第38話 命で買える特急券。

 時空の裂け目に船ごと飲み込まれた俺たちは、気が付くと見覚えのある場所に着いた。


 そこは懐かしい建物・懐かしい生き物・懐かしい景色に包まれた生まれ故郷。地球の日本にっぽんという場所。


「おい、あれって俺たちじゃね!?」


 過去にタイムトラベルし透明化している船内から外を覗いた永岡の視界には、トラックにねられて横たわっている自分自身と、山田が映っていた。


「あっ! アレは兵藤の船じゃない?」


 そして倒れた二人の元には、軍からパクった船に乗った兵藤が現れる。いや、正確には100日前のヒョウドル・アルカディアスが出てきたと言ったほうが正しい。


 ヒョウドルは二人の容態をササッと見ると、永岡だけかついですぐに船に乗り、地球外へ消えていく。


「あの野郎、本当に俺を拉致ってやがった」

「ああ、最低のクソ野郎だ。信じられない」

「そうか、だったら今すぐ自分の爪の垢舐めとけ誘拐魔」


「ケンカはいいから、私の体を運ぶの手伝ってよ二人共」

「そうだよ。ヒョウドルの爪は後で私が貰うから、早く山田を治療装置に入れようよ」


 そして運び込まれた山田の体はオーパーツ星特注の王族船内治療装置に入れられ、霊体山田の治癒能力と一緒に治療を施された結果、傷の回復に成功。完全に肉体を損傷前の状態に戻した。


「ッ………!?」

 がしかし、肉体が元通りになった瞬間、霊体の山田に変化が起こる。


 それは霧が散るかのように、ボロボロと体が少しづつち始めていた。

 

「なんだ!? どうなってんだ!?」


 その様子に一番に気がついた永岡も、すぐに兵藤に問う。が、兵藤にも分からない。


「分からん。分からんが……」


 その異常事態を見た兵藤は、即座にモウコンダから受け取っていた最後の聖水を、自分の足にぶっかけて山田を─────蹴り飛ばす。

 

「ぐへぇッ!!」

 

 弾丸のようにふっ飛ばされた山田はそのまま治療装置の中にある自分の体にスポンっと入る。


「「「…………」」」


 しばらくの間、船内に沈黙が続いた。

 霊体が本来の肉体に入ってから十数秒。


「「「…………」」」


 長い長い沈黙。

 しかし、その沈黙も──程なくして消える。


「うっ、んーーーーっ!!」


 その沈黙を消し去ったのは、大きなカプセルの中から聞こえた女の声。

「……えーと、久しぶり? かな?」


 !!!!!!!


 それはさっきまで聞いていた声であり、本当に久しぶりの声でもあった。


「山田! 大丈夫か!?」


「うん、なんとかね。ついでに復活! だよ」

 

 治療装置のカプセルから出て、そのまま親指をグッと突き出して見せる山田。

 

「山田ーーーーーーッ!! グハッ!!!」

 それに飛びつく永岡。

 

 少し不穏な雰囲気に心配したが、山田は無事に元に戻った。本当に元の人間に戻ったんだ。

 そして俺の熱いハグを拒絶する拳。間違いない、これは完全に復活している!


「うんうん! 良かったね山田! さて、ヒョウドル……あとは挙式の続きを……」 

 


「変身──『限定解除』」


 

 こうして俺と山田は、無事に地球へ戻った。


 セラルは逃走した兵藤を追っかけてどこかへ行ってしまったが、捕まえたらオーパーツの誤解を解いた後に「2回目の結婚式にも呼ぶね!」と言ってたので、また戻ってくるだろう。


 

 ~1週間後~


 あれからオレは首輪によって居場所がバレ、オーパーツ星にてセラルと二度目の罰ゲーム開催が決定してしまった。


 今は地球まで永岡と山田を迎えに来ている。


 ……この鬱憤うっぷんをアイツらで晴らし、その上でなんとかセラルから逃げる。


 とにかくまずは永岡を殴って落ち着こう。


 などと考えていたオレだったが、久しぶりに会った永岡の様子がおかしい。


「ひょっ……兵藤……」


「どうした? オレに会えた感動で言葉もないか?」


 まさかこんなに喜んでくれるとはな。


 早く会いたいだろうと家をぶち壊して、天井から直に殴りこんだ甲斐があったってもんだ。


 しかし、何故そんな消え入りそうな声をしている? 今オレとセラルはお互い「変身」している。つまり本来の姿ではない。それが嫌だったのか? ならばこのまま嫌がらせを続け─────────


「山田が! 山田が連れ去られちまった!!」


「…………は?」


 今から2日前。兵藤とセラルが消えてから元の日常を過ごしていた俺たちは、久しぶりの大学生活を堪能していた。しかし、その平凡な生活も一時のものだった。


 小さな羽と頭に光の輪を生やした赤ん坊。

 どこか不気味の悪さを感じさせる小さな化け物。


 そんな俺たちの理解の及ばない奴らに、山田は襲われた。


「きゃツ、なに!? やめて! 引っ張らないで!!」

「なんだお前等!? やめろ!! その手を離せ!!」


 そいつらは何もない場所から突然現れ、山田をわし掴みにしながら空中に持ち上げ、謎の空間引きずり込んでいく。


 俺は必死に助けようとしたが、見えない壁みたいなものに阻まれ、手も足も出ずに叫ぶことしか出来なかった。


「何が目的だ!! 山田が何をしたって言うんだ!?」


『この者は世界のルールをいくつも破った』

『だから連れて行く』


「連れて行く!? どこに連れて行くってんだ!!?」


 気色の悪い天使のような赤ん坊は言った。


 地獄の底、その遥か下に存在する死後の世界。

 その名は─────────。


 『煉獄』


 

 それから俺はお前を待っていたんだ。


 お前なら、兵藤なら、何か知ってるんじゃないかって……どうにかしてくれるんじゃないかって…………。

 

「知らん。自分でなんとかしろ」

「…………」


「ヒョウドル、手を貸してあげようよ」

「上目遣いで見てくるな」


 しかしそうだな、『煉獄』というものに聞き覚えはないが、そこは死後の世界と言ってたのだから、死ねば行ける可能性は高そうだな……。


「永岡、オレに妙案がある」


「本当か!? 俺に出来ることならなんでもするぞ!!」

「じゃあ死ね」


 へッ?


 ……こうして永岡は体を真っ二つに斬られ、短い生涯を終えた。

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