第二章

第29話 祈りと願いを込めて。

 ウエディングベルが鳴り響く。


 そこには二人の男女と聖職者。その場に参列した者達は、その光景にいったい何を思うのか……。


 病めるときも、健やかなときも────、


 愛し、敬い、なぐさめ、これを助け、

 その命ある限り真心を尽くすことを──、


「誓いますか?」


「断る、断固拒否だ」


 地球が滅ぼされ、その座標にいた無数の宇宙船はオーパーツ星のものだった。


 行方不明になった姫のゲーム端末の通知データから、過去に誘拐歴のある兵藤と接触していると考えたオーパーツ。


そして、軍から盗まれた船がチキューと呼ばれる惑星に接近していることを探知したテロル。


それぞれが、同じ銀河・近い座標を目的地に向かうこととなった。


 その目的の座標に移動している最中さなか、互いの存在に気がづいた両者は、同等の国力を持つ者がこのような辺境へんきょうの地に来ていることを不審に思った。


 テロル星人に王族を誘拐された国と、軍の物資を突如として自国民に奪われたテロル。そんな国同士の使者がいる。


今に至る状況は全てコイツらが仕組んだ罠だ。と考えた両者は、一心不乱の戦闘に勃発。

 

 その戦闘は周りにあった星々を大きく巻き込み、ついには太陽系付近の惑星も消え去ってしまう。

 

 闘いは長引き、捨て駒を送っていたテロルは精鋭である王族護衛軍を送ったオーパーツに敗れる。



 そして……今に至る。



「この者たちは私の友人です。手出しは無用」


「セラル姫、ことの顛末てんまつは後でお聞きします。ですからコチラへ」


 オーパーツの船から出てきた護衛軍の代表はセラルの腕をつかみ、連れ去ろうとした。──が、


「待て」

「!、貴様は……」


 その行動を制したのは意外にも、兵藤だった。


 止められた護衛官はそんな兵藤を見て、怒りをあらわにして睨む。


 自分たちを罠にはめた相手が誘拐されたはずの姫にかばわれ、今もなお自分たちの邪魔をしようとしてくる。そのことにイラつきを隠せずにいた。


 そのかたわらでセラルは、兵藤が自分のために行動し、護衛を引き止めてくれたことに感動して、少しだけ泣いていた。


「ヒョウドル……大丈夫だよ、私は──」

「船のカギを渡せ」


 ──えっ?


 兵藤は真剣な表情でセラルに手を突き出す。

兵藤は本気で、本気で宇宙船の鍵を心配していた。

 

 そんな兵藤にセラルは内ポケットに入れていたコントロールキーを何も言わずに手渡す。


 先ほどまで鬼の形相だった護衛官も、口をポカーンと開けて呆気に取られている。


 そしてセラルはそのままオーパーツ星の母船に連れていかれてしまった。

 その表情はどこか寂しそうで、どこか悲しそうだった。


 彼女が別れ際にボソっと呟いた「信じてる……」という言葉。あの言葉は兵藤に届いているのだろうか────。


「よし、カギも手に入ったことだし、パラダイス星にでも遊びに行くか!」


 ───全然届いてなかった。




 それからなんとか兵藤を説得した俺たちは、オーパーツ星に向かっている。


「しっかし、地球が無くなっちまった俺らはどうするか……」


 流れでセラルを救出しに行ってはいるが、その後の生活はどうすればいいのか……。どうにか地球を戻せる方法があればいいのだが───。


「あるぞ」

「「あるの!?」」


 兵藤はあっけらかんとした感じで語る。


 宇宙道具は地球の科学力を優に超えており、地球人から見れば魔法や神の所業をも可能とする。その中でも時空間に関するもの──つまりタイムマシーンのような宇宙道具。


それを使って過去に戻れば、地球を崩壊から救うことが出来るかもしれない。


「マジか、そんなもんが……さすがSFだ」


「それでそのタイムマシーンはどこにあるの?」


 空間に関わるものは宇宙船の移動や物流に多く活用されており、ある一定の文明惑星であれば存在する。


 が、時間に関わるもの──それも過去に干渉する物は広い宇宙の中でもトップの科学技術を要する。


そして科学技術があっても必要とする素材や法的な問題から数は限りなく少なく、手に入れている者も少ない。


 しかし兵藤にはその、思い当たる場所があった。


「オーパーツ星だ」


 オーパーツ星は古代から伝わる道具を活用し、高い科学力を手に入れた。


そして、豊富な資源と人材をフルに活用した結果、過去に干渉する道具の作成に成功。


 しかし、存在するのはその一つのみで、それは現在のオーパーツ星の王、つまりセラルの父が持っている。


「なんで兵藤がそんなことを知ってるの?」

 

「テロル政府のデータバンクをクラックした時の情報」

「なにやってんだよお前……」


 しかしこれで決まりだ。セラルを救い、

 そしてタイムマシーンを手に入れる!


 目標を定め、決意を新たにした俺とは無関係に

次なる問題がやってくる。


「ありゃ? なんか接近してるな」


 そんな呟きを聞き、俺と山田は船の外を窓から覗き込む。そこには圧倒的な絶望が────。


「そんな……ッ」

「あ、あれは──」


【注意! 注意! 軌道上に巨大物体接近中!!】

【注意! 注意! 軌道上に巨大物体接近中!!】


 船内に警告音が大きく鳴り響く。

 このままでは激突してしまう!


 急速接近するそれを見た俺達は汗をダラダラ流しながら、唾を飲み込む。


 俺たちはそれに願いを祈る。

 俺たちはそれに、夢を見る。

 

 そう、それは───


 「隕石かよ…………」

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