第10話 料理は仕込みが全て。

 ~~~12時間前~~~


「セラルはここで待ってろ」


「ちょッ、兵藤! ココは……」

 ここは私たちが焼き払ったゴボリン達の集落しゅうらく

 ゴボリン達の消火活動も虚しく、ほとんどの建物はボロボロになっていた。


 ゴボリン達もすでに疲弊しきっており、相当まいっている様子。

 

「やあ、お前達」

「なんだお前……誰ゴボぉ」


 ゴボリン達の前には赤いマントを羽織った知らない男。人を服装でしか認識できないゴボリンは兵藤と気が付いていなかった。


「オレは”神”だ」

「「「神ぃ?」」」


「そうだ、ヒューマの悪辣あくらつな手によって同胞を殺され、村を焼かれたお前たちを救うべく現れた神だ」


「本当ゴボか?」

「怪しいゴボ、証拠を見せろゴボ」

「そうだそうだ証拠見せろゴボ!」


 ゴボリン達は知能が低いとはいえ、そこまでバカではない。急に現れた訳の分からない奴を信用できないのは当然。


「証拠? 賢いゴボリン達なら理解していると思ったがな」

「理解? なにを理解するゴボぉ??」


「見ず知らずのオレが何故かお前たちの事情を知っている。そして、そんなオレがお前たちの前に現れた────」


「つ、つまり………」



「そう、オレこそが貴様らの救世主! 救いの”神”なのだッ!」

「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」」」


 ゴボリン達はバカだった。

 そして現在───。


「あのゴボリン共を殺せええええええええええ!」

「あのヒューマ共を殺せええええええええええ!」


 突如出現したゴボリンをボヤ騒ぎの犯人と勘違いした山賊たちと、山賊たちを仲間を殺し村を燃やした者とその仲間達と騙されているゴボリンの争いが起きている。


 山賊たちは歴戦の強者だが、数の暴力と戦術によって劣勢に立たされていた。


「ひっ卑怯だぞ! 人を盾にするなんて!!」

「うるさいゴボ! 神様がこうするといいって言ってたゴボ!」


 ゴボリンは先頭集団が根城に突撃すると同時に、後方の射撃部隊が麻痺薬入りの矢を一斉投射。


 矢が命中し動けなくなった者を盾にしながら、他の山賊に対し正面から詰め寄り、他のゴボリンがななめ方向から攻撃している。


「こいつらヤベーぞッ、俺は逃げるッ!!」

 山賊の一人が身の危険を察知し、いち早く逃げようとする。

 ───が。

「んああああああああああああああ!足があああああッ!」

 突如として地面の一部が動き、片足が切られる。


「間抜けが。オレのゴボリン達が逃がすわけないだろ」

 ニヤリと笑いながら状況を見ている兵藤。


 セラルが火の矢を放つ前、全身に砂をつけ地面と同化した小さなゴブリンが既に何匹も潜伏。


 それ以外にも足止め用の落とし穴・魔法の地雷、森に逃げられた場合に備えて、透明なワイヤー・網によるブービートラップも仕掛けてあるそうだ。


「クソがぁ! 俺様の部下をおおおおおっ!!」


「「「ゴボおおおおおおおおおおっ」」」


 既に山賊も片手で数えるほどに減っていたが、山賊の頭目は別格に強く。ゴボリンの方もかなりの数が殺されてしまった。


「……面倒だがそろそろ行くか」

「おい兵藤! あの山賊はヤバいぞ!」


「ああ、だがさすがに行かねばなるまい」

「兵藤……」


「お前たちもついて来てくれるか?」

「もちろん!」

「兵藤とならどこでも行くよ!」


「ちっ……しょうがねえなぁ」

 ゴボリン共に任せっぱなしじゃあ、かっこつかねぇ。俺たちだって戦ってやる!!



「神様! 来てくださったゴボね!! その者たちは?」

「気にするな、オレの下僕だ」 

 

「なんだ貴様ら! このゴボリン共の仲間か!?」

「まあそんなとこだ…………」


「お前の命もここまでだ! この俺が貴様を倒す!!」

「いや永岡、お前は手を出すな」


 兵藤……そうか、お前は事件の発端。

 自分でケリをつけたいってことだな?

 しゃーねぇな、今回は譲ってやるよ。


 こうして俺たちは兵藤の後ろに下がり、この勝負を見守ることにした。


「神様! どうすればいいゴボぉ?」

を呼ぶ」

 

 え?……お前が戦うんじゃないの?

 

「来い! ゴボリン竹槍部隊!!」


「「「ごぼおおおおおおおおおおおっ!!」」」

 兵藤が叫ぶと3m近い竹槍を持ったゴボリンが5匹。雄たけびを上げながら駆け寄ってきた。


「神様ぁ! ついに我々の出番ゴボかぁ!!」


「そうだ! 奴は山賊のリーダー! お前たちの敵である緑の服の男だ!!」

「こいつが……絶対に八つ裂きにするゴボ!!」


「待て! なんのことだ!? 緑の服なんて持っていない!!」

「嘘をつくなっ! 貴様の自室からこの服が出てきたんだ!!」

 

「そ、それは間違いない! 奴の服ゴボ!! 嘘をつくなヒューマ!!」

 それ俺の服!! 嘘をつくな兵藤!!


「くっ、一体なにが起こっているんだ……」

 混乱していた隙をついて、いつのまにかゴボリン竹槍兵は頭目を集団で囲んでいた。


「よしっ、頭は避けられる可能性がある。背中や腹部を狙え。奴が攻撃してきたら距離を取り、反対側の者が突き刺せ」


 よくドラマなどの創作作品でヤクザやヒットマンが頭を狙うが、あれは素人だ。


 胴体の方が当たりやすく、ストッピングパワーの強い攻撃であれば大量出血や臓器の機能停止は避けられない。


 その点、距離を取りながら一方的に攻撃の出来る槍は、飛び道具を抜いて最強の武器。それに加えてオレによる人選。


 この勝負、一切の抜かりはない。


 「「「分かったゴボ!!」」」


 自身の身長を遥かに超える長さの槍を使っているゴボリンは、反撃の怖さがないため冷静にじわじわと突き刺す。


 グサッ─グサツ─グサッ────


「もっと踊れゴボッ!!」

「ぐあああああああっ!!!!」

「フルコンボだゴボ!!」

「やめぇろぉぉおおおおお!!!!」


 時間にして一分にも満たない地獄。

 既に傷と血で人の原型を保てていない。


「うっ……うっ……うぅ…………」


「攻撃やめっ!」


「「「ゴボッ!!」」」

 神の命令により、即座に攻撃をやめる竹槍兵。


「………………」

 動かず、叫ぶこともなくなった頭目に近づき脈を確認する兵藤。


「よし、勝った」


「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」」」

 兵藤がボソっと呟くと共に、生き残ったゴボリン達は勝鬨かちどきを上げる。


「ほんとに何もせずに勝っちまいやがった……」

「えげつないよ…………」 

「戦わずして勝つ兵藤もかっこいい……」

 

 俺たちの声を聞こえずか無視してか、兵藤はゴボリンに招集をかけ始める。


「よし、これで全部だな。お前たちよくやった!」

「「ゴボおおおおおおおお! 神様のおかげゴボおおお!!」」

「だがしかし、同胞も戦いによって多くの犠牲を払ってしまった」


 100匹以上いたゴボリンも今は20匹前後しかいない。


「が君たちはこの戦いによって緑服の男を殺し、かたきもとった!」

 死んでねえよ。

「誇れ! 仲間たちを。 誇れ! 自分自身を!」


「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」」」

 兵藤の投げかけによってゴボリンは涙を流しながら──また叫ぶ。


 

 そしてゴボリン達を一時休ませ、食事を食べさせているうちに生き残っていた山賊の一人を捕縛し、根城にあった倉庫のようなものの前に兵藤達は来ていた。


「さて、戦利品もついでにいただくか」

「お前戦ってないだろ」

「バカを言うな、作戦の指揮こそが戦いの要。オレが一番偉い!」

 

「…………」

 クズが何かほざいていたが、俺は無視して倉庫の留め具を外して扉を開ける。するとそこには───。


 美しい金髪の少女とメイドがいた。

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