第26話 流離の風評被害ギャンブラー

「来たわよ、アマッティ」


カランカランというベルの音に「いらっしゃいませ」の反応をする間を与えずの「来たわよ」宣言。このひと、できる!


「いらっしゃい、そろそろ来る頃だとと思ってたわ、パンドラ」


おっと、すかさず天照さまから「そろそろ来る頃だと」の返し!

この一連の流れに場内は固唾をのんで・・・

って、実況中継風はここまで!今聞き捨てならない名前が出ましたよ!?


「いらっしゃいませ。えっと、パンドラ様・・・ですか?」

「そうよ実花。こちらがパンドラ。あなたも知ってる、あの有名なパンドラよ」

「あれ?パンドラ様・・・って神様でした?」

「そうよ実花。パンドラは神、そして神界でもトップクラスの風評被害者なのよ」


「風評被害・・・ってことはもしかして、あの箱の逸話って・・・」



ここでパンドラ様からの被害説明スタート。


「そもそも私は豊穣を司る神として信仰されていたわけよ。でもね、私にとって興味があったのは豊穣というよりギャンブル。あの当時の農業って、ちょっとしたことにもの凄く左右されるから、すごくギャンブル要素が強くって痺れたわ。それで豊作の年なんかは人間たちと一緒に大喜びしてたわけ。そうしたらいつの間にかね」


「豊作を喜ぶ姿から豊穣の女神と・・・」


「そのとおりよ。でもね、あの当時の人間たちは私のギャンブル好きも知ってたわけ。だから私を喜ばそうと、収穫のお祭りにはくじ引きを用意してくれていたのよ」


「あれ?でもそう言えばギャンブルの神様とかって他にいませんでした?」


「ああ、それってたぶんヘルメスとかエジプトのトトの事じゃないかしら?でも彼らって、幸運を司るってことで人間のギャンブラーから信仰されてるだけ。別に彼らがギャンブル好きって訳じゃないわ。大体、ギャンブラーがギャンブラーを信仰するわけないでしょう?」


「ああ、なるほど確かに」


「その点私は違うわけ。ギャンブルに神の幸運を使うなんて邪道はしないわ。当然ギャンブルのときは全ての神力をオフにするわけよ。あの年もそうだったわ。そしてその時の私には流れが来ていなかったのね。くじを引いても引いても外ればっかりだったの。そうして残ったくじはとうとう最後の1枚になったわけ」


うん、何だかオチらしきものが見えてきた。


「でね、その村にえっと何て言ったかしら、そう確か『ヘーシオドス』?そんな名前のおっさんがいたのよ。そいつがね、その私の様子を見て無駄に想像力を働かせたわけ。それでどうやらこれは儲かる!って踏んだわけね。自分の畑を放りだしたと思ったら吟遊詩人ってやつ?を始めて、そこら中でその無駄に発揮した想像の産物を吹聴して回ったわけよ。それが今人の世に伝わっているパンドラの物語。今じゃあ人間たちの間では、私はすっかり人間を堕落させる土人形ってわけよ。ははははは・・・」




パンドラ様、気の毒すぎる・・・

これもギャンブルで身を崩すっていうのかな・・・




「そんな私が神界に突如発生したくじのにおいを嗅ぎつけてここにやって来たってわけよ!さあアマッティ、私にくじを引かせなさい!」


「ええっと、くじの前にもう一点だけ。そのアマッティっていうのは・・・」

「私のことよ、実花。私とパンドラは昔っからの親友同士、『パンドラ』『アマッティ』って呼び合う仲なのよ!」


「それはまた、何だか意外な繋がりっていうか、意表を突かれたっていうか・・・」


「だって実花、パンドラの境遇ってすごくおもしろ、じゃなく気の毒って思うし、そのデマっぷり笑える、じゃなく風評被害として残念に思ってるし、何よりそこからの二次創作とか結構アニメとかの題材に・・・」


「天照さましっかり!今あなたたちの友情が終わりかけてますよ!?」


「ははは、大丈夫だ、えっと実花だったか?大丈夫。アマッティは昔からこんな感じだ。容赦なくいじってくれるお陰で逆に私は救われているってわけよ。それにアマッティの言うところの二次創作も結構いろいろ見せられてるし。箱が鎧になってりゅーせーけーん、みたいな?」


天照さま・・・それって何て死体蹴り?

まあ本人が良いって言ってるんだからいいんでしょうけどね。



「というわけで私はくじを引きにここへと来たわけよ。当然あるわよね?」

「まあありますけど、ご期待に添えるものかは分かりませんよ?」

「射幸性の高低だったら気にすることはない。当たりを引くというその事自体が重要なわけだから」


「そう、それなんですよ。このくじは当たり外れではなくって、種類分けなんです。強いて言うなら、この10種類以外に用意しているシークレットの1種類が当たりって言えなくもないかな」

「シークレット!なんという甘美な響き。まさに当たりというにふさわしいじゃないか!よし、なら私はシークレットを狙えばいいわけだ!」


うわあ、このひとやっぱり根っからの・・・


「じゃあ早速用意しますね」


そうしてレジの横から赤白の紙箱を取り出す私。

「この中からカードを1枚引いてください」


真剣な表情で箱に手を入れるパンドラ様。そして、

「最初のこの一枚こそが希望っ!!」


ここでまさかの自虐ネタですかっ!!!





パンドラ様が当てたのは三毛ネコ店長(オス)バージョン。

狙ったシークレットじゃないけど、店長の希少性的には当たりって言えるのかな?


「シークレットではなかったようだけど、だからといって当たりを引くまで繰り返すなどという無粋な真似はしないわけよ。昔のアレで懲りたしね」


そう言って嬉しそうにゲットしたスノーグローブを眺めるパンドラ様。



「次のくじが出来た時にはまたすぐ来るわけよ!!」

そう言い残し、颯爽と帰っていった。





いや、買い物もしてって下さいよぉ!!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る