陰こかげに何かいた。


「……うさぎ?」


「うさぎだね」

「うさぎってなんだ?」

「結構かわいい、この生き物」


 木陰で寝ていたのは、中型犬ぐらいの大きなウサギ。

 ウサギって桃源郷とか天国とかにいるイメージがあったんだが、地獄にもいるのな。……しっかし気持ちよさそうに寝てる。


「「「「……………………」」」」 


 グゥウゥゥ~~~~~~

 

 グツグツグツグツグツグツ…………。


 煮えたぎった地獄の鍋。


牛や豚というより鳥に近い。斧のつかで骨を砕き、アクを抜き、女神に貰った醤油と味噌で味付け。じっくりと煮込まれたその味は─────。


「うまい!」


「なんでだあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」


「いや、腹減ったし」


 うさぎ鍋。


 若干の臭みはあるが意外と食べやすく、一言で言うなら「うまい」。

 まったくストレスを与えず一振りで仕留め、即座に血抜きした肉は、新鮮でプリプリ。高級な地鶏を食べているような感覚だった。


「この『煉獄』という世界が悪いのだ。肉体を与え、飢えを与えればそれは食うだろ普通」


「お前の普通は普通じゃなけどな」


「はい、ヒョウドル、新しい肉煮えたよ」

「ありがとう。いや、生きるために食う、食うために殺す、自然の摂理だ。少々知能が高いだけで勘違いするな──あッつ!」


「お前もう死んでんじゃねえか。あと食うならゆっくり食え。山田もな」

「あッつ! はふほはべてふほ!」


 兵藤以上にめちゃめちゃ食べてる山田。


 腹の音を鳴らして赤面していた山田。鍋が完成してから食べるのを躊躇していたが、一口食べてからは字のごとく箸が止まらない状態。


 実際、何も食わずに苦しんで動けなくなるよりはマシ。生活に必要なものを一式貰っておいて良かったな。


 ウサギの骨や食べられなかった部分は土に埋め、供養し、意味がないとは分っているが手を合わせた。てか、死んでも埋葬や黙祷するってのはなんか不思議でシュールな絵面だ。


 こうして見知らぬウサギに感謝しながら、冒険を再開した俺たちは1時間ぐらい歩いた所、少し先の道で何かが動いているのに気が付いた。


「んっしょ…………、んっしょ…………」


「あれは……カメか?」


「カメだね」


 ノロノロ前に進んでいるカメ。ものすごく遅いが一歩一歩前進している。 

 俺たちはカメに近づいた。というかカメが遅すぎて、すぐ追いついてしまった。


「おい、カメとやら」

「?。えッ!? 誰ですかアナタたち!」

「オレたちは三種の神器っていうのを探している者だ。何か知らないか?」

「三種の神器……? 分からないです」


 当たり前のようにカメが喋っている。なんでそこに誰も驚いてないの?


「カメさんはどこに向かっていたの?」


「もう少し先にある竹林です。僕はウサギさんと勝負してて、そこがゴールなんですよ」


 話を聞くにこのカメは、ウサギとどっちが先に竹林に着くか早さ勝負をしているらしい。


 ウサギは駆けるのが早く、まったく追い付けなかった。が、それでも一生懸命進んでいると、大きな木の下で休んでいるウサギさんを見つけた。


 これはチャンス! と少しでも差をつけるために休まず進んでいた。所に俺たちが声を掛けてきたそうだ。

 

「カメ、お前は知らなくても知ってそうな奴に心当たりは?」

「う~ん、もしかしたら"乙姫様"なら知っているかも……」


 乙姫ってあの乙姫か? ていうことはこのカメはあのカメなのか?


「その"乙姫"はどこにいる?」


「"竜宮城りゅうぐうじょう"です」


 俺の想像している通りの竜宮城の乙姫様。てことは"浦島"もいるかもな、金太郎もいるぐらいだし。


「その、場所は部外者に教えてはいけない決まりでして──ごめんなさい」


「そうか……」


 グツグツグツグツグツグツ…………。


 煮えたぎった地獄の鍋。


 もうほぼスッポン。斧のつかで甲羅こうらを砕き、アクを抜き、女神に貰った醤油と味噌で味付け。じっくり煮込んだその味は─────。


「うまい!」


「なんでだあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

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