第15話  物の使い方は人それぞれ。

『ただいまよりーッ! 第100回! 大闘技大会をぉおおおッ!』


『開催いたしまーーーーーッす!!!』


『『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!』』


 俺たちはバビロンにて開催された闘技大会に参加していた。


 狙うは2位の賞金。ギャンブルで溶かしてしまった借りた金も返さないと、そろそろ山田に殺されるかもしれない。


 首都バビロンで行われる闘技大会は世界中の猛者が集まり、真の強者を選ぶ雌雄を決する戦いが毎年行われている。


 今回は第100回大会ということもあって、準優勝の賞金は大金貨100枚。つまり1億円近くの金が手に入るのだ。


 たしか優勝はこの国の姫と結婚だったかな? まあそれはどうでもいい。


 この大会では魔法・魔道具・毒物の使用を禁止されており、大会前にボディチェックと武器に解析魔法によって確認が行われる


 本当なら俺がこの大会に出たいところだが、魔法が禁止されている以上、準決勝に進めるか怪しい。正直嫌だが兵藤に任せることにした。


「がんばれー!」

「もしもの時は棄権してもいいからね」

「死にそうになっても棄権するな」

「永岡……」

「ま、やれるだけやってみよう」


(いい加減コイツも痛い思いをした方がいい。それにしても既に嫌な予感がするんだよなー。まあ俺は参加してねえし大丈夫だろ)


 俺の予感とは裏腹に兵藤は順調に勝ち進め、気が付けば準決勝。


 対する相手はビースタ族最強の戦士ニャイガー。


「おいおい、剣の手入れか? さすがのお前も前回大会優勝者は怖いか?」

「うーん、マトモにやったらやばいかもな」

「そうか、まあココまで来れただけでもすげーよ。まさかお前を見直す日が来るとはな」

「おう」


「ところで兵藤……」

「……?」

「お前臭くね?」


 そして準々決勝、その戦いの火蓋が切って落された。


 ニャイガーはその体格に見合った鬼の金棒のような、重く巨大な武器を携えている。

 対する兵藤は自身の身長を超えるほどの長い刃渡りの剣を使用していた。


「ふん、貴様のその剣では吾輩の分厚い皮膚に、かすり傷程度のダメージしか与えられんぞ」


「お前のデカいだけで能のない武器と違って、一発でケリをつけようと思ってはないさ」


「ほざくなヒューマッ!!」

 初撃を飾ったのはニャイガーの打ち下ろしの一発。兵藤はかろうじて躱したが、その威力は地面をえぐり、戦場に大きな地割れのような後を残した。


「どうだ? 貴様の頭蓋骨もろとも体をぶっ潰してやろうぞ」

「言ってろ、バカ猫」


 挑発に乗るかのように一定の距離を保ちつつ、兵藤は剣の切っ先を槍のように突いた。その攻撃は薄皮一枚で避けられ、大したダメージにはなっていない。


「がっはは! そんなものか? これじゃあ剃刀の方が良く切れるぞ」


 ニャイガーは自身の顔に生えたたてがみを触り、勝ち誇ったような態度をとっている。それもそうだ、兵藤は致命傷を与えられない。一方、ニャイガーは一発でも当てれば勝ちの勝負。


 長期戦になれば、どちらが優勢なのかは誰の目にも明らかだった。


 兵藤もそのことは分っているはず、だがあの重い一発を喰らう訳にもいかず、常に一定の距離を保つことを強いられ攻めあぐねていた。


「さあ! そろそろミンチになれええええええいッ!!」


 ニャイガーの猛攻。なんとか避けてはいるがその攻撃はほんの1㎝も満たないギリギリだ。しかも前回やその前の試合を見る限り、ニャイガーの体力は無尽蔵。この猛攻を始めたからには相手をほふるまで止まらない。


「くッ、万事休すか……」


 珍しく弱音を吐いている。まるで鬼ごっこで走る子供のように、攻撃どころか当たらないように避けることで兵藤は精いっぱい。


「おい逃げるな! 戦えーッ!!」

「さっさと潰されろッ!!」

「臆病者が闘技場に来るんじゃねえ!!」


 会場からは防戦一方、逃げの一手の兵藤に大ブーイングの声が溢れていた。


「クソ、てめえらの方が弱いだろうが」

「ひどい……兵藤もあんなに頑張ってるのに」

「私、文句言ってる奴を射殺してくる」

「待て待て!」

 セラルは観客の心ない声に怒り、顔を真っ赤にしながら弓と矢をもって席から離れようとしていた。


「まだ試合は終わってないんだ。最後までちゃんと見ようぜ」

「……そうだね、わかった。見る」


 なんとかセラルを制し、勝負の結末を見守ることにした。いくらあのクズでも殺されたり、負ける姿は俺も見たくない。


 でも……これは無理だ。

 

 逃げ続けていた兵藤も、徐々にニャイガーの攻撃がかすり始めた。

 攻撃を当てた回数は兵藤の方が上だが、明らかに兵藤の方がダメージを受けていた。


「ふうーッ、さすがに答えるな。……」


「お前のような憶病者は久々だ。攻撃を直撃した時の悲鳴が楽しみになってきたぞ。いや……声さえ上げられない姿になるだろう。ふんッ」


 ニャイガーは一気に距離を詰め、ついに兵藤の横腹に一振りを直撃させた。


「ぐ──っハぁ!」


 声にならない声を出し、そのまま兵藤は壁に突き刺さり吐血した。

 あの攻撃はやばい、ほんとに死んじまうぞ……。


「ほう、あの一撃を食らってまだ息があるのか」

「ばーか……、わざと食らってやったんだ」


 そんな訳はない、このままじじゃ…………。


「おいッ! 早く棄権しろ。死ぬぞ!!」

 俺は気が付くと大声で叫んでいた。

 が、ダメージがデカすぎてか兵藤はこちらの声に気づいていない。


「さあ、腹も潰れて苦しいだろう。そろそろトドメを刺してやる」

「ああ、オレもそろそろとどめを刺してやるよ」


「は? なにを言っていりょのっくぁさr」

 ───ッ!? 


 なんだ? 口が痺れて声が出しにくい……。呼吸もしにくい……。

 まさか毒!? いや、それはない。解析魔法で厳重にチェックされているはず。ではなぜ──?


「本来ならもっと早く効くはずだったんだが、そのデカい体のせいか、はたまた種族的な強さなのか知らんが時間がかかったな」


「き、きてゃまなにうぉぢた」


「知るか、その小さい脳みそで考えろ」


 兵藤は呼吸不全に陥り、更にに体が痙攣し、硬直しているニャイガーとの距離を一気に詰め、


───その胸を突き刺した。


 こうして兵藤はニャイガーとの闘いに勝利。



 「おい兵藤、お前何したんだよ?」

 「ん? ああ、『うんこ』だよ」

 「はあ?」


 兵藤は試合前の夜に首都壁外にある牧場に行き、畜生の糞を大会で使用していた剣にたっぷり漬けていたらしい。


 かすり傷一つでも、傷口から剣に付着した菌が体内に侵入し、破傷風を引き起こす。

 ニャイガーのパワーやスピードは症状の進行と共にゆっくりと落ち、先程食らった一撃から勝利を確信した。だそうだ。


だが勝負の前、解析魔法でバレなかったのは何故?


「なぜなら、うんこは毒ではないからだ」

「う、うんこは毒ではない……」

 

 正確には病原菌が大量にあるため、傷口などに入ると破傷風などを起こし、人体に害をおよぼす。


 が解析魔法は「うんこ」を毒とみなさなかった。つまり「うんこ」は違法ではない。「うんこ」は合法なのだ。


 そのことに気づいたオレは首都を出たところにある牧場の家畜小屋に侵入し、畜生のクソを手に入れたって訳だ。


 「……とりあえず、決勝はうんこ剣禁止な」

 「えー、うんこダメなの?」


 「ダメに決まってんだろうがクソ野郎」


 そして兵藤は、決勝の舞台に進んだ。

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