第30話 ヤマダノオロチ伝説
「……何で店の中に猫が飛んでるんだ?」
カランカランと扉を開けて入ってきたのは……
「あ、スサさんいらっしゃいませ」
「愚弟よ。襲来よ。あ、クッシーもいるよ」
「こんにちは。ヒル
ええっと、お隣の美人さんはどなた?
「初めまして。わたし、スサノオの妻でクシナダと言います」
あら、ヤマタノオロチ伝説!
「ああ、その顔はやっぱりあの話を聞いてるんだな。言っとくけどアレ、完全なデマだからな」
「え? あれもですか?」
「ああ、あの話はそもそも冒険譚なんかじゃないんだよ……」
ほほう、聞こうじゃないか。
「こう見えてクシは大の爬虫類好きでな、中でも特にヘビが好きで昔から飼ってたんだが……」
あ……
「その中でも特にお気に入りだったのが、『山田』って名付けて可愛がってた大きなヘビだったんだ。それである時その山田の奴がいなくなってな、クシが周りの連中に聞き込みをして回って、どうやら人界に迷い込んじまったらしいって事が分かったんだ」
いきなりオチが見え始めて……
「たまたまその時人界にいた俺が、そこに山田を探しに来たクシと出会ったんだが、話を聞いて探すのを手伝うことになったんだよ。で、その縁でその後俺達は結婚する事になったんだがまあその話はいいか。で、山田の奴は結構な大きさだったからあちこち目撃されててな、その目撃情報を辿っていってやっと山田を見つけた訳だ」
やっぱり……
「じゃあ……生贄とか酒とか剣とかは?」
「生贄って、そもそも飼い主だからな。酒と剣は……まあ何というかそもそも山田が逃げ出した原因が、這っている最中に運悪く地面に落ちてた鉄の杭が尻尾のあたりに刺さってパニック起こした事らしいんだ。で、もう見当がついただろうが、その杭を尻尾から抜いて持ってた酒を消毒代わりに使ったってだけの話だ。まあ、人の噂ってのは恐ろしいものだな」
ははは……
「成程よく分かりました。それでその山田さんはその後どうなったんです?」
「ああ、今でも飼ってるぞ。何だったら今度連れて来ようか? ……あ、もし猫を食っちまったらゴメンな」
「絶対連れて来ないで下さい! 山田さんは出禁です!!」
そうか、あの話ってただのペット探しだったんだ……
でもペットのヘビが逃げ出したとか、今でも大騒ぎになるからなあ。テレビとかで連日取り上げられるし、警察や専門家の出番って事になるし。
そのあたり、昔も今もあんまり変わらないって事か……
「で、何で店の中を猫がたくさん飛んでるんだ?」
おお、冒頭に戻った。
「この猫さん達はこのお店の店長さん達なんですよ。そして何故飛んでるかと言えば、それはハロウィンの仮装で空飛ぶ蝙蝠羽を付けたからなんです。どうです? うちの店長達は可愛いでしょう?」
「ハロウィン……ああ、最近の作品でよく題材になってるアレか。言われてみれば確かに店の中もそんな感じだな。よし、だったらひとつ俺も気合いの入ったコスプレを……」
「駄目です」
「え?」
「これは『仮装』ですからね。『コスプレ』は駄目です」
「む……その違いがよく分からんのだが?」
「ハロウィンの仮装はあくまで幽霊やお化け限定です。他作品題材のものは受け付けません」
そのあたり線引きはキッチリとね。
「では某作品に出てくるような化物などは?」
「あくまで良識の範囲内で。言い訳の効かないレベルはNGです」
「成程……そこがボーダーラインという事か」
「まあいずれにしても、当店は普通のお店ですからね。お客様の仮装をお手伝いするようなサービスは行っておりません」
「むう、ならば仕方がない。コスプレは家で楽しむとしよう。ちなみにここには衣装などは売っていないのか?」
「流石にそのあたりの商品は揃えていませんね。トンキホーテンとかで探してみたらどうです? 組み合わせの工夫次第で結構行けると思いますよ」
まあ元ネタ見てるんだから実体化出来ちゃいそうだけどね。
「ところでスサ、結局あなた達はお店のお客様っていう事でいいのかしら?」
おっとここで天照さまの軌道修正が。
「ああそうだった。すまないが色々見せてもらうぞ」
「はい、ごゆっくりどうぞ」
スサさんとクシナダさんは、仲良くショッピング中。
ってホントに仲いいわね。スサさんも見た事無いような優しい表情してるし。
にしても、あのクシナダさんが実は爬虫類好きで大蛇の飼い主だったって……
大体いくら神話だからって話盛り過ぎじゃない?
行方不明のペット探しが頭が8つある大蛇の話になるなんて、ねえ……
おっと、どうやらお酒とおつまみを中心に買い進めている様子。
あら、お菓子類も大量に。
あれ? あのハムの塊、まさか山田さん用なんて事は……
はい、お買い上げありがとうございます。
スサさんの神力の色は黒でした。
「さあ、それじゃあこれから月読も呼んで家でコスプレパーティだな」
ナニソレ裏山!?
超行ってみたいんですが!!
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