第36話 必殺技は大きく叫べ。
巨大な怪物と化し、暴れ狂うリダン。
オーパーツ宇宙軍はなんとか応戦するも、全て返り討ちにされてしまう。
遥か太古に存在した【怪獣】と呼ばれる超巨大生物。それは、宇宙に知的生命体が生まれる遥か昔、生態系の頂点に君臨していた。
しかし
悪い意味で目立ち過ぎた彼らは結果として全ての種が滅亡。しかし、奇跡的な状態で肉体を保っていた遺体が近年発見。
その力は現在の宇宙生命体では到達不可能なレベルであり、そのことを知ったテロルは裏から手を回し、遺体の独占に成功。
そして現在、リダンはその力をテロル星人の強靭な肉体と掛け合わせることによって更なる高みへと到達した。
「ふははは! 素晴らしい! 素晴らしいぞこの力!」
「我が祖国の知と、太古から与えられし暴力!!!」
オーパーツの防御システムや向かってくる戦闘機を次々に破壊していくリダンは、完全に吹っ切れていた。
本来ならば侵略先の資源や施設は出来る限り残存させる。手に入れた時の利益を残すためだ。
しかし、怪獣化したリダンは当初の目的を忘れ、怒りの感情のままに手段を優先していた。
「来い兵藤! 星を完全に破壊する前に、お前を始末してやる!!」
リダンは肉の中で考えていた。
なぜアイツは最初からあの姿で戦わなかったのか────。
変身を使う用途は本来、他種族と交流を図るためや自身の正体を隠すため。しかし、奴にはおそらく他にも理由がある。それは自身を弱くするため。
高次元存在である奴が自由に遊ぶには、あまりに我々は弱すぎる。だからこそ自身の姿を見ただけで死ぬような、我々と同じ存在になった。
それがお前の弱点。
変身したお前は『テロル星人』や『チキュー人』と同じ存在。つまり同じ強さとなる。変身を解かない限り、元がどんな存在であろうと殺せる生物へと弱体化するはず────。
「どうした? 早く来い! さもなければ…………」
リダンは触手からエネルギーの球を勢い良く放ち、自分たちのアジトがあったオーパーツ衛星を見せしめに粉々に破壊する。
「お、終わりだ……俺ついに死ぬんだ……」
「諦めちゃダメ! まだきっと方法はあるよ」
「ヒョウドル、最後の思い出にキスを───」
「アイツ食ったら
「「「えッ?」」」
最強の生命体となったリダンを見て絶望していた3人であったが、体を動かしてお腹が空いてしまった兵藤を見て、思いだした。
そうだよ、これまでの旅だって何とかなったじゃないか。全部原因はコイツだったけど、解決したのも全部、このマッチポンプクソ野郎だ。
「兵藤、食う前によ、倒す方法はあんのか?」
永岡が問うと、兵藤は答えるまでもない。という表情で何かを手に取り出す。
ルービックキューブのような幾何学的な模様のガジェット。
そんな小さな箱を取り出し、兵藤は自分の頭より高い位置に掲げて呟く。
「パスコードF・【デウス・エクス・マキナ】起動」
瞬間──兵藤の手元にあったはずの箱は、空中に浮かび上がり、バラバラに散る。
『オープンコード・承認』起動プロトコル開始。
【対象者】[ヒョウドル・アルカディアス]
機体生成──開始。
宙を舞っていた部品は、分裂・増幅・形成を繰り返し、そのまま兵藤の体を覆って更に巨大化していく。
その大きさはリダンと同等。ついには500mを優に超える姿となって、現れたそれは────
『魔人変形【デウスエクスマキナ】ver1.0!!』
現れたのは巨大な人型機体。
【デウス・エクス・マキナ】。
それは、ボット星人が蒸発する前に作り出した最高傑作。操縦者に合わせその姿を変え、生命エネルギーを動力として吸収する変わりに、絶大な力を発揮する諸刃の剣。
ボット星人は肉体を完全機械化してしまったため、まったく使用することが出来なかったが、テロル星人の兵藤が使えば鬼に金棒。兵藤にゴボリン棒。
「その程度のことで、
機体に乗って姿を現した兵藤に対し、恐れる様子もなく対峙し攻撃を加えるリダン。しかし、兵藤は攻撃を食らいながらも突進し、その懐に入って首根っこを掴む。
そして首をガッツリ掴んだまま、兵藤は先ほどの戦闘と同じように星の制空圏外まで飛ぶ。
「ぐが! 離せえッ!!!」
まずいまずいまずいまずいまずい!!!
このまま周りに何もない虚無空間まで飛ばれてしまったら、コイツは迷わず変身を解除できる!
それはなんとしてでも防がねば!!
リダンは背中から生えた全ての触手を兵藤に向かせ、衛星に放ったものと同じ光球を0距離で放つ。
超高熱のエネルギーは着弾と同時に機体の表面を気化させ、黒い煙を巻き起こす。が、それでも首を掴んでいる手は離れない。
「くそッ! 遊びはどうした? こんなんで楽しいか!?」
「何か勘違いしているようだが、オレは変身を解くつもりはないぞ」
兵藤はそう言うと、先ほどまでガッチリと掴んで離さなかった手を解いた。
「どういうつもりだ?」
そもそも、兵藤の目的はセラルの奪還とタイムマシーン。オーパーツ星が滅びてしまってはそれは手に入らない。始めた遊びはきちんとしたい。だから変身も解かないし、欲しい物は手に入れる。
「おい、聞いてるのか!」
しかし、変身状態の自分の力だけではコイツを仕留めることが出来ないのも事実。さて、どうしたものか……。とリダンのことを無視していた兵藤。
しかし、そんな兵藤に天啓が舞い降りる。
「そうか……その手があったか……」
「??????」
機体の操縦席の中でパラパラと説明書を読む兵藤。
完全に自分を無視して隙だらけな兵藤に、リダンは千載一遇のチャンス。とばかりに攻撃を加えようとする─────が。
「消えた…………?」
高精度望遠機からも突然姿を消した機体。
オーパーツ星から見守るしかなかった3人にも、何が起きたのか理解不能であった。しかし、それはすぐにやってくる。
『転移座標・セラル』
ガシャンッ! と周りの建物を破壊しながら着地する巨大な機体。
その爆音に気が付いた3人は息をつく間もなく、鋼鉄の手に掴まれる。
「兵藤! なにしてんだてめえ!!」
「掴むなら本物の手で触ってよヒョウドル!」
「てかなんで私の体に触れられるのコレ……」
ぎゃーぎゃー騒ぐ3人の意見も、もちろんガン無視しの兵藤は言う。
「お前ら乗れ。合体だ!!」
「「「へ?」」」
鷲掴みされているセラル・山田・永岡の3人は、そのまま真上に持ち上げられ───。
そして、そのまま手を離された…………。
「バカかぁぁあああああああああああああああああああああ!!!?」
重力によって加速度的に勢いを増し、落下していく3人。
かろうじて風圧に抗いながら、下を見ると──デウスエクスマキナは口を大きく開けていた。
「くそッ! ヒョウドルはどこに消えた!? まさか……転移して戻ったのか!?」
正解にようやくたどり着いたリダンであったが、時既に遅かった。
「よお……リダン。待たせたな」
「なッ、なんだ貴様…………。その姿は何だあああああああ!!?」
リダンの前に現れた機体。
それはその姿をより巨大なものへと変貌させ、背中に光の羽・頭上に天使がごとき羽を持った神々しい姿。
そしてその手には、先ほどまで無かったはずの天を射るような巨大な弓と、矢を持っていた。
機体の頭部には兵藤・左右の胸部には山田とセラルが操縦席に──。
その名も──────。
『『『複合変形! 【デウス・エクス・マキナ】ver4.0!!』』』
その機体の放つ熱量や強大なエネルギー。
そして先ほどまでとは明らかに格の違うその姿。リダンは数秒動きを止め、隙を生んでしまう。
『いくぞ、永岡!! 操縦席にある赤いボタンを押せ!!』
ボタン!? これか!?
永岡は内線から流れる兵藤の声のままに、《ボタン》を押す。
「一気に決める! みんな! アレやるぞ!!」
デウスエクスマキナは矢を弓に宛てがい構える。
「超・必ッ殺!! スーパー……」
なんだ!? ……そうか!!
このボタンは必殺技の起動装置!!
コイツは勝負を一発で決めるつもりなんだ!
とてつもないエネルギーが矢に集まっているのを感じる……心なしか俺の操縦席も暑い!!
全エネルギーを弓にかき集め、瞬間的に溜めに溜めた力が今、兵藤の掛け声と共に解き放たれる!
「スーパーナガオカアローーーッっ!!!!!」
は?
「ぐッ─ぎゃあああああああああああああ!!」
永岡は、とてつもないGで体を押しつぶされながら一直線に飛ぶ。
光の矢。なんとその先端には、永岡の操縦席。
3人の力を弓に込め、永岡入りの矢を放つ。
永岡入りのその矢は、対象に着弾すると同時、その全生命エネルギーを吸収し、
爆破する!!!!!!!!!
「ふざけんなぁあああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」
「そう、これが! これこそが! 人間の力!!」
兵藤は着弾と同時に勝利を確信。
「「グァッ! ガァぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」」
必殺の一撃を受けたリダンと永岡は、超新星の崩壊のように砕け散る。そして、周りには光り輝く満天の星々。光り輝く、永岡の命。
一人の人間の犠牲によって、多くの命は救われた。
ありがとう永岡! さよなら永岡! 君のことを決してみな、忘れないだろう!!!
「正義執行……これにて、一件落着!!」
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