第28話 人生万事塞翁が星。

 船に乗り込んで変身状態に戻った兵藤は、狩りを楽しむように俺を追い回していた。


 紙一重で避けているが、アイツがその気になれば簡単に命をとられるだろう。


 そしてしばらくして、その時は来た。


 兵藤は遊びを辞め、瞬時に前蹴りを永岡に入れ、壁際に追い詰めて剣を振り上げる。



 間違いない、あと数秒とせず俺は死ぬ────。



 読者の皆様、これまでのご愛読ありがとうございました。南雲先生の次回作にご期待ください。


 [ps.俺の部屋にあるPCと携帯の履歴は見ずに消してください。]



 と諦めかけた瞬間、


「待って!!」

 俺の前にセラルが割って入り、兵藤を止めた。


「邪魔だ、失せろ」

 が兵藤はセラルを前にしても、その構えを崩すことはなく剣先を向ける。


 セラルもそれに対して譲ることなく、その場を離れない。


 そして、それ以上言葉を発することもなく、セラルは兵藤の目をジッと見つめる。


 ──しばらくの沈黙が続き、根負けしたのか兵藤は剣を収めた。


「た、助かった……」



 九死に一生を得た俺は完全に腰が抜けていた。が船外から聞こえる叫び声で飛び起きた。


「どこだあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」


 ベリアルは全身をちりにされてなお、当たり前のように再生し、元気いっぱいに兵藤を探している。

 

「しょうがない、もう一つの方でいくか……」


 そんなベリアルを見て、兵藤は船のコントロール盤を何やら触りだした。


「さすがオーパーツ星の船だ、いい装備か揃っている」

「もしかして──を使うの?」

 

 セラルの問いかけにうなずく兵藤は、光るパネルを何回か押す。

 するとコントロール盤の一部からが出現した。


「それは何かの……装置?」


「惑星崩壊爆弾『ノヴァミサイル』だ」

 

「は?」


 続けて兵藤は説明する。どれだけ無敵の存在になろうと所詮はゲームのキャラ。


 惑星──つまり、ゲーム本体ごとぶっ壊せばベリアルは倒せる。


 どれだけ強いボスキャラがゲーム画面に出てきたとしても、データどころか物理的にハード本体を壊されてはキャラクターも回避のしようがない。


 そんなこと思い付くか? 思い付いても故意にやるやつなんていない。

 

 ……しかし、これしか方法がないのも事実だ。


「ん? 待て、山田はどうなる……?」

 

「…………」

「答えろ兵藤!!」


「永岡……、お前がボタン押せ」

 兵藤が問いに答えることはなかった。

 しかし、俺は理解した。


 山田も一緒に消滅する─────。


 そもそも山田はあの事故で死んでいた存在。


 しかし、俺がいたせいでこの世に留まり、今もベリアルに支配され苦しんでいるかもしれない。

 

 兵藤はそんな俺に、責任を持てと言うのだ。


「早く押せ」


 兵藤に急かされて俺はボタンの前に立っていた。


 船の外から見えるベリアルは、気が付つくとリトルプラネットという小惑星の半分近い大きさに成長していた。


 押すしかない……。


このまま成長すれば星どころか地球まで……いや、宇宙全てを滅ぼすかもしれない。 


 でも、山田を殺すなんて俺には…………。


「兵藤……お前が──「あッ、手が滑った」


 ポチッ


 船から高速の光が星に落ちる。


 その刹那せつな──。


 星は内側から輝き、周りの空間を渦のように歪ませながら──────。


 ぜた。





 地球まで1か月近くかかるらしい。

 まあ、そんなことはどうでもいい……。


 俺があの時一緒に帰らなければ……。

 あの時、兵藤に声をかけなければ……。


 そもそも俺が生まれてこなければ、

山田はこんな目に合わなかったんじゃないのか?


 「異世界に来た」とか言って浮かれてバカか。


 そんなもんより俺は────。

 地球なんかよりも…………。


「そうか──」

 俺は好きだったんだ。


 山田も、あの世界も、心地がよかったんだ。


 馬鹿みたいにはしゃいで、笑って、戦って、思い描いた生活じゃなかったけど全て満ち足りていた。


 ずっと続くと思ってた。

 ずっと続けばいいなって思ってた。


 それなのに、こんな終わり方ありかよ……。




 高校の頃、病院に行った。


 クラスメイトが意識不明の重体となっていたが、最近になって回復したと聞いたからだ。


 状態が落ち着くまで面会謝絶でそいつとは会えなかった。


 しばらく学校に来なくなって、俺は急にそいつのことを意識するようになったんだ。


 本来なら今日は部活の日だったけど、監督に頼みんこんで休みを貰った。 


 そして今、俺は病院の個室の前に立っている。


 なんか緊張するな……。


 くそ! こんなとこで立ってても仕方ないだろ!


 俺は意を決してガラガラっと勢い良く扉を開けた。


 するとそこには窓の外を見ている彼女がいた。


 俺は女子に対して評価が甘いけど、それでもこれは──間違いないと思う。


 上体だけを起こし、ベットにもたれかかっている彼女と窓から見える夕焼けはとても美しかった。



 扉を開ける音に気づいてか、それとも俺の気配に気づいてか、彼女はふとコチラを振り返る。


 どうしよう……なんて言うか忘れた。


 そんな俺の気持ちを察したように彼女は口を開く。


「へ〜、来てくれたんだ?」


 ニコッと笑う顔は混じり気がなく、いつも学校で見ていた表情と同じものだった。


 そんな顔を見て──なんだか嬉しくなった。


「おう、割と元気そうだな」


「んー、こう見えて結構キツイんだよ?」


 その体は前よりも痩せ、手もか細く折れそう。

少し声を出しただけなのに息も少し切れている。


「そっか、でも学校には戻ってくるんだろ?」


「もちろん! リハビリ頑張って部活もしちゃうよー!」

 ベットに座りながら、レシーブとアタックの動きを見せてくる彼女。


 強がっているけど汗もだらだらかいて、腕もプルプル震えている。


 でも───。


「おっけー、じゃあ待ってる」

「うん……、待ってて」


 俺は彼女を信じることにした。


 これは俺の勝手な願望。

 また、あの笑顔が学校で見たい。

 俺が彼女をそばで支えたい。とそう思った。


 自分があまりにもチョロくて恥ずかしいが、まあそういうことだ。


「ねぇ永岡?」

「……なんだよ?」


 ポリポリと顔をかきながらお互いに見つめ合う。

 その真っ直ぐな目に、今にも吸い込まれそうだ。


 顔が少し赤いけど……それが熱なのか、それとも照れ隠しなのかは俺には分からない。


 でも、この瞬間を忘れない。


「私、幸せだよ。会いに来てくれてありがとう」


 窓から夕日が逆光となって差し込んでくる。


 その光は……とても眩しかった。




 宇宙船の窓から見える星々が光って見える。

 もうしばらくは一人でいよう。


 誰とも話したくない、話したい人もいない。


「綺麗だな……あれは、、太陽?」


 もう地球まで間もない…………。

 本当にクソったれな旅だった。


 ボーッと立ち尽くして外を見ていた俺をあざ笑うかのように、窓ガラス越しに見える太陽は眩しく光っている。


 もう悲しみも苦しみもない。ただただ虚しい。


 コンコンッ


「入るよー」


 セラルはあれから食事や必要な物がないかと定期的に来てくれている。

 ありがたいことだが、構わないでほしい。


 俺は……もういい。


「セラルと兵藤がそろそろ地球に到着するって」


 地球に戻ったら終わりにしよう。

 山田は天国にいるだろうから、俺はもう会えないだろうけど。

 

 とにかく……早く終わらせたい……。


「わかった、準備するよ。セラ──」

 ──あッ? ん???


と兵藤』?


 ゆっくりと振り返り、入口にいる声の主。

 その姿を──俺は見た。


 でも、すぐに視界はぼやけて見えなくなった。


「永岡? 泣いてるの?」

「雨が……降ってきたな」


「?、雨なんて───」


「いや……雨だよ」

 

 ◇


 山田は生きていた。実際はまだ死んでるけど……とにかく無事だった。


 ベリアルは星を失って消滅したが、山田は呪縛先の俺が生きていることで助かった。

 そしえ船に遅れて乗ったが、その事をしばらく黙っておくように兵藤に言われたそうだ。


 俺が壁を殴って痛がったり、ベットに顔をうずめて叫んだり、食事を我慢していたが耐えきれず食べていた所をモニター越しに兵藤は「ギャハハ!」と大爆笑して見ていたらしい。


 ゲームのキャラクター達は自動修復システムによって星ごと復活する。その記憶や状態は2回目のプレイ前にリセットされてしまうが、それを聞いた俺と山田は安心した。


 そして勝手に勘違いした俺はネタ明かしをされて、顔を真っ赤にしてキレた。


 そんな俺を見て三人は大笑いしながらイジってきたけど……今回はマジできつかった。


「なんか俺、いっつもこんな役回りだな……」


「「「どんまい」」」

 

「兵藤、てめーは後で校舎裏来いよ」


 こうして無事地球に到着し、なんだかんだ俺達は元の生活に戻ることが出来た。


 地球はいつも通りの日常が溢れ、周りの人々も異世界や宇宙人なんてものとは無縁。



 自分たちの現実と共に生きている。


 ああ、久しぶりの地球。ただいま日本。


 おかえり! 俺の普通の人生!



 ……なんてことはなかった。


 俺たちが到着するはずだった"地球"という星は、どこにも見当たらない。


 そこには砕け散った巨大な岩のようなものが浮いているだけ。


 そして、その周りには無数の宇宙船。


「なんだよ……これ……」


 俺たちの故郷は、地球は────、


 ほろぼされていた。

 

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