第5話 金は大事だが服装はもっと大事。

 森を抜けた俺たちは始まりの街ハジマルに着いた。そして、関所の門番に止められていた。

 

「おい、そこのお前。なんだその血は?」


 兵藤はゴボリンの皮を脱いで全身タイツ姿に戻っていたが、返り血が大量についている姿は誰の目から見ても怪しい。


「いやぁ、俺たち森で魔物に襲われちゃって、これはその返り血なんですよ」

「……まあいいだろう。身分証か通行証を出せ」


 この世界ではギルドカードなどの身分証を出すか、通行証を使うことで関所を通ることが出来る。

 通行証はフリーパスでいつでも関所を出入りでき、身分証は徴収される額が安く済む。



「なんだ持ってないのか? なら割高になるが通行料を出せ」


 俺たちはこの世界に来たばかりで金を持っていない。セラルの手持ちの金も少なく足りていない。


「ごめんなさい、今手持ちがなくて……」

「ならダメだ、出直してこい」


「いやダメだ、通せ」

 どうしたものかと俺たちが悩んでいると、兵藤がドスドスと前に出てくる。


「なんだ貴様、金がないなら通せんぞ」

「ふん、金はないが……」

「金はないが?」


棍棒こんぼうがあるッ!!!」

 バンッ!


 え?なんの音かって? ふっ……門番が吹っ飛ばされた音さ。


「何やってんだてめぇッ!!」

「いやだって、ムカつく顔してたし」


「きっ貴様らッ! よくも……捕えろぉ!!」

 異変に気付いた他の門番や警備兵が5~6人集まってきた。が。

 

 ドカッ─バキッ─グシャッ─ドガガッ──


「ふう……よしっ、これで全部だな」

 兵藤の足元には撲殺された門番達が積みあがっていた。

 

「ひ……ひでえ……」

「はっ……はやく治さなきゃっ!」

 山田は顔を真っ青にしながら、治癒の力で門番達を急いで癒す。


「なにしてんだお前らー、早く入るぞー」

 

「「「……………」」」


 こうして俺たちは気絶した門番達を後にし、街に入った。マジでごめん。後でお金持って謝りに行くから。

 とそんなこんなあった俺たちは街の中心部で、あるものを見て立ち止まっていた。


「なんだコレ」


 街に入って真っすぐ進んだ所にある広場。

 その広場に大きく目立った銅像が立っている。


「これは勇者の像だよ」

 この街は勇者が冒険者になった街。つまり「はじまりの街」として勇者の偉業を称える像が建てられている。


 二つの角と長い尻尾を持ち、髪を腰までたずさえている勇者。見た目からして人間ではなさそうだ。──そんな立派な像だか一つ気になることがある。


「なんで勇者まで全身タイツ着てんだよ」

「?、一般的な服装だと思うけど」


「全身タイツって普通なのかよ……」

「私、さっき道端で着てる人見た……」


「まあ、異世界だしな。服装の価値観が違っててもおかしくはないか」

 この世界の住人は中世ヨーロッパ風の服から現代のデザインまで様々な服を着用している。おかげで俺たちは服装で周りから目立つこともない。

 

「服はいいから、とりあえず換金所に行こうよ」

 

 冒険者は討伐クエストなどで素材を証拠としてギルドに提出するが、採取や素材入手クエストなど、依頼主に渡す場合以外は後日冒険者に返される。


 そのため素材は武器や防具・道具などの作成に使うか、素材換金所で換金してもらうのが一般的とのことだ。


「一人金貨20枚か、結構もらえたな」


 こうして換金所でフェンリルンの素材を売ったことによって、俺たちは金を手に入れた。

 金貨一枚は日本でいう一万・銀貨は千円・銅貨は百円ぐらいだ。


「お金はいくらあっても困らないからね」

 確かに、今後いつ何が起こるか分からないしな。 


「一緒にお菓子とお金を持って謝りに行こうね」

 とセラルは兵藤に優しくさとすが───。


「謝る? 誰にだ?」


 俺たちは門番の元に菓子折りを持って行った。

 がしかし門番たちは不思議そうな顔をしていた。


「「「なんのことだ?」」」


「さあ? オレにもさっぱり」

 お前は黙ってろ。


 ぶっ飛ばされた影響か、その前の記憶が全員無いらしい。

 ケガも山田が治していたので訳が分からないといった様子。怒りを買ってなくて良かった……。



 こうして事なきを得た俺たちは今晩泊まる宿を見つけ、一階にあるロビーで作戦会議をした。


 話し合った結果、夜まで時間があるのでとりあえず、道具や装備を揃えることに。



 そして街を探索するため、各自解散した4人。



 そんな中、セラルと兵藤は大通りを二人仲良く並んで歩いていた。


「ねぇねぇ兵藤、あのアイス美味しそう!」

「…………」


「あっ、お洋服屋さん! 入ろう!」

「…………」


 兵藤は不満そうな顔をしつつも、セラルに引っ張られ服屋に入店する。


「ふむ……」

 このマントなかなかいい。オレの服は夜に目立ちはしないが、昼間は目につく色をしている。


 日中の戦闘のために迷彩柄や雪山・砂漠を想定した白や黄色の物を買っておくべきか……。


「マントが欲しいの? なら、コレが似合うよ」


 セラルは赤いマントを手に取り、広げて見せてきた。返り血を隠せるのは良いが──かなり目立つ。


「却下だ」


「ええー、いいと思うけどなぁ。あっ、そうだ。買ってあげようか?」


「採用」


 その後、店内を物色していた二人は同じピアスを片耳につけて出てきた。


「お揃いだね……えへへ」


 突然装飾品のコーナーで喚きだしてピアスを買ったと思ったら、オレにもつけろと言ってきたのだ。


 何がいいのやら。この世界に寒冷期があった場合は金属による凍傷の危険もあるだろうに。 


「ね? 結構かわいいでしょ」

 髪を後ろに流して片耳を見せてくるセラル。まるで親に褒めてほしい子供のように見つめてくる。


「ふむ、確かにこのピアスのデザイン。よく見るといいな」


「でしょでしょっ!」

 ピアスは細長いひし形のかざりがぶら下がって、先端が鋭利になっていた。


 このピアスは近接戦闘時、武器がない時にはとても有用だ。上手く敵の首元に突き刺せば頸動脈を損傷させ絶命させることも可能だろう。


 しかし片耳だけ──スペアがないというのは心もとない。そうだ、コイツも同じ物を持っているのだから、引きちぎってオレのスペアにしよう。


「ひゃっ‥‥なに?」


 ピアスを引きちぎろうとしたオレの手は、セラルの耳に当たってしまった。 


「いやピアスをだな」


「あっ──そうだよね、ピアスを触ろうとしただけだよね」

「ごめんね、変な声出して……。耳はちょっと弱いかも」


 エリフは耳が弱いのか……良いことを聞いた。

 今後エリフを拷問ごうもんする時があれば耳の肉を削ぎ、神経を直接触ってやれば苦痛を与えられるな。


「ん? どうしたの?」


 ……しかし、コイツはさっきからニコニコしていると思ったら、急に顔を赤くしてモジモジしだしたりと変な奴だ。先程から付いてくるなと言っても、隣を歩いて何故かオレの手を握ろうとしていた。


 おそらく──頭がおかしいのだろう。


「……兵藤?」

「他に弱いとこはあるか?」


「えっ? う、うなじ……かな」


「ひゃっ……もう……」

 触ってみたが首が弱点なんて当たり前だ。


「ねぇ……、ココも触ってみて」

 首に触れていた兵藤の手を掴み、そのまま手の平を胸に誘導するセラル。


「分かる?……心臓がドキドキしてるでしょ?」

 たしかに脈が早い。よく見ると顔が赤くなっているだけでなく、目がトロンっと座って汗も少しかいている。


 まさか……こいつ。


 まさかコイツ病気か!? 不味いぞ……、未知の病原菌を保有している可能性もある……。


 ただちにこの場を離れなければ!!


「ねぇ、兵藤……ちょっと早いけど先に二人で宿に……あれ?」

 キョロキョロと辺りを見渡すセラル。しかしどこにも兵藤はいない。一瞬にしてその姿は消え去った。


「急げッ!」

 危ない! まだセラルにれてから数分。消毒すれば……間に合う!


 その日、マントとピアスを身につけた男が街中で爆走する姿を──多くの者が目撃した。

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