第41話 王都の生活
住む場所が決まったらドワーフの里に残してきた荷物を取りに行くつもりだったけど、結局こっちで全部新しいのを買い揃えちゃった。
「あっちのは里帰りした時に使えばいいじゃない」っていうロベリー師匠の有難いお言葉に甘えて。
という事で無事に準備が整い、ついに王都での生活が始まった。食事についてはちょっと心配してたけど何の問題も無かった。だってどのメニューも日本っぽい味付けだったり日本のお店で出てきそうなものばかりだったから。
それにしても作中に出てこないようなメニューまでもが日本寄りなのは、原作が日本で作られた物語だからだろうか。うーむ、謎だ……
で、肝心の仕事の方なんだけど……こちらも思いの外順調だ。
何しろ錬成に関するミカの知識と技量は十分過ぎるくらいの水準だし、そもそも私が作る事になっているクリームだってどんな物なのかは初めから知ってる――ただし原作に書かれてた範囲に限る――し。
そして要となるのがロベリー式の錬成。
これも原作で読んでたから知識としては知ってる。
錬成する時みたいに目の前の物体に魔力を流しながら、同時にその物体に話し掛け『説得』する……と。
まあ実際はその言葉で『説得』するのは自分の魔力に対してであり、その概念に染まった魔力が対象を変質させる、ってところじゃないかな? でもここって一応ファンタジーな世界だから、もちろん本当にスピリチュアルな現象の可能性だって無い訳じゃない。そもそも日本にだって道具に魂が宿る付喪神なんてのもあるしね。よし、油断せずに行こう。
なんて事を思いながらやってみたんだけど……
何とアッサリ成功しちゃいました! いやだってこの感覚って何度も見てきた『概念の実体化』にそっくりだし――
――って、『概念の実体化』?
ふと頭に浮かんだんだけど、コレ完全に謎の言葉だ。いや、単語単語の意味はもちろん分かるんだけどさ。
うーん、何故急にこんな言葉が浮かんできたんだろう? かつて見てきた作品のどれかに出てきてたのかなあ……
「ちょっとミカ凄いじゃない、あのピノだって付与のコツを掴むまで少し時間が掛かったのに。それをこんな簡単に成功させるなんて、あなた一体ドコのカルアくんよ!?」
あはは、ヒロインと主人公の名前がサラッと出てきちゃった。もしかして二人にもそのうち出会ったりするのかな。
「これだったらすぐにクリームの製造を任せられるようになりそうね。そうなれば私も室長の秘書業務に専念できて、そうしたら各所からのクレームだってきっと減るはず……ふふ、ふふふふふふふふふ」
暗い笑みを浮かべるロベリー師匠……原作通り自由人のモリスさんには相当苦労させられてるみたい。
そんなあれやこれやがあって、ついにクリームの製造販売会社が立ち上がった。
主商品――というか現在唯一の商品である美容クリームは、一般グレードと高級グレードの二種類を製造・販売する事になった。
一般グレードは『魔石抜き』と呼ばれる魔道具で魔物から抜き取った魔石が原料となる。
対する高級グレードはこの物語の主人公がそのスキルで魔物から抜き取った魔石を原料とし、更にそれを入れる器にはミッチェル兄貴の工房で作られたガラス容器を使用する。
そして付与……実はどちらのクリームにも全く同じ付与を行っているんだけど、その結果が全然違う。
主人公の魔石への付与は、なな何と一般用と比べて二倍くらいの効力を発揮するんだの! おっと、思わずミカの口調が出ちゃった。
これが
て感じで製造を開始した美容クリーム――商品名『聖女のクリーム』なんだけど、これがまあ売れること売れること。作った傍からどんどん出荷され、それでも全然需要に追い付かない。これで『休むな、無心で作り続けるんだ』なんて方針だったら異世界ブラック企業の爆誕な訳だけど、幸いうちはそうではない。だってトップで仕切ってるのがホワイトミッチェルならぬホワイトロベリーなのだから。――というか美白クリームの会社がブラック? そこはホワイトでしょ。
って訳で今日は休日だ。朝からいい天気だし街ブラにでも出ようかな。
「……でも何か目的は欲しいなあ」
せっかく王都にいるんだから物語の舞台の見学ツアーとか? それなら『学校』とか『ベルベルさんのお店』あたりかな? あと他にはギルド本部――はもう何度も見たからいいや。ああそうそう、マイケル兄貴とミヒャエル兄貴の店も物語に出てきてたっけ。そう言えばまだ二人には挨拶してないなあ。
という訳で本日の目的地の発表です! ダラララララララランッ、マイケル兄貴とミヒャエル兄貴の工房に決まりましたー。ぱちぱちぱちぱち……
マイケル兄貴は武器職人でミヒャエル兄貴は防具職人。職人が集まった地域に隣り合って工房を開いている。ちなみにどちらの工房も王都では超有名、自慢の兄貴達だ。
そう言えば職人が集まる地域ってどの辺りなんだろう。
確か原作では大通りから少し入った辺り……って書いてあった気がする。うーん、これだけじゃ全然参考にならないな。よし、取り敢えず大通りに向かおう。そこで誰かに訊けば何とかなりそうな気がする。
という事でやって来ました大通り。道沿いにずっと大小様々なお店が並んでいる。どの店も隣の店と隙間無く並び、まるで商店街って言うか大型ショッピングモールみたいな感じだ。同じお店でも
……ん?
実花照って何だ?
またまた脳裏に浮かんだ謎のワード。何だろう、胸の奥がザワザワというか凄くモヤモヤする。何か……そう、とても大事な『何か』を忘れてしまっているみたいな……
◇◇◇
「姉さん、実花の記憶の封印ってちょっと緩んでたりしませんか?」
「うーん、そんな筈は……ちょっと待って、今調べて……大丈夫、ちゃんと稼働してるわ」
「――でも、ここでの事が時々意識に上っているようですけど」
「その事だけど……どちらかと言うと意識に上ると言うより無意識に湧き上がる感じだと思うの」
「無意識? ……っそうか、つまり脳に刻まれた記憶ではなく――」
「ええ、魂に刻まれた記憶ね。今回の目的からしたら魂に干渉するのは良くないから、もしそうならどうにも出来ないわ。それにしても……そっか、ここでの生活は実花にとって魂に刻まれるくらいに……」
「姉さん……ちょっと他人に見せられないくらい顔がニヤけてますよ?」
「だって嬉しいんだものっ」
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