第37話 ニッポンの南国

「天照センパイ、ハイターイ」


扉の向こうから声が聞こえる。

どうやら……っていうかあれって間違いなく天照さまを呼んでますよね、天照――センパイ?


隣の天照さまは軽く苦笑い。声の主に心当たりがあるみたい。

「どうぞ入ってきて」

天照さまの声は扉の向こうの誰かさんに届いたらしく、少し緊張してるみたいな感じで扉が開いた。


カランカラン……

「では失礼しまーす」

その声と共に扉から入って来たのは――


何処と無くくっきりとした浅黒い顔に二重瞼のクリリとした瞳、髪はボーイッシュな黒髪ショート、そして引き締まった体つきの……えっと、どちらの高校の陸上部ですか?


「実花、こちらはキンマモン様よ。海と太陽を司る沖縄の守り神として信仰されているの」

「おーっ成程! 沖縄の神様なんですね」

言われてその顔立ちに納得。それに海って言うのも実に沖縄らしいし……ん? 太陽?


「太陽って天照さまとカブってません?」

「ふふっ、そうなのよ。それでこのったら――」

「カブるなんてとんでもない。わんねーどちらかというと精霊寄りの神で天照センパイはガチの太陽神様だし、それに上司の娘さんにあたる神様だし……」


上司の娘さん、とは……?

えっと……天照さま?


「沖縄のクニ作りもうちの両親の仕事だったのよ。呼び名は違うんだけどね」


所変われば名も変わる、みたいな?

でもはい、『上司の娘さん』ってのは分かりました。あとは――

「それで、『センパイ』とは?」


天照さまも陸上部だった、とか……?


「あの実花、私部活動とかやってませんからね? っていうかこの娘も陸上部じゃないし。」

「わーが『センパイ』って呼ぶのはセンパイがそう望んだから――」

「ちょっと何それすっごく語弊があるわよ? 貴女が『太陽の肩書きを返上する』とか言い出した時に私『太陽神なんて世界中に沢山いるから気にしないで』って言っただけよね? そしたら『じゃあせめて天照センパイと呼ばせて貰います』って言ったのは貴女だったわよね?」


「あれれーおかしーなー、そうでしたっけー?」

「某少年探偵張りの何てキレイな棒読み……って全部アカシックレコードに記録されてるから誤魔化されないわよ? あれRO書換不可ですもの」

「ふふん、でもあの会話って薄目で俯瞰していい感じに意訳したら、わーぬ言ったのも全くの嘘って程でもないですし」

「うぬぬ、ホントに100パーセント嘘だって言い切れないのが……」


これが政治家とかが時々口にする『丁寧に説明を繰り返すしかない』って奴だろうか。て言うか……


「お二人の会話って、何だか本当に運動部の先輩後輩みたいですね。それもかなり仲良さな――」

「なっ!?」

「おおっ、さっすがセンパイの眷属ぅ!」

私の率直な感想に表情が固まる天照さまと表情が輝くキンマモン様。


……で、そろそろ紹介も終わったみたいですし、話を進めません?

「それで、神様はお客様ですか?」


だってほら、ここはお店ですから。




…………で、買い物を終えたキンマモン様とお店のテーブルを囲んで雑談が始まった。

「全く情報届くの遅すぎって言うかさ、わーぬ周り皆のんびりし過ぎだって」

キンマモン様の元に大好きなセンパイがお店を開いたって聞いて大急ぎでやって来たんだけど、そもそもその噂が流れてきたのが今だったと……


そう愚痴を溢すキンマモン様だけど、その格好が……

早速買ったばかりの実花照Tシャツに着替え、額にはナント海人うみんちゅバンダナを巻いている。地元に寄り添ってるなあ。


「――わんねー海の神って事にもなってるし」

職業意識たっかいなー……うちのセンパイよりも。

「実花が失礼よ。私だってちゃんと太陽神のお仕事やってるのに」


太陽神のお仕事……って何だろう?

太陽の管理とか?


「あら、鋭いわね。こう見えても私って燦燦さんさん会の幹部ですからね。よく会合に出席したりとかしてるのよ」

「燦燦……会?」

「ええそう、燦燦会っていうのは世界中で信仰されてる太陽神達の集まりなの。そこでは数世紀単位での気候変動を決めたりとかしてるのよ。『最近の暑さヤバくね? そろそろ氷河期どうよ?』なんて」


軽っ……っていうか普通に単位が数世紀とか。


「あれ? でもこの間、日照りとか地上の洗い流しとか自由に出来るみたいな感じの事言ってませんでした?」

「ええ、出来るわよ。自分の管理地域に関しては独自裁量が認められてるから。幹部だし」


ああ、そうですか……


「わーにん燦燦会に出席するんだけど、ティダの天照センパイもいるから今一立ち位置が中途半端って言うか……」

「ティダ?」

「沖縄で太陽の事よ。沖縄には太陽そのものを信仰する風習もあるから……まあ結局は両親と一緒でそれも私だったりするんだけど。ルーツが同じ宗教だとよくある事よ」


同じ地域で自分とは別に太陽そのものが神として信仰されてるとか……うーん、確かにそれじゃあ太陽の肩書き返上したくなるかも。


「大体それ言い出したら世界中でどれだけの神様が立ち位置カブってるって話よ。だからこその燦燦会だもの。いつも言ってるでしょ、『それはそれ、心に神棚を作れ』って」


いや神棚って……あれ? 逆に正しいのか?


「うるっ、センパイ……っ」


私の心のツッコミは誰にも届く事無く、目の前ではキンマモン様が目をうるうるさせて天照さまを見つめてる。

『センパイ』よりむしろ『おねえさま』とか言いそうだなコレ。


でも同じ場所でこの二人の立ち位置って確かに何だか…………あっアレだ!


「そっか、ポテチの塩味とプレミアム塩味の違いって感じですねっ」

「っ!? 神としてのアイデンティティ問題が、突然ポテチでまとめられた!?」

「実花、それは余りに………………あながち間違ってはいないような気もしなくもないけど」


それではお後――後味がよろしいようで……




「無理矢理落ちた感じにされた!?」

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