第40話 実花とミカ
えっと、まずは状況を整理しようか。
私の名前は
さっきまでバイト先のコンビニでレジ打ちをしてた。
丁度大量のスイーツを買い込んだ綺麗なお姉さんの会計をしていて……ええっと……そこで何かあったような……あっそうだ、入口の方から凄い音が聞こえて振り向こうとしたんだよ。
うーん、それ以上の記憶は無いなあ。もしかして最近よくニュースになってるブレーキの踏み間違いで車が飛び込んで来たとか? いやまさかねえ。
で、その次が……
私はミカだの。
今日も楽しく錬成やろうと思ってたところにミッチェル兄貴が帰って来ただの。
で、兄貴と一緒に里にやって来たラーバルさんに挨拶して、三人でミゲル兄貴ん所に行って、魔石を使った新しい化粧品の話を聞いて、私がその製造管理をやるっちゅう話になっただの。
そんで王都に来てモリスさんとロベリー師匠に会って、ロベリー師匠に聖女の付与を教えて貰える事になった……だの。
ええと、うん。
確かに二人分の記憶があるな。
で、人格はどちらかと言うと実花寄りな感じなんだけど、体は美少女ドワーフのミカのものである、と。
これらの状況を異世界モノの導入部に当て嵌めると――
コンビニでバイト中の実花が何らかの事故か事件に巻き込まれ、その短い人生を終えた。
そしてこのドワーフ少女のミカに転生し、今この瞬間に前世の記憶を取り戻した。
――うん、実にシンプルだ。
でもこのパターンって結構な割合で転生に神様的な存在が関わってくるはず……なんだけど、私には神様に会った記憶なんて無いんだよねえ。
て事は神様が出てこない少数派の方のパターンなのかな? あ、でも物語が進行していく中で神様が出てくるパターンってのもあるか……
そして次はチート能力。うん、これ大事。自分にどんな能力が備わっているのかはキチンと把握しないとね。
でもこれまでのミカの人生ではそれっぽいエピソードは無かったなあ。よし、チート能力についてはこれから要確認って事で。
と、今はこんなところかな?
あまりいつまでも自分の世界に引き籠ってるとロベリー師匠に心配掛けちゃうし、それにあのモリスさんも騒ぎ出しそうだ――
……チョットマテ!?
付与の聖女ロベリー、そしてその上司のモリス……?
私の兄貴がドワーフのミッチェルで、里から王都に転移で連れて来てくれたのがエルフの校長先生ラーバル……
私知ってる……この人達の事知ってる!?
あれはそう、夜寝る前に読んでたネット小説のうちのとある作品で……あ、ドワーフ少女のミカって……そうだよ、昨夜更新されたばかりの最新話に出てきてたキャラじゃん。っていうか今日の私、そのエピソードそのままなぞってたよ……
うーむ、主人公とどう絡むのかも分からない立ち位置不明なキャラに、今日この時点までのストーリーしか知らないこの私を転生させるとか……
転生の神様は一体私に何を求めていらっしゃるのやら。
ポジティブに考えるのなら、『好きにやってヨシ』って事かな?
おーい、やっほぉー、転生の神様聞こえてますかぁ。私ってストーリーとか気にせず好きにやっちゃっていいんですかー? ダメならダメって今言ってくださいよー。でないと『沈黙は肯定』って判断しちゃいますよー……
――返事がない。ただの○○のようだ。
よし! 神様の承諾を得られたって事で、原作とかの
「あの、ミカちゃん? ねえ私の声聞こえてる? もしもーし、聞こえてますかー?」
「ああっすみませんすみません、ちょっと考え事してました」
「「「はっ?」」」
あれ? 返事したらみんな急にフリーズしちゃったんだけど……?
「ミカ? おんしその口調は……どうした事じゃ?」
ああっしまった! 私ってばミカだった!
「――だの! ちょっとエルフ語で考え事してたんだの!」
うわ、何て苦しい言い訳! でも今はこれが精一杯。
「おお、なんじゃい、そういう事じゃったか。驚いたわい」
は?
「……うそ、こんなんで誤魔化せちゃうの?」
って思わずこぼした私の呟きは、
「……うそ、そんなんで納得しちゃうの?」
っていうロベリー師匠の呟きと綺麗にカブったよ……はは。
でもそのお陰でこれ以上は突っ込まれずに済みそうで一安心。
これから気を付けなきゃ――いや、どれだけ気を付けてもいずれ必ずボロが出ると思うから、むしろ『王都の水に染まった』とか何とか言って実花の口調に持っていきたいんだの!
さて、今日のところはまず住む所を何とかしようって事で、ロベリー師匠に付き合ってもらって部屋探しをする事になった。
そして見つけたのが冒険者ギルドから徒歩十分くらいの場所にあるワンルームのアパート。前世で住んでたトコとどことなく雰囲気が似てるかも。
あれ? 契約も支払いも全部ロベリー師匠がやってくれてるですけど……
これって私がやらなくていいの?
――って訊いてみたら、この部屋はこれから立ち上げるクリームの製造販売会社の社員寮扱いにするんだって。だからこの先も私がここの家賃を払う必要はないみたい。何て素敵な好待遇よ。
その後はロベリー師匠とお買い物。
日用雑貨や服、それに食料品まで大量に買い込み、それらは全てロベリー師匠が持つ鞄の中に消えていった。おお凄い、あれが『魔法の鞄』かぁ。まさかこうして実際に目にする事が出来るとは……ってこの鞄も貰えるんですか!?
ロベリー師匠曰く、この鞄も今回の買い物も全部新会社の経費として処理しちゃうから必要なものはすべて揃えておきなさい、だって。
流石は冒険者ギルドのインフラ技術室を影で支える万能秘書さん、いやホント持つべきものは出来る師匠だの!
そう言ったら照れるその笑顔がまた可愛い……
◇◇◇
「ちょっと実花ってば馴染むの早すぎじゃないかしら?」
「にゃ? いい事だにゃ。周辺環境と人間関係は魂をすり減らす一番の原因だからにゃ」
「まあそれはそうなんだけど……でも何だかちょっと……」
「嫉妬にゃ? まあ
「うう、実花ぁ……」
「ああもうまた泣き始めたにゃ……だからここでの記憶を封印したのはやり過ぎだって言ったにゃ」
「だってだって……その方が早く魂がニュートラルに戻るから……」
「早くここに帰って来れるって言うんだにゃ? だったら気持ちを切り替えて実花を見守るにゃ。送り出した今となっては、もうそれしか出来る事は無いのにゃから。にゃあ、『転生の神様』?」
「実花ぁ、好き放題やっちゃっていいから早く帰って来てぇー」
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