第29話 鶏皮手羽元ハロウィンフェア

伝説の三つ巴の食べ比べを終えてまったりした空気の中、天照さまからこんな話題――いやご神託が。

「やっぱり期間限定フェアとかは鉄板よね」


最近、導入のネタ振り担当っぷりが板についてきた天照さま。

新ジャンル『ネタ振りの女神様』爆誕! なんてね……


「期間限定っていうと、旬の果物とか季節イベントとかですか」

「そう! 旬だと季節によってイチゴとかリンゴとか栗とか。イベントなんかだと正月とかハロウィンとかクリスマスとかよね。あと大作映画とのコラボイベントもいいわよね。当たり外れが大きいけど」


天照さま……そこは当たり外れじゃなくって興味嗜好の違いだけ、あくまで個人の見解ですっ。


「……というわけで実花、ハロウィンフェアをやるわよ」

「っと、いきなりですね。そして何故数あるイベントの中からハロウィンをチョイス?」

「それは……今が丁度その時期だからよ」


へえ、今ってそんな時期だったんですね。

あれ? そういえば……神様関連のイベント月も同時期じゃない?


「天照さま、そうすると神無月もそろそろです?」

「そうね……大体ハロウィンのちょっと前くらいってところかしら?」

「神無月、ですよね? あれって日本の神様が出雲に全員集合していなくなっちゃうから『神無月』って名前になった、って聞いてますけど?」


「ああ、その話ね……私達としてはそんなイベントは無いんだけど、昔の誰かがそんな事言い出してそれが広まったみたいよ。夏にウナギ食べるみたいなものよね」

「ええー、じゃあ全員集合しないんですか?」

「んーそれなんだけどね、出雲の方でそんな地域イベントやってるぞって話がこっちでも広まってね、その見物に行くひとが結構いるのよ」


まさかの逆パターンだった!


「結果、今では一定数の神様達が集合するイベントになっていると……」

「まあみんな暇だしねえ。ああそうそう、他の国の神様達も見物に行ってたりするわよ。その時期に合わせてツアー組んだりとか」


うーん、ふりーだむ。


「まあそんな訳でハロウィンフェアなのよ。商業的には2か月間くらいがハロウィン期間よね? うちも乗っかるわよ。ヒルちゃんももちろん好きよね、ハロウィン」

「ハロウィンやるよ。みんな驚かすよ。鶏皮手羽元とりかわてばもとよ」


鶏皮手羽元とりかわてばもと……? もしかしてトリックオアトリートの事かな?


「じゃあ満場一致でハロウィンフェア開催決定って事で。宗教的には意味合いとかあります?」

「もともとは収穫祭と大晦日が一緒になったみたいな地域的なお祭りだったんだけど、そのあと大規模なM&Aがあってね……各団体のいろんな思惑が絡み合ってもう滅茶苦茶よ。今じゃあ宗教って言うよりほとんど商業的と言ってもいいお祭りになってるの。ただそのおかげで逆に世界中にふんわりと受け入れられた訳だから、これもまた何処かの神の思し召し、ってところかしらね」


業界の皆さーん、あくまで個神こじんの見解ですよー。


「だから一般的なテンプレでOKよ。黄色と黒と紫主体で、カボチャをくり貫いてくり抜く感じ。並べる商品はパッケージだけそれっぽく変えて中身は通常商品でいいんじゃない? パッケージだけのコラボ商品とかも世の中にはたくさんあるしね」


業界の皆さん怒らないでぇ! あくまで個神こじんの見解ですからっ!


「あとは店長さんたちにハロウィン関連のコスプレしてもらうとかかしら。まあコスプレって言っても、それっぽいアクセサリー付けたりとか、あとは帽子みたいなのをかぶってもらったりくらいだと思うけど。」


あくまで個神こじんの……素晴らしい見解ですねっ!!


「いいですね店長ズのハロウィンコス! もうそれだけで十分ってくらいじゃないですか? いやむしろそれがイベントのメインでは!? あっそうだ、むしろ店長ズの為のイベントって事でどうです? ハロウィンとか逆にいらなくないですか!?」


「ああ、私ったらまたスイッチ押しちゃったのね。こんなに分かり易いスイッチなのに……。実花お願い帰ってきて! あなた今金メダル取れるくらいの速さで迷走してるわよ!」


衣装が決まり、それを着た店長ズが次々とランウェイを闊歩する――その最中いきなり目の前に天照さまが!?

何だか視界が定まらないと思ったら、体がガックンガックンと揺さぶられている。

え? 何があったの……?


「帰ってきてくれたのね実花、ああよかった……。さあ準備を始めましょう。フェアの垂れ幕とかポスターとか作って店中に貼るわよ。商品もハロウィンパッケージのものに差し替えましょ」


んー、結構大変そうかな?


「それが一通り終わったら次は店長さん達のアクセサリーね」


むっ、雑多な業務はパパっと終わらせて至急店長ズに取り掛からねば!


「分かりました。五分で終わらせましょう!」

「実花、急にやる気出しすぎよ……」


そして五分後、店内はすっかりハロウィンモードになりました。




「天照さま、私の一押しは蝙蝠の羽なんですけど。こう小さい羽根なのにパタパタ羽ばたくとホントに飛べるとか、最高じゃないですか?」

「あら、それ面白いわね。ちょっと実体化してみるから想像してみて。構造とかどうやって取り付けるとかはまるっきり無視して構わないわ。秘密道具的なアレな感じで」


えーーっと……こんな感じ!


「準備オッケーです」

「じゃあ手を出して……ええとこんな感じね、じゃあ……えいっ」


テーブルの上には左右がつながった蝙蝠の小さな両翼が現れる。

「もうちょっと大きめなのも出してみるわよ」

天照さまがそう言った次の瞬間、目の前には子供用コスプレサイズの羽が現れた。

このサイズ感、もしや――


「ヒルちゃん、ちょっとこれ付けてみて。飛べるようになるから」

「おお、付けるよ。飛ぶよ。フライハイよ」


ヒルちゃんは背中に取り付けると、羽をパタパタ動かす。

後ろを見ながら動かしかたを変えたりと、感覚を確かめているみたい。

「大体分かったよ。じゃあ飛んでみるよ。テイクオフよ。」


そう言って羽をパタパタさせたヒルちゃんはふわっと浮き上がり、そのまま店内をゆっくり飛び回り始めた。

おおー、ホントに飛べてる……


ヒルちゃんの飛行姿に感動している私の横で、店長ズとバステト様の分、あと私と天照さまの分の羽も用意してくれた天照さま。

そのあとアクセサリー類も作って、もちろんみんなで付けましたよ。


店長ズも初めての飛行体験が気に入ったみたい。

こうして実花照は、角のアクセサリーや蝙蝠の羽を付けた猫達が飛び回る、そんな素敵な空間へと変貌を遂げました。




やっぱもうハロウィンじゃなくって店長ズのイベントって事でいいよね!

――ダメ?

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