第4話 正面がダメなら横から殴れ。

 前略お母さん、元気にしていますか? 

 僕は今、ゴボリン達にリンチされています。

 へへっ、命って大切だよね。

 みんなで知ろう……命のとおとさ。


「ぐはぁッ!!」


 腹をこん棒で殴られて俺は吐血した。

 さっきから投げられている石もかなり痛い。

 頭から何かが垂れてきた。トマトジュースかな?


「このままじゃ永岡が死んじゃう……」


 私たちはゴボリンに捕まった永岡にこっそりついていった。


 集落しゅうらくに連れ去られた永岡は、村の中心にある木になわで拘束され、ゴボリンの集団にキャンプファイヤーのように囲まれていた。


「まずいよ、どんどんゴボリン達も興奮してる。急がないと」

「急ぐって言ってもどうするの? あの数を倒すなんて無理だよ」

「そうね……ねえ兵藤、どうにか──あれ?」


 兵藤の姿がない……まさか本当に逃げた? 

 ありえる、平気で逃げそうだもんアイツ。


「と、とにかくもう少し近づこう。どうにかチャンスをうかがうしかない」

 

 セラルに言われ、草木をかき分けながら私たちは村に近づいていた。


 ──とその時、


「貴様ら、何をしている」


 私たちは後ろから何かに声をかけられた。


「あ、あ、あ……」


 大きさ180はあるだろう体格に、言葉遣い。

 

 あの時の───ホブゴボリン。


「いやぁ~違うんですよ、私たち道に迷っちゃってぇ〜」

「そうそう、別にヒューマを助けようとか思ってないよ?」

 バカ、それは自白してるようなもんだよセラル。



「そうか、それじゃあ早く街に向かおう」

「「へッ?」」

 

 私たちの目の前にいるホブゴボリンは自分の後頭部を引っ張った。

──そして顔の皮がズルッとすっぽ抜ける。


「「兵藤!」」



 ~~~5分前~~~


「しかし、さっきの奴ら怪しかったな」

「そうゴボか? 仲間じゃないって言ってたゴボよ」


「少し気になる。オデはアイツらを探してくる」  

「お前たちはオデが戻るまで、ヒューマを死なない程度に痛めつけておけ」


「分かったゴボッ!」


 草木をかき分けセラル達を探すホブゴボリン。


 しばらく捜索していると何やら物音が聞こえてきた。


「ふぅ、なんとか離脱できたな。永岡がどうなろうがどうでもよかろうに」

 兵藤は普通に一人で逃げていた。


「貴様はあの時ヒューマと一緒にいたタイツ!」

「ん、お前はゴボリン共の頭目だな。どうした?便所か?」

 おっ、こいつ仲間を連れてないな。


「やはり貴様は怪しい! お前はここで捕まえる」

「おいおい、善良さが二足歩行で歩いているようなオレが怪しいって?」

「なにが善良だ、悪そうな顔してる! オデの勘は当たるんだ!」


「正解」

 瞬間──兵藤はゴボリンの背後をとって首を絞め、的確に頸動脈をふさいだ。


「な……なんだ……意識が……」

「心配するな、お前の身体は供養した後に有効活用してやる」

「────ッ」



 ──という訳でホブゴボリンの皮ごと身ぐるみをいで着ていたんだ。


「えげつねぇ……」

「かっこいい! ゴボリン姿も素敵だよ!」


 セラル……あなたは早く目を覚まそうね。

 普通に血まみれだからね。普通に倒すだけでいいのに皮剥いで着てるからね。


「さて、オレは永岡のところに行ってくる」


「そっか、それでゴボリンのフリを……」

 兵藤は永岡を助けるため、ホブゴボリンとして振る舞い、あの村に潜入するつもりなんだ。


「?、ああそのつもりだ」


 こうして堂々と村に向かった兵藤。


「おお戻って来たゴボ! 遅かったゴボね」

「ああ、魔物に襲われてな」

「なるほどゴボ、だからそんなに返り血が」

 

「うぅ……やめっ……ガハッ」

「「「うるさいゴボ!」」」


 絶えず痛めつけられている永岡。

 早く助けてあげて兵藤!


「おい、そのこん棒を貸せ」

 ん? なんでこん棒を……。


「死ねえええ! ヒューマぁああああッ!」

「ぐあああああああああああああああああああ」


「「「うおお…すげえゴボお頭! そんなに容赦なくぶっ叩くなんて!」」」

 何やってんだお前ええええッ!!!



 ──こうして兵藤はゴボリン達と喜々として暴力を振るい、大いに楽しんだ。

 なんであの人ゴボリンたちと溶け込んでるの?

 なんで平然と永岡ぶっ叩いてんの?


 なんて思っていると、少し離れた場所にいたゴボリンが叫ぶ。

「大変ゴボぉッ! 森が燃えてるゴボおおおおおおおおッ!!」

 

 気が付くと村を囲うように森全体が燃えている。おそらく兵藤が事前に仕込んでいたのだろう。


 私たちはチャンス! と思い火事に気を取られているゴボリン達の横を通りすぎ、急いで永岡のもとに駆け寄った。


「ひゃっはぁああ死ねえええい!」

「ぐわぁあああああああああああああああ」


 まだやってるしこの人。


「助けに来たよ永岡!」

「や……山田、それにセラルまで……」

「ちッ、もう来たのか」


「は?」

兵藤は皮マスクを外し永岡に正体をばらした。

 

「お前ッ兵藤! 兵藤だったのかッ!」


「ああ、お前を助けるために変装していたんだ。ごめんな、ちゃんと痛めつけないと正体がバレると思って……」

 嘘つけ、絶対楽しんでた。


「そうだったのか……俺のために……うぅ」

 あぁこの人頭殴られすぎてバカになっちゃった。


 ──こうしてゴボリン達が火災に気を取られている隙に永岡を助け出した。ゴボリンたちは消火活動に必死だ。


「おい、助けてくれたのはいいけどよ。めっちゃ集落も燃えてるんだが」


 火災は森の木々から村の家屋など、建物全体に燃え広がり、明らかに過剰に燃えている。

 

「中途半端にやったら救出確率は落ちるし、作戦がバレた時の足止めにならない」


「いや、でも他に方法はあっただろ……」


「確かに他にもあった……が、一番可能性の高い手段を使わないと永岡が危険だと判断したんだ」


「兵藤……」


「それに────」

「それに?」


「こっちの方が面白いだろ?」


((コイツやっぱりロクでもねぇッ!!))

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