第3話 大切なモノはそこにある。
兵藤の投げたチョコレートは空高く放物線を描き、吸い込まれるようにスッとキングスレイムに飲み込まれていった。
「何してんだ馬鹿ッ! 動物園のエサやりコーナーじゃねぇぞッ!」
「永岡、見て……スレイムの色が」
山田の声に促された俺はチョコレートを飲み込んだスレイムを見た。
青いゼリーのような姿だったスレイムは、焦げ茶色に変色しチョコ餅のようになっていた。
「いやなんでだよ」
「きっとチョコを吸収したことによって
[キングチョコレートスレイム]になったんだわ」
だからなんだよキングチョコレートスレイムって。
「それより、フェンリルンの様子もおかしくない……?」
先ほどまでスレイムに噛みつき、体を捕食していたフェンリルンも動きを止め、苦しそうに唸っている。
「なんでアイツがダメージ負ってるんだ?」
「伝説級といっても所詮は犬っころ、玉ねぎやチョコは毒になるんだろ」
「! 兵藤、まさかそのことに気づいて……」
「いや? 普通に投げたら面白いかなーって」
なにが面白いかなーだよ。普通に死ねよ。
「でもどうすんだ? いくら弱っても俺達じゃ倒せないぞ」
スレイムはほっといても倒れそうだが、フェンリルンはもうひと押し足りない。
俺たちに装備はない。そもそもこういうのはチート武器を得た奴や、チート能力を手に入れた奴が倒すものなんだ。
俺たちの中で武器を持っているのは弓矢のあるセラルだけ。
「私が持ってる弓矢はフェンリルンにダメージを与えられないと思う」
「どうすんだよ兵藤? こっからの作戦……あれ? どこ行ったアイツ」
「見てあそこ!」
兵藤は気がづくと、フェンリルンの顎下まで移動し、そして下から思いっきり殴りかかっている。
いくらチョコで弱っているとはいえ、あの化け物を倒せるわけがない。
──おいおい、死んだなアイツ。
と思っていた時期が僕にもありました。
思いっきり殴られたフェンリルンは下から突き上げられた勢いと共に、宙に浮き、体操選手よろしく何度もグルグル回転しぶっ倒れた。
いやいや、お前普通に強いんかい。なんでチョコを投げた?
「すごいすごいっ! スレイムとフェンリルンを倒しちゃうなんて!」
魔物を倒した兵藤の元に駆け寄った俺たち。
伝説級の魔物を倒したことに興奮し、セラルはぴょんぴょん跳ねている。
「それよりも食うぞ」
「へッ?」
その発言に、飛び跳ねていたセラルもピタリと止まり不思議そうな顔を見せる。
「犬畜生は無理だったが、オレたちはチョコを食っても問題ない」
犬畜生って……お前はド畜生だろうが。しかしスレイムチョコレートか……。食えはするだろうが、やっぱり気が引ける。
「さすがに食べるのは嫌だな」
「?、何を言ってる。お前の担当はこの不味そうな犬の方だ」
「あの世で言ってろクソ野郎」
スレイムチョコは意外と
フェンリルンは解体し、素材を魔法袋に入れ保存した。これを街で売ればかなりの額になるそうだ。
危機を乗り越えた俺たちは森の奥深くに進んで歩いていた。この森はかなりデカく、何も知らない者が踏み込んでいたら確実に迷っていただろう。
俺たちはセラルの案内もあって、かなり順調に進めていた。
森を抜けた先、街の関所まであと20分ぐらいで着く。はずだったのだが……。
「げっ、アイツらは……」
歩いている途中にふと俺は隣を見ると、ゴブリンの集団がいた。様子からして何かを探しているようだが……。
「あれは[ゴボリン]だね、どうしたんだろ? ちょっと行ってくる」
「おいおい、行ってくるって大丈夫なのか?」
不用心に向かおうとするセラルに声をかけたが、キョトンとした顔をしている。
「?、ゴボリンはとても温厚な生き物だよ?」
「えっ?」
そう言うとセラルはゴボリン達の元に駆け寄り、当たり前のように話している。少しだけ表情が暗くなっているのが気になったが、無事に戻ってきた。
「どうだった?」
「あのゴボリンたちは同胞がヒューマに魔法で焼き殺されたらしいの、それでその犯人を探してるって……」
ゴボリンと呼ばれるあの緑色の肌をしたゴブリンに似た生き物は、基本的に穏やかに暮らしている。
他種族と関わりを持つことも少なく、ましてや自分から襲うなんてことはない。
そんなゴボリンも同胞を殺された時にはかなり凶暴になり、過去には体の原型を保っていない状態で発見された者もいるそうだ。
「ねえ、永岡……」
話しかけるな山田。やめろ、その先は言うな。
そうだ田舎に帰って畑を
山田と一緒に
「私たちが会ったゴブリンって……」
「やめろおおおおおおおおおおおおお!!」
「はぁ……なんでそんなことを」
ごめんセラル。本当に知らなかったんだ。
「なるほど、そんなことがあったのか。最低だな永岡」
お前に言われるとなんか腹立つな。
「どっちにしても見つかるのはマズいね、隠れながら直ぐにこの森を抜けよう」
「そ、そうだな!」
なんて心強い仲間なんだ。俺の罪を知ってもなお見捨てない。
そうか、これが[冒険]……か。
「とにかく音を出さないように慎重に動いて」
ゴボリンは目が悪く、同族以外は服装でしか判断できない。
そして知能が低いため声の判別も難しい。しかし耳自体は良く、かなり遠くの音まで聞こえる。
ん?……かなり遠くの音まで?
「見つけたゴボおおおおおおおおおお!!」
「「「ゴボおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」」」
俺たちは気がつくと、既にゴボリン達に取り囲まれていた。どうやら先ほどの俺の叫び声が聞こえていたらしい。
いやギャグですやん、ノーカンですやん普通。
あっ、目が合った。目がバッキバッキに見開いているゴボリンと目が合ってしまった。
「こいつゴボぉ! この緑の服……間違いないゴボッ!」
げっ、服脱いどけば良かった。くそっどうする……。
「ね、ねえゴボリン達。このヒューマも悪気があったわけじゃないの」
「悪気がなくて殺すなんてどんな状況ゴボッ!」
「うっ……それは……」
ゴボリンの言う通りだ。セラルごめん。
「そうゴボぉ、すぐに細切れにして食べるゴボ」
おい兵藤、語尾を変えればバレないと思ったか?
てめえを細切れにするぞ。
「庇うってことはお前たち、この男の仲間か? それならお前たちも同罪だ」
「どうなんだ? お前たちは仲間なのか?」
短い間だったが、コイツらは既に俺の大事な仲間たちだ。
この状況もきっと切り抜けられる。4人の力を合わせれば……きっとホブゴボリンにも勝てる!
「「「違います、知らない人です。この人」」」
────俺に仲間はいなかった。
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