第17話 昨日の敵は今日も敵。
決勝戦開始の合図と共に兵藤は、完全に聖騎士長バルザックに押されていた。
「どうした? お前の実力はそんなものか!!」
「おーっと兵藤選手、バルザック選手の猛攻にまったく手が出せません」
バルザックの剣撃は一撃一撃が重く、ニャイガーの攻撃を想起させるものだった。
しかし、一つだけ違う点がある。
それは、バルザックの攻撃には一切の無駄がなく、洗練されたモノであるということ。それは素人の俺から見ても明らか。
実際に兵藤は準決勝までは1~2回しか攻撃を受けていないが、この戦いでは既に足や手首、腹回りを八つ裂きにされ、兵藤のタイツはボロボロになり隙間から血が垂れだしている。
あからさまに一発で決められるものを、観客や姫の前で恥をかかせるために手加減している。
「おいバルザック……いいのか? そんなに時間をかけて」
「ほざくがいい、貴様が今使っている武器はコッチで用意したものだ。準決勝でどのような毒を使ったか知らんが、事前に手は打たせてもらった」
「そうか……やけに効果がないと思ったが……」
「ふん、万策つきたようだな卑怯者が」
そんな……兵藤のうんこ剣が……。あのクソ野郎のクソ武器が使えないんじゃもうダメだ……。ただでさえコッチの攻撃は一撃も当たってないのによ。
終わった……。仕方ない兵藤。
お前の死にざまぁはしっかりと俺が見届ける。
安心しろ、セラルと山田はしっかりと俺が責任をもって守っていくさ。
本当に残念だなぁ、いや~心の底から残念だぁ~。
「さて、貴様の無様な姿は十分姫様に見ていただけたろう。騎士の情けだ、これ以上苦しまないよう
「ほざいてろロリコン野郎」
「私はロリコンではなああああああああああああいッ!!」
バルザックは
────しなかった。
バルザックは兵藤の頭上に構えていた剣を打ち下ろす前に、それを床に落とした。
「おーっと、バルザック選手いったいどうした? 決着をつけるかに見えたが突如として剣を捨て、謎の構えをしている」
バルザックは剣を手から地面に落とすと同時に内股になり、前かがみの状態で両腕を腹に回していた。
「は、腹がぁっ!!」
私の腹がギュルルルルと悲鳴を上げている。なな、なんだいったいこの便意はぁ!?
おかしい! 試合の5時間前に食事をとり、完璧なコンディションで挑んだはずだ!
「やっと効いたか」
「き、き、貴様ぁ! 貴様が何か盛ったのか!? し、しかし盛る隙など私にはないはず……」
「あったさ、昨日の夜を思い出しな」
「あ……あの時かぁああああああああ!!?」
~昨晩~
オレは昨日の夜、メイドの姿に
「それはなんだ?」
「コチラはお香といいまして、良い匂いの煙を放ち、とてもリラックスが出来ると評判のものなんです。ふふ、このハーブティもどうぞ」
もちろん嘘だ。このお香とハーブティはタバコを使って、永岡を実験台に配合したボラギノ草の
本来なら糞剣だけで事足りるが、なんか気にくわないからダメだ。永岡を犠牲にし、(俺が)苦しめた分、きっちりコイツにも大衆の前で味わってもらおう。
「ありがとう。う~ん、サンドラの紅茶はやっぱり美味しいなぁ」
「ふふっ、そんなに美味しそうに飲んでいただけると私も嬉しいですわ」
「ところでサンドラ……、お前そんなに大きかったか?」
「私は成人していますが、まだまだ成長期なんです」
「いやでもおかしいよね? あからさまに肩幅も広いよね?」
「女性というものは日々進化していくもの……身長も伸び、肩もパンプするなんて常識ですわ」
「そうか。では乳が片方だけしかないのをおかしいと思うのは──私が非常識なんだろうか?」
「きゃあぁッ! セクハラああああああ!!」
「ぐgっぎゃああッ!」
バルザックは強力な平手打ちをテンプルに食らい壁に向かって吹き飛ぶ。
打撃と壁との衝撃で、意識が
「おらぁ! 死ねや女の敵がッ!!」
「ぎぇぁぁあsッ!!」
頭上から鈍器のようなもので殴られたような衝撃。よりいっそう意識が遠のくバルザック。
額から血を流し視界が定まらない。しかしそんな中でも真摯に対応しようと口を開く。
「す、すまないサンドラ……そ、そうだよな、今のは良くなかった。私が非常識だった? あれ? すまない、意識が朦朧として、よく分からなくなってきた……」
「いえ、わたくしも取り乱してしまい申し訳ありませんでした」
「いくらバカザック様が大間抜けで、頭がおっぺけペーでも、暴力は良くありませんでした」
「いやいいんだ……え? 今なんて?」
「とにかく、手当てが済み次第休んでくださいまし」
「そ、そうだな。明日は決勝だ、休ませてもらおう」
~そして現在~
「ひ、卑怯だぞ!貴様には良心というものはないのかぁッ」
腹を抑え、尻の蛇口を全力で閉じるバカザック。
勝負どころではない。もしもこんな大衆の面前で漏らせば──私の姫や王からの信頼は地に落ちてしまう…………。
「そうだそうだぁ! クズ野郎!出ていけっ!! 日本人の面汚しが!!!」
永岡も今起こっていることを理解し、バカザックの味方となっている。
「漏らしそうになってる奴に言われても心に響かない。むしろ晴れ晴れとしたいい気分だ」
「「こいつやっぱり最悪だ」」
(し、しかし負けるわけにはいかん。姫様をこんなクソ野郎に……いや、クソ野郎は私なんだが……とにかく渡すわけにはいかんッ!)
「さてと、そろそろ攻撃させてもらいましょうかね……」
「や、やめろぉ!!」
「はああああああああああ!」
「う、うわあああああああ!!!」
「…………」
「……?」
「「……???」」
「おっとー、どうしたことか。両者動きません。剣を大きく掲げて近づいた兵藤選手も突然止まり、どこか遠くを見ています」
完全に優勢に立っていた兵藤。なぜかそんな兵藤も、攻撃を止めてしまった。
ま、まさか…………。
「は、は、はっ──」
「『は』?」
「腹がぁッッ!!」
(な、何故オレまで便意を
「くっくっくっ、どうやらお前も同じ状況となったらしいな。ふぐぅッ……」
「ま、まさか貴様……」
「いや私ではない、お前自身だ」
「なにを言って……はっ!」
「気がついたようだな。当然だ。お香が炊かれていたあの部屋には、お前もいたのだからなぁ!!」
「しっ、しまったぁッ! うぐっ……」
「この勝負、分からなくなってきたなぁ!?」
(く、状況は悪くなってしまった。しかしまだ勝機はある。先に便意を催したのはアチラ……。つまり、肛門括約筋の限界を迎えるのは奴が先!)
(とやつは考えているだろう。しかし私は王国最強の騎士! 鍛え上げられた体は肛門の戸締まりをも強固にする! つまり、どちらが先に漏らすかは五分と五分!!)
(とあのバカは考えている。しかし、漏れる前に奴に近づき、その体を揺らしてやればダムは容易に決壊するは明白。だが、近づくためにはオレ自身の体も揺れてしまう……)
(とあのクソ野郎は策を練る………がそこに勝機がある。カウンターで奴の腹を突き、全てのクソを押し出し、その蛇口をこじ開けてやるッ!!)
(つまりこの勝負‥‥‥‥)
(つまりこの勝負‥‥‥‥)
((先に動いた方の負けッ!!!))
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