第38話 鑑賞会から突然の……

今日は天照さまと二人、奥の部屋でソファに座ってのんびりまったりと。

「最近色々と忙しかったし、今日はお休みにしちゃいましょ」

そんな天照さまの提案によって。


お店の前には天照さまが実体化しつくった「本日休業」の札を掛けてきた。

でもその札、横に小さく書かれている「我が眠り妨げし者に八百万の災い在れ」って――いや私は何も見なかった!


で、部屋に戻ると壁の大型ディスプレイに何かのアニメのオープニングが流れ始め……あ、これ――


「異世界系、ですか……?」

「ええ、今日は何だかそんな気分なのよね」

「まあ確かに頭を休めるにはいい選択……なのかな?」

「私異世界モノって結構好きよ? 何て言うかどの作品も同じテーマの中で色々と趣向を凝らしてるじゃない? それにチートとかTUEEEEとかって、結構感情移入し易いから」


チートやTUEEEEが感情移入し易い……とは?


「だって神様だもの」


あー超納得。確かに神様って究極にTUEEEEチートキャラだ。


「昔――今よりずっと私達が人界と近かった頃の話なんだけどね、その頃ってこの主人公キャラみたいな感じの男神おがみって結構いたのよ。チート能力振り翳して可愛い信者のをたくさん引き連れて、みたいな。ほら、神話ゴシップとかにもそんな話残ってるでしょ?」


ああ、可愛い女の子に手を出して奥様に怒られた神様とか……


「あと逆にどこかの神からチートっぽい能力を貰って英雄認定されて信仰心を集めて神格を得た人間とか……」

「それって異世界系の鉄板テンプレ!!」


うーむ、まさかテンプレが実話ノンフィクションだったとは……


「まあそんな感じで実例とかよく見てきたからか、異世界モノって何だか懐かしく感じちゃって……あ、最近はこう言うの『エモい』って言うのだっけ?」

「ええまあ。でも異世界系がエモいとか、一部のアンチに燃料投下しちゃいそうですけどね」




――なんて雑談を交わしながらまったりと異世界アニメ鑑賞。

男の子、女の子、転移、転生、それに人外転生とか……次はゲーム世界の悪役令嬢モノ――と見せかけて実はTUEEEEな展開だと!?


「にしても、ほんっと色々ありますねー」

「そうね。こうやってテーマを決めて連続で観るのも楽しいわー」

「あはは……頭の中で設定とかキャラとかごちゃ混ぜになりそうなんですけど」

「ふふっ、それがまたいいんじゃない」


そんな感じで鑑賞会は続く。

途中でお店からポテチとコーラを持ってきたり、作品中で出てきたカップ麺が食べたくなって作ったり。途中からバステト様や店長ズがやって来て鑑賞会に参加したり。

で、とうとう鑑賞数が十作品を超え――ってちょっと待て、一作品当たり二十五分×十二話で三百分つまり五時間だ。それが十って事は……五十時間ぶっ通し、だと?


「天照さま大変です、私達今二徹状態です」

「あらホントね、岩戸思い出すわぁ」

岩戸って……引き籠ってブルーレイ鑑賞してたって言うあの天岩戸事件か。

ってちょっと待って!?

まさか今、原因不明の長時間皆既日食で大パニックになってたり……

「ふふっ、そんな事起きる訳ないじゃない。私がそうしようとしない限りは……ね」


またそうやってサラッと怖い事を言う……




鑑賞した作品数は順調に伸びてゆき……とある作品でチートを発揮する主人公の姿を眺めていた時、天照さまがふと訊ねてきた。

「ねえ実花、実花も異世界に転生してチートとかやってみたかったりする?」

「んーー、どうでしょう?」


チート、かぁ……

それはそれで面白そうだけど、でも今のこのお店での神様達との触れ合いも楽しいしなぁ。


「まだあなたを輪廻の輪に戻してあげる事は出来ないけど、でもお試しで異世界に連れて行ってあげる事だったら出来るわよ?」

「えっ、お試し?」

「ええ。そこの世界を管理する神様にお願いして暫く滞在させてもらうの。短期異世界滞在ホームステイって感じかしら。その世界のことわりを乱さない範囲でだったらチート能力だって使えちゃうわよ?」


ちょっと天照さま、何ですかその突然の魅力あふれる提案は……


「それって……天照さまとかも一緒だったり?」

「うーん、流石に私もって訳にはいかないかな。可能性は物凄おーく低いけど、それでも私の神力ちからがその世界から異物と捉えられちゃう可能性があるから」

「……そうなるとどうなっちゃうんです?」

「世界が異物を排除しようとして世界規模での天変地異とか空間遮断とか……」

「怖っ!!」

「でしょー?」


でもそうすると私一人で異世界かぁ、うーむ……

そう考えると異世界モノの主人公ってメンタル凄いな。


「あっそうそう、比較的敷居が低い異世界とかもあるわよ?」

「敷居が低いって……何です?」

「あのね、実花は『人の認識から世界が生まれる』なんて話聞いた事ない?」

「ええっと……大昔のSFとかでそんな題材があったような?」

「あれってあながち間違いって訳でもなくってね、多くの人が同じ認識を持つ事で少し薄めではあるんだけど一応世界としては成り立つっていうか――ほら、さっき観たアニメの中にも幾つかあったでしょ?」


さっき観たアニメでって……っもしかして!?


「そう、ゲームとか物語の世界への転生よ。日本発のだったら一応私の管理下の世界って事になるし、ちょっとやり過ぎちゃってもパラレルワールドとして分岐するから元々の物語には何の影響もないし。ほら、アニメのオリキャラやストーリーが原作に影響しないようなものよ」


ああ、劇場版だと心の友なガキ大将とか……

ってちょっと待って、それって――


「お気に入りのアニメの世界とかに入りたい放題でやりたい放題……」

「――あら、物語は見て楽しむのが一番よ? だって自分が思ったのと違うからこそ楽しいんだもの」

「ああ、そう言えば前にもそんな事言ってましたねー」

「で、そういった世界だったら事前に情報とか持ってる訳だから――」

「なるほど、初見の世界よりも敷居が低い、と……」


こうしてなんやかんやで異世界滞在ホームステイする事が決まり、私はそのまま天照さまの手でとある世界へと送り出された。




――だから私がいなくなったその後にこんな会話があったっていうのは、後で聞いた話。


「にゃあ天照、随分突然だったけどさっきのアレは一体にゃんだったにゃ?」

「最近実花の魂が神界に馴染んで来たでしょ? それ自体は別に悪い事じゃないんだけど、あまり魂が神寄りになっちゃうと人間として輪廻の輪に戻るのが難しくなっちゃうのよ。だから魂をニュートラルに戻す為に一度神界から距離を離して…………」


つらそうな表情を見せる天照さま。

「いずれ来るその時、…………実花が自分の意志で人と私の眷属の……どちらも選択出来るように……しておいてあげなくっちゃね」

「天照……お前、そのにゃみだ……」

「あら? あらあら? 私ってば突然猫アレルギーかしら?」

「――ふん、そういう事にしといてやるにゃ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る