第39話 ドワーフ少女が就職するお話です
私の名前はミカ、ドワーフの里ではちょっと名の知れた美少女だの。
兄貴達は一人を除いて全員他の街へと移り住んでいて、私はその一人――つまり一番上の兄貴のミゲル兄貴とこの里に残っているんだの。
ドワーフは鍛冶と錬成が得意なんだけど、私はあまり力が無いからどっちかっちゅうと錬成の方が好きだの。でも鍛冶だって出来ない訳じゃないだの。むしろ里の中でも出来る方だの。
……ちゅうても兄貴達には負けるけど。
そんな私、美少女ドワーフのミカは今日も元気に錬成を始めるだの――
「帰ったぞぉー」
と思ったら玄関の方から聞き覚えのある聞こえてきたの?
誰だの? これは急いで出迎えなきゃだの。
「おー! ミッチェル兄貴だったの! 久しぶりだの!」
ミッチェル兄貴はヒトツメの街でガラスの工房をやってる有名人。『錬成ガラスのミッチェル工房』って言えば王族や貴族がホイホイ寄ってくる超高級ブランドだの!
「おおミカ、久しぶりじゃの。前に見た時より随分大きくなったのお」
そう言って私の頭を撫で繰り回すミッチェル兄貴は前と全然変わりがないの。
「そうだの! その時から一センチも伸びたんだの! 身長爆上がりだの!」
「ほーかほーか。一年で一センチならあと七十年すれば二メートル越えるのう」
「余裕で越えるの!」
「がははははは」
「のははははは」
やっぱミッチェル兄貴は全然変わってないだの。
相変わらず鉄板ネタも冴え渡ってるだの。
「それでミッチェル兄貴、今日はどうしたのだ?」
「おお、お前の事でちょっと話があっての。ラーバルに連れてきてもらったんじゃ」
ミッチェル兄貴の後ろから顔を出したラーバルさんは、時々遊びに来るカッチョいいエルフの旅人さんだの。
だから私もここは練習に練習を重ねた完璧なエルフ語でご挨拶だの。
「こんにちはラーバルさん。兄を連れてきてくれてありがとうございます。お久しぶりだの」
のはははは、我ながら完璧だの!
「ええ。お久しぶりですミカさん。こうしてまたお会い出来て嬉しいですよ」
おー、やっぱりネイティブなエルフ語はカッコイイんだの!
ちゅう感じで一通り挨拶が終わったところでミッチェル兄貴が声を掛けてきた。
「ほんでミカ、今日はミゲル兄貴はおるか?」
今日はミゲル兄貴に会いに来ただの? ミゲル兄貴だったら――
「奥の部屋にいるの。さっきまで鉄を打ってて、今は書類に打たれてるの!」
ミゲル兄貴は目の前に鉄がある時と書類がある時で表情が分かりやすく真逆になる……ちゅうかドワーフなら全員そうなるんだの。
「よし、じゃあ行くか」
「おー! だの」
――って私も一緒に行く、だの?
何故か一緒にミゲル兄貴の部屋に入る事になった私は、二人と一緒にテーブルを囲んでミゲル兄貴の書類仕事が片付くのを待つの。ミゲル兄貴は里の取り纏め役をやってるの。他の誰もやりたがらない仕事をやるっちゅう偉い兄貴だの!
……暫く待ってたら、ある程度書類が片付いたみたいだの。
「すまない、来客に無礼をした。ラーバルさん、お久しぶりです」
そう言ってミゲル兄貴が私達のところへやって来た。
ラーバルさん、私も聞きたいだの。
今日は一体どうしただの?
「実は私はミッチェルさんに同行してきただけで、用件はミッチェルさんからとなります」
同行してきただけ……んの! 自分は用も無いのにミッチェル兄貴をわざわざ転移で連れてきてくれたって事だの!? イケメン親切すぎだの!
「おお、そうなんじゃミゲル兄貴。実はな……」
そう言ってミッチェル兄貴が話し始めたのは――
錬成できる魔石が発見された……だの!?
それを使った美容クリーム……だの!?
その製造管理をするのが……私、だのぉぉ!?
「ううむ、いいんじゃないか? 面白そうな仕事だし、話の出処もしっかりしてる。それに王都だったらマイケルやミヒャエルもいるしな。ミカはどうだ? 王都で働いてみたいか? かなり責任の大きな仕事になりそうだが」
そんなの決まってる! だってこれ絶対面白いだの! だって聞いてるだけでこんなにワクワクしてくるだの!!
「ミゲル兄貴! 私は王都で働きたいんだの! こんな面白そうな仕事を誰かに譲る気は無いんだの!」
「そうか、だったらやってみるといい。よし、じゃあミッチェル、ミカを頼んだぞ」
「おお! みんな信用できる奴らばっかりじゃからな。兄貴もミカも何の心配もせんでええぞ」
大きな荷物はまた今度っちゅう事になったから今日持っていくのはすぐ必要な身の回りの小物だけ、ちゅう訳でラーバルさんとミッチェル兄貴が王都の仲間に連絡してる間に私は王都に行く支度を整えただの。
ほいでミゲル兄貴に挨拶したら、そのままラーバルさんの転移で王都へ出発――到着!? 転移って凄いの、一瞬で景色が変わっただの!
「ここもう王都だの? 何の部屋だの?」
机や棚に本とかがたくさん並んだ頭の良さそうな部屋だの。
「ここは私の勤める学校の校長室――私の執務室です」
「おおー、やっぱり頭の良さそうな部屋だったの!」
私のカンも冴え渡ってるの。
でもどうしてこの部屋に――
「お待たせラーバル君。そしてはじめまして、君がミカ君かな? うん、ここにいるって事はミカ君で間違いないよね。いやあしかし君、ミッチェル君に似てないねえ、よかったよかった。おっと、こうしちゃいられない。早速僕の研究室に移動しなくちゃね。うちの聖女様が首を長ーくして待っているからね。さあそれじゃあしゅっぱあ――」
この人何だの?
一切口を挟む余地無く連行されたの。
で、ここはどこだの?
「――つっと。はい到着だよ、ようこそギルド本部へ」
ギルド本部……って何のギルドかは知らんけど、本部っちゅうくらいだからきっと凄い所だの、何だか緊張してきただの。
「お、お邪魔するんだの」
ミッチェル兄貴とモリスさんが話をしてると、そのモリスさんの後ろからむっちゃ綺麗な人がやってきたの。
その綺麗な人はモリスさんとちょっとだけ話をしてから私を見つめてきたの。私知ってるの、第一印象は超大事だの。
「ミカです! よろしくお願いします!」
うん、完璧な挨拶だの。で、近くで見るとこの人ホントに……
「うわぁ、美人のお姉さんだの」
あ、思わず声に出しちゃったの。
「あらそんな美人のお姉さんだなんて。こんなにかわいい
「……あはは、いやあ全くその通りだねえ。うんうん、ロベリー君が美人なのはもう疑いようのない事実だよ。僕も君のような秘書がいつも側にいてくれて本当に嬉しい限りさ。さて、それじゃあ早速説明を始めようか」
「何だろうイライラする。褒められてるはずなのに私、イライラする!」
……夫婦漫才、だの?
その美人さんの名前はロベリーさん。魔石に効果を付与してクリームにする凄腕の付与術師だそうだの。そのロベリーさんが付与する姿っちゅうのが――
「ほへー! 何て言うか、すごく神秘的な姿だの! まるで『聖女の祈り』みたいだの!」
軽く俯いて手に持った魔石を額に掲げ、何か小さな声でまるで魔石に話し掛けるみたいな……ホントにお祈りしてるみたいだの!
「うんうん、何たってロベリー君は『付与の聖女』だからね。そう見えるのも当然さ」
「しっ室長……」
付与の聖女……カッコいい。カッコいいだの!!
私も……私も!!
「私、付与もやりたい! 聖女師匠、私に付与を教えてくださいだの! 付与とか今までまったくやった事無くって全然知らないけど、やってみたいの!!」
やってみたいだの!!
「へええ、『まったくやった事が無くって、付与の事を全然知らない』のかあ。こいつは有望なんじゃないかな、ロベリー君。君の付与を習得する最大の条件はちゃんと満たしてるじゃあないか。どうだいロベリー君? ミカ君が付与も覚えてくれたらクリームの事は完全にミカ君に任せられるようになるし、
おお、モリスさんが賛成してくれたの!
「ですね。じゃあミカ、あなたに私の付与術を教えてあげる。いい? 私の付与術は特殊だから、くれぐれも他の付与術を勉強しようなんて思っちゃダメよ。もしそんな事したら、どれだけ教えても私の付与術は覚えられなくなっちゃうからね」
「はい師匠! よろしくお願いしますだの!!」
こうして私はロベリー師匠に付与を教えてもらえる事になっただの。
これまで錬成一筋だった私が付与をやる事になるなんて……………………
…………………………あれ?
ここ何処? 早くレジの続きを……お客様を待たせちゃ……
あれ? お客様はどこ?
私は実花、コンビニでレジを……里では錬成一筋だったけど、でも大学では……ってあれ? 錬成って? 大学って?
「ミカ、どうしたの?」
「いや天照さま、だって急に――え?」
天照さま……………………って誰だっけ?
この人は聖女様。じゃあ天照さまって……?
自然に口にした名前だけど……まさか古事記とかに出てくるあの神様の? いやいやいくら私でも流石にそれは無いって。
っていうか私はコンビニでバイト中だったはずなんだけど……
でも私ってばドワーフでそこのミッチェル兄貴の妹で……
それで目の前の美人が聖女さんで今錬成の師匠になった人で……
うーむ、脳裏に存在する二重の記憶……これってまさかアレ、ですか?
いわゆるひとつの……異世界転生?
………………私が?
▽▽▽▽▽▽
既視感……的な?
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