第9話 二度目の再会は結構気まずい。

 兵藤以外の3人は壺の置いてある部屋に集まり、無言で立っていた。


「…………」

「…………」

「…………」


 誰一人として口を開かなかった。そしてそのまま虚空を見つめていた。


 とそんな時、部屋の扉が開き奴が帰って来た。   

「んあ? なんでお前らいんだ?」


「ひょうどうッ!」


「はい兵藤です」


 俺たちは兵藤に詰め寄り壺について尋問したが、『なんのことだ? そんな壺知らん』と不思議そうに首を傾けていた。

 お前の脳ミソはどうなってんだよ……。


「と、とにかく領主様に返さないと……」

 山田は不安そうな表情を浮かべている。


「窃盗や不法侵入は割と軽い罪だけど、盗んだ物や入った場所がマズいからたぶん死刑になるよ」

 セラルがさらっと言った。いや、ヤバすぎだろ。

まあ兵藤がやったことだし俺には関係ない。


「そして連帯責任で私たちも死刑。良くて無期懲役かな」


「………………」

 話し合いの結果。たまたま壺を持っていた盗賊(仮)を見つけ、取り返したが逃げられてしまった。そこまで苦労していないので謝礼は受け取れない、ということにした。


「それはいい作戦だ、みんな幸せ、みんな笑顔」

「その図々しさはどこから来るんだお前」


「ふむ、だがその作戦。少々甘いな」

「おい、無視すんな」


「事実はともかく、筋は通ってると思うけど」

 

「普通、領主の家宝を盗むような盗賊がみすみす見つかって奪い返されるか?」

「厳重な警備を突破して盗んだんだ。プロによる集団の犯行と考えて間違いない」


「集団ではなく個人。しかも犯人はお前だけどな」


「少なくとも下っ端の1人でも捕まえないと不自然に思われるかもしれない」

「じゃあお前が捕まれよ。盗賊の下っ端として法に裁かれろ」


「そこで冒険者ギルドの出番だ。この街を少し出た所にいる山賊達の対応を求めるクエストがあった」

「その山賊達を捕まえて、壺盗みの犯人に仕立てあげるってことだね!」

「そうだセラル、よくわかってるな」


「いーや、私の方が先に気づいていたね」

「山田、偉い。すごい」


「「えへへへ」」

 何故か兵藤に褒められて嬉しがっている二人。

 

「なんでお前らノリノリなんだ。コイツを突き出せばいいだろ……」


「仲間を売ろうなんて見損なったよ永岡」

「ふんッ、ヒューマの面汚しが」


「ねえ何!? その仲間意識何!? まだ会って間もないよね!?」 


 なぜか責められて少し落ち込んだ永岡の肩に、兵藤は哀れみの表情を浮かべながら、手をポンッと置く。


「き、気に入らねえ…………」


 という訳で俺たちは明日、山賊の根城に向かうこととなった。


 山賊たちは人をさらい、金品を強奪ごうだつし、多くの人を殺している極悪人共だ。しかも歴戦の冒険者や首都の騎士にも並ぶ強さを有している頭目もおり、無計画に倒せる連中じゃない。


 今日は調査と準備のため、セラルと共に兵藤が

先行して見に行った。


 あいつ一人ではロクなことにならない。だから兵藤に盲信的な部分はあるものの、常識自体はあるセラルについて行ってもらった。


「ふぅ、明日は決戦か……」

 魔物相手には逃げればいいが、今回はそうもいかない。山賊を捕らえられなければ死ぬ。


 おそらく明日は命がけの戦いになる、少し早いが寝ておこう。


「なんだ? 寝るのか?」

 床につこうとした直後、兵藤が帰って来た。


 マントを前におおい、いつものタイツ服が見えない。赤い綺麗な下地に土の汚れがかなり付着している。

 

「帰って来たのか。それで……どうだった?」

「どうだったとは?」


「悪だくみは済んだか?」 

「ああ、バッチリだ」


 はぁ……、セラルは失敗したか。

 そもそもコイツがまねいた種。業腹ごうはらだが、その悪だくみに頼らせてもらおう。


「ところで兵藤、俺の上着知らねぇか?」


「知らん」

 


 そして俺たちは、山賊の根城のそばにある崖上に来ていた。

  

「おいおい、こんな所からじゃあ山賊を捕まえらんねぇぞ」


「案ずるな策は既に用意してある」

「セラル、打て」


「分かった!」

 兵藤が指示すると、セラルは矢じりに火が付いた

矢を山賊の馬小屋に放った。


「おい、まさか火あぶりにする気か?」

「バカか、そんなんじゃ全員死ぬ可能性もあるし

逃げられるだろう」


「それじゃあなんで……」


 馬小屋に放った矢はエサである切りわら乾草かんそうに当たり、大きな煙を上空へと巻き上げた。

 そして煙が上がった瞬間、遠くの方から沢山のたけびが聞こえてきた。



「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」」


「なんだ!? 叫び声!? なッ、馬小屋が燃えてやがる!!」


 大きな叫び声に気づき外に出てきた山賊たちは、自分たちの住処が燃えていることに気が付く。


 そして、それと同時に100にも迫るような集団が山賊たちの元へ突撃する。


 そう、その集団とは────。


「仲間の仇を撃てええええええええええぇぇぇぇ!!」

「ヒューマは皆殺しゴボぉおおおおおおおおお

ぉおおおッ!!」


の奴は確実に殺せええええええええええええええええええ!!」

 

 ゴボリン達だった。

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