第40話 さあ、やろうぜ。
『山田を救うべく閻魔を説得し、煉獄に落とされた罪人達。右も左も分からぬ中、目を覚ました3人は驚愕の光景を目にする。……はたして、永岡達の運命や、いかに────』
「いや、お前は誰だよ」
空から謎の声が前回の回想をしている中、目の前の全裸男はやっと服を着た。
オカッパ頭に少し小太りなマサカリ
山田を押し出しで負かし、服が脱げたことに気がついて拾って着た。が、その服は後ろの全てが丸見え。「服」というよりただの布。ひし形の赤い布の真ん中に「金」という文字。恐らくこの男は……。
「オイラの名前は"
マサカリ担いだ金太郎。
ここ『煉獄』に送られた罪人はまず、この金太郎との相撲勝負で勝たなければ先に進めないらしい。のだが───。
「
山田やセラルでは大の男に勝てそうもない。
だから俺や兵藤も挑もうとするが、このオカッパ野郎は断ってくる。
元々自然に溢れた山で育った金太郎だったが、つい最近キャバクラにどハマりし、それから女にだらしなくなったそうだ。
「クマのベア子が実家に帰っちまって、相撲は出来ねぇし……。遊びに行く金もねぇってんで暇してただ。そんな時にこんなべっぴんさん達が来てくれて、オイラ嬉しいだ」
「えへへ、そうかな?」
「でも、相撲では全力出してたじゃん」
「そらそうさ、ちゃんとやらねぇと『天の声』さに怒られちまう」
『天の声』? さっきの冒頭で喋ってた奴か。
『こっちは給料出してるんだから当たり前だ。社会を舐めるな!』
「うわッ、また空から声が……」
またしてもどこからともなく声がする。
ボイスチェンジャーで高音に変えたような声。そんな声が鳴り響く。
『ワタシは罪人達をサポートする"天の声"。煉獄に来たばかりのお前たちに少し説明してやろう』
ここ『煉獄』は地獄の最下層・
特殊な死に方や特殊な方法で来た罪人が来る場所であり、罪に対する罰として生前の肉体を与えられている。
天国では肉体ではなく霊体で生活するため、痛みも苦しみもなく、病気にならず飢えもしない。しかし地獄行きの罪人は飢えも苦しみも全てがそのまま。
「言いたいことは分かるけどよ、じゃあこのオカッパとの相撲はなんだ? 罰ゲームか?」
『まあ早まるな、話には続きがある』
『煉獄』はそもそも死後の世界を運営する最高責任者が作った実験場。
が、提案してきた"上"が途中で飽きてしまい計画は
しかし、そんな場所に目につけた者達がいた。
それは地獄の管理者側である鬼達。
非常に屈強な鬼たちは地獄でも重宝され、死後の世界なのをいいことに無限に仕事を押し付けられていた。しかしいつしか、そんなブラック労働を嫌気が差したニート鬼たちは徒党を組み始め、『煉獄』に閉じこもって地獄をボイコット。
その鬼たちは『煉獄』のどこかに存在すると言われる『鬼ヶ島』に引きこもっている。
「鬼も大変なんだね…………」
「死んでも働かせるなんて、鬼畜だ…………」
しかし運営側、つまり会社も黙っていない。
退職届も出さず、仕事の調整もせず、勝手に逃げ出すなんて許さないぞ。と、煉獄から連れ出そうとした。が、『煉獄』に存在する願いを叶える秘宝によって、それは拒まれた。
「なんだそのトンデモ設定は」
その秘宝は本来『煉獄』に落とされはしたが、人格的に善性な者を拾い上げるための救済処置。
その救済システムが仇となり、鬼たちに秘宝を利用され、他の管理者たちは立ち入りを禁止されてしまった。
そのため我々は手が出せない。
そこでココに来た罪人達に鬼ヶ島にいる鬼たちを倒してもらうべく、元々の住人である金太郎を雇い、強き者を選別してもらっている。
「なるほど……ん? それなら金太郎に倒してもらえばいいじゃん。こいつ、熊に相撲で勝てるぐらい強いし」
「それは無理だ。オイラじゃ勝てない」
「なぜ?」
鬼たちを束ねている"ヤマラージャ"と呼ばれる特殊な鬼は、普通の攻撃では傷一つつかない。
そんなヤマラージャに対抗するには『煉獄』に存在する【三種の神器】と呼ばれる道具を使うしかない。
しかしその三種の神器は、"上"のクソ設定によって罪人にしか扱うことが出来ないようになっている。
「だから金太郎ではなく、俺たちにってことか」
『イエス』
鬼達を倒せば秘宝を使って晴れて『
見事にハッピーエンド。
俺たちに他の選択肢はなさそう。
「でもよ天の声。金太郎が男とは相撲したくないって言うんだよ」
『う~ん、金太郎くんさぁ。気持ちは分かるけど……仕事だから、ね?』
「なら、オイラ仕事やめるべ。オイラも鬼ヶ島に引きこもるだ」
『待って待って嘘嘘! 金太郎くんは男とはしなくていいから!』
「このクソ上司、立場弱過ぎんだろ」
セラルと山田じゃ勝てないのは事実。
どうしたものか…………。
「仕方ない、それならオレと相撲とやらをしよう」
「は? おい兵藤、話を聞いてたか?」
「そうだべ、オイラは男とは相撲取らねえだ」
「何を言っている? オレは女だ。それとも何か? 金太郎ともあろう男がまさか、人を見かけで判断するのか?」
「そ、そんな訳ねえべ!!」
なるほど考えたな兵藤。確かに股間を直に確認しない限り性別なんて分からない。
しかも最近は性別がどうとか、同一性がどうとか、批判するのが厳しいご時世。
「そうだぞ兵藤、金太郎がそんな奴な訳ないだろ。あ、ちなみに俺も男じゃなくて女(元)だからいいよな?」
「も、もちろんだ! よ、よし分かったべ! 全員と相撲するだよ!!」
こうして我々女性4人(?)は、改めて相撲勝負に挑戦。
「んで、誰から相手すればいいだ? そこの緑の服の奴け?」
「いや、先にオレだ」
「兵藤大丈夫か? お前相撲のことよく分かってないだろ」
「ああ。だが相手を枠から出すか、手を床につけさせれば勝ちなのは理解している」
土俵に全身タイツの男と後ろ丸出しの男。
力士の恰好も特徴的だが、コイツ等もなかなか負けていない。体格的にはそこまでの差はないが、経験の差は圧倒的。いったい兵藤はどうするつもりなんだ…………。
「んだば、そこの小さい子。始めの合図を頼むべ」
「えっ、私? んーと確か……」
『はっけよ~~~い』
二人の男が見つめ合い、雌雄を決する。少し前屈した体と土俵についた握り拳。重心を大きく落とした足腰が、その瞬間を今か今かと待っている。
そして今。
『のこった!!!』
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