第35話 仕事も遊びも本気でやろう。
暗闇の世界に
既に数刻の時の中、何千回と攻防を繰り返している二匹の赤い悪魔は、星を賭け雌雄を決していた。
「リダン、お前がまさかテロル星人とはな──」
「黙れ、舌噛むぞ」
自身の正体を追求する元同胞の顎に一撃を入れ、黙らせるリダン。
斬撃・打撃・銃撃・気功撃と、何度も何度も攻撃の交換を続ける両者。
互いに同じ姿・同じ強さ。
他星人ならば致命傷になる傷や欠損も、即座に再生する回復力。それによって戦いは
「ヒョウドル、確かにお前は強い。テロル星内でも屈指だろう……。しかし、人間一人の力なんて底が知れてる。真の強さとは組織。惑星国家の力こそが世界を支配する」
「オレは力なんぞに興味はない。興味があるのは面白い"遊び"だ。遊びで忙しいオレに、お前の程度の低い価値観を押し付けるな真面目くん」
「それはいい夢だ。しかし任務は遂行するし、お前も殺す。寝言は寝てから言ってろサイコ野郎」
テロルは兵藤の後任者としてリダンを起用した。
高い戦闘能力を保有し、成績も優秀、命令に忠実なため上から好まれていたが功績はいまいち。
そんな不甲斐ない自分を変えるため、今回の任務を引き受けた。が。
……何もかもがコイツのせいだ。
愛する祖国がめちゃくちゃになったのも、この作戦が台無しになったのも…………。
相手の一挙手一投足に注意し、常に移動しながら殺し合いを行っていた二人は、オーパーツから数万光年離れた場所に流れ着く。
体の痛みと流血がダメージによるものなのか……、はたまた周りに星すらない、流れ着いたこの場所の影響によるものなのか、それは定かではない。
「ここにはオレたち以外、誰もいないな」
「それがどうした?」
キョロキョロと周りを見渡して確認する兵藤。
そんな元同胞に何か違和感を覚えるリダン。
先ほどの戦闘や、言動にも気になる点はあった。
確かにヒョウドルは強い……いや、強かった。
あくまでそれは現役の時の話であり、それから100年以上は経っている。そんな中、装備差において大幅なアドバンテージをとっている自分が、何故か攻めあぐねている。
それに、自分の正体に知った奴の言動。
自身と同じ惑星出身の者をその星人名で呼ぶか?
テロル星人も地球と同様に、種族間での見た目の違いや生まれの違いがあり、生まれ故郷や人種によって呼び方が変わるのが一般的とされている。
リダンの内心で引っかかった違和感。
その違和感はすぐ、現実となって答えた。
目撃者はいない。……いいだろう。
「変身─『完全解除』」
兵藤はその違和感の正体。
自身の本当の、姿をリダンに現す───。
……宇宙には、広く様々な生物がいる。
その中でも、特に
狂気と恐怖をその身に体現した存在。
その姿を見たある者は混乱し、その姿を見たある者は崇拝し、その姿を見たある者は狂った。
超次元存在である彼らは様々な名で形容され、その名を聞くこと、その名を呼ぶこと、その名を知ること、それすらも、禁忌。
そんな彼ら全てを統一した名称がひとつだけある─────。
「!?、貴様……その姿まさか『外なる──」
「黙れ、舌噛むぞ」
その指先が体に触れる。するとリダンの首から上、どころか全身が弾けて飛び散る。
テロル軍人の中でも五本の指に入る再生能力を持つリダン。何度も何度も何度も、その体を元に戻すが─────。
ドミノでも倒すかのように優しく触れられると、体がポップコーンのように弾け、ため息をつくように息を吹きかけられると、体に大穴が開く。軽く指を鳴らされると、内臓と脳味噌がシェイクされる。
その存在を見るだけで、意識を保つことすら危うい。
自分よりも圧倒的な強者にオモチャ扱いされ、傷ついたその肉体はいつしか再生をやめた。
「ぐっ……あ…………」
「頭が痛いのか? 仕方ない、少し見せてみろ」
当たり前のようにリダンの背後に瞬間移動し、頭を覗き込む兵藤。
既に再生速度は「0」に近い状態となっているため、傷がグズグズに
「しょうがない、治してやる」
兵藤はリダンの体に赤黒いオーラのようなものを当て、肉体の全てを治し、全快の状態に戻す。
「なんのつもりだ……?」
「体は治っても再生能力や壊れた装備自体は戻っていない。最後に、本気の遊びってやつをしよう」
兵藤はそう言うと自らの足を大きく上げ、リダンに、その踵の裏を見せつける。
「なn─────ぐぇッ!!!」
上か下かも分からない宇宙空間の中、リダンはその顔面に踵落としを喰らい、顔が潰れると同時に勢いよく吹っ飛ばされた。
重力もエンジン付いていないはずのリダンは、宇宙船やミサイルをはるかに超えた速さで元の場所に向かって移動し、そのまま地表に激突。
そしてリダンが激突すると同時期、兵藤はチキュー人の姿でセラル達の元に戻った。
「兵藤! 無事だったか!」
「永岡……そういえばお前いたな」
完全に永岡と山田の存在を忘れていた兵藤。
数分前、兵藤は変身を解いて大暴れしていたリダンと共に星の外へ消えてしまったため、二人はセラルと共に、宇宙高精度望遠機で戦闘の様子を観察。
しかし、途中から距離が離れすぎてしまったためか観測不能となってしまい、その後の安否が分からず、3人は心配していた。
「セラル、ケガはないか?」
「うん大丈夫だよ! リダンはどうなったの?」
「ああ、アイツならまだ元気だと思うぞ。もう一回遊べるようにしたからな」
兵藤はお気に入りのオモチャでも見つけた子供のように、無邪気に笑っていた。
(((『遊べるようにした』?)))
その口ぶりからして、まるで自分で壊したものを自分で治したかのような印象を受けた三人だったが、言葉の綾。と思い、特に突っ込まなかった。
「じゃあさっきの大きな音は……」
「リダンのものだろう、アイツもそろそろ切り札を出すだろうさ」
「「「切り札?」」」
兵藤の言ってることは分からなかったが、3人はすぐにその『切り札』を知る。
先ほど轟音が鳴った場所から、何やら巨大な肉の塊のようなものがグチャグチャと混ざり合いながら
その肉の隙間には、先刻まで床に激突していたリダン。
「今の俺様ッは! 宇宙の絶対者である『神々』が相手だとしても、遅れをとらない!!」
リダンは大きくこちらに向かって叫ぶ。
最悪に備えての薬。
それはテロルに危機を及ぼす存在。それを命に代えて消すための、最後の切り札。
試験段階にあり臨床実験数も少ない危険な力。
しかしてその力は強大。リダンは迷うことなく命を捨てる覚悟を決め、そのカードを切った。
その肉の塊は叫ぶと同時に加速度的に大きさを増し、徐々にその姿を形作っていく。
それは龍のような体に、無数の触手を生やした……異形の姿。
「これが、邪神にも届きうる力……」
その力の名は────────。
「【怪獣化】!!!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます