第37話 帰りを待ってくれる人の重要性。

 タイムマシーン。過去・現在・未来といった本来は不可逆・不変の流れ、または時系列に意図的な手を加え、時間旅行を可能とした手段または装置のことを指す。


 オーパーツ星の『タイムマシーン』こと時間遡行そこう装置は、過去には一度しか戻れない。


 例えば、1日前に戻って再度そこから過去に行くことで、2日前に戻るという重複遡行は出来ない。


そして、この装置で遡行可能な期間は地球の暦で言うところの100日前まで。それは丁度、地球に兵藤が訪れていた日。


 そんな兵藤は現在、結婚式場にいた。


「辞める時も、健やかなるときも、共に生きると誓いますか?」


「黙れクソ神父。オレが"神"だ」


 オーパーツ星最大規模の結婚式用会堂。

 政治・軍・芸能関係などなど、宇宙中の各種関係者を招いての挙式。美しいウエディングドレスに身を包まれた新婦と謎の首輪をつけられている新郎。


 そんな仲睦まじい姿を見ていたデオニス・山田・永岡は感動の涙を流し、二人の結婚を祝福していた。しかし、新郎はそんな祝福とは裏腹に、誓いの言葉と現状に納得していなかった。


「神父さま、プラン3に変更」

「はい、それでは両者の誓いは果たされました」

「誓ってねえよ」


 兵藤の妻ことセラルは、夫のワガママを想定し既に手を打っていた。


 美味しいバイキング会場がある。と、ホテルに隣接する巨大なチャペルに連れていき、豪勢な料理に夢中になっていた兵藤の後ろから、ガチャンっと首輪をつける。


 その首輪はただの首輪ではなく、絶殺処刑道具[パプロフの首輪]。


 宇宙に存在する強靭な肉体や不死身の力を持った生物を確実に処刑するためのものであり、首輪に入力された条件を一定以上反した者。その量子構成を完全分解し消滅させる。


 デオニスでさえ首輪ではなく発信機だったのに、ここに来て強硬策に出やがったこの女。とセラルの顔を見つめる兵藤。


 そんな気持ちもいざ知らず、セラルはモジモジしながら目を閉じ、唇を少し尖らせて前に出す。


「それでは最後に誓いのキスを──」


 首元から小さなアラートが鳴りだす。


おそらく首輪に入力されている命令式は『セラルを傷つけるな』だろう。


これは肉体的な意味だけでなく、精神的な意味も含まれている。つまりこれ以上、このキス待ち顔の女を拒否すればオレは死ぬ。


「ん……ヒョウドル?」


 正直な話、コイツとのお遊びもそこまで悪くなかった。オモチャで遊ぶことはあっても、オモチャと一緒に遊ぶことなんて今までなかったからな……。


 変身を解けば、首輪で死ぬこともなく結婚を避けられる。しかしそんなことをすれば、近くにいるコイツ等もオレの姿を見て死ぬ。


……こんなしょーもない形で壊すのはなんか嫌だ。


「くそったれだな……」


 と兵藤は呟くと、セラルの両肩に手を当て顔を徐々に近づける。

 

「…………」

 

 唇と唇がその距離を縮め、あと数秒で触れあう。


 ────とそんな時。


「オラッぁあああああああああああああああ!! ヒョウドルはどこだああああああああああああああああああああああ!!!!!」


「「「!!!!!????」」」


 式場の扉をバンッと開け、突然誰かが叫び声を上げた。


その声の主は宇宙警察庁長官『オクトーバ』。

オーパーツへ移動中に食べた『オクトーパ』の父。


 自身の息子が兵藤を追いかけ行方をくらまし、調査によって事態を把握したオクトーバは、警察部隊を総動員。既に万を超える船を星の周りに配備し、結婚式に乗り込んだ。


「お前ッ! もう少し待てよクソダコが!!」

 そんなオクトーバに対してセラルはキャラ崩壊する程ぶち切れ、ドレスの裏に隠し持っていた閃光弾を床にたたきつける。


 ー------ッ!


 一瞬にして建物内部に放出された光と音は、周りにいた者の感覚を真っ白に。


 そして、ゆっくりと戻っていくみんなの視界に映ったのは、オクトーバをタコ殴りにするセラルと兵藤の姿があった。


「ちょッ……やめっ……!」


 鬼のような形相のセラルは床でボロボロになっているオクトーバを何度も踏みつける。

 それに合わせ、兵藤も餅突きでもするかのような連携で、息を合わせ蹴り上げる。


兵藤が空中へ蹴り上げ、セラルが下に叩き落とす。


 その連係プレイはまさに熟年夫婦のそれ。

 夫婦になって初めての共同作業。


 しかしオクトーバもタダではやられない。


「ぐぞッ! 『お前たち……会場に向かって一斉掃射そうしゃしろ!』」

『了解。各員通達。目標に対し、ツァーリー砲による一斉掃射を開始せよ』

『繰り返す、敵目標への掃射開始せよ』


 空に浮かぶ大量の船は装填・照準・発射を繰り返し、会場を灰燼はいじんと化していく。


「おいおいおい! どうすんだよコレ!?」


 永岡たちは上空から撃ち落とされるレーザービームをなんとか避けながら走る。しかし、安全な場所はどこにない。オクトーバもろとも護衛隊やデオニス王も砲撃に直撃。


 外になんとか脱出しても、荒れ狂う光線の雨をかいくぐるにも限界がある。万事休すか……。


「問題ない。こんなこともあろうかとセラルの船を近くに置いてある」

「さすがダーリン! そしたら船の中で続きを……」

 自分の都合のいいことしか聞こえてない兵藤の耳は、セラルの発言をなかったことにして。

「よし! 乗り込めッ!!」


 船に乗った4人は、座標転移で警察船の更に外。オーパーツ星のはるか遠くに移動。


「ふぅ……助かった……」

「警察なのに、過激すぎじゃない?」


「まあ身内がやられたらあんなもんだろ」 

 殺ったのはお前な。


「パパ……」


 とにかくこれからどうするか……。星そのものはあの程度で滅びるような国ではない。


しかし、デオニスが負傷してしまった。……俺たちが問題を招いた以上は、無関係とは言えない。


「既に預かっているタイムマシーン。これを使う」


 兵藤は手のひらサイズの懐中時計を取り出し、俺たちに見せる。


「そうか、その手があったか」


 完全に忘れていた。

 そうだよ、過去に戻って原因を取り払ってしまえばいいんだ。


「今から座標と時間を設定する。待ってろ」

「良かった。これでなんとかなるかも──」


 地球や亡くなったみんなをこれで助け、オーパーツも元通りに……。そんな悠長なことを俺は考えていると。


「ねぇ、みんな。船がこっちに来てる気がするんだけど……」


「は? そんなわけ……」

 

 山田から不吉な発言を聞いた俺は外を覗く。


 すると、先ほどまでオーパーツに夢中だった大量の船が、その方向をコチラに向け進軍中。


「兵藤! マズい! サツ共がコッチに向かって来てるぞ!!」


「もう少し待て」

 

 距離を詰め、俺たちを射程圏内に入れた警察船団は、船の先端にエネルギーを貯めていく。


「ヤベェって! 兵藤まだか!?」

「まだだ」


 そして、エネルギーの装填を貯めに貯めた船は、砲撃準備をついに完了。


「おい! 来るぞ!!」


「よしッ……出来た」


 大量の敵船は隕石すらも破壊する。そんな強大なエネルギーをコチラに───放つ。


 と同時に兵藤は唱えた。


「『時よ戻れ。全てを過去に帰さん』」

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