第27話 インドの中心で乳を叫ぶ
「今日はお客さん、来ませんねえ」
店内のテーブルで天照さまと寛ぐ私。
最近ずっとバタバタと忙しかったから、こんな日がちょっとうれしい。
「そうねぇ。でもぉこうしてぇ実花と二人でまったり過ごすのもぉいいわねぇ」
天照さま、まったりしすぎて蕩けかかっているみたい。
「天照さま、一緒にソフトクリームも溶け掛かっちゃってますよ」
「……あら大変、少し急がなくっちゃ」
蕩けモードから覚醒した天照さまは、手に持ったソフトクリームと本気で向き合う。
そう、先ほど我らが実花照にソフトクリームマシンを設置、目下試作品を試食中なのである。
そう、試食中なのだ。これは決してサボりではない。れっきとした業務なのだ。
「それにしても実花、ソフトクリーム作るの上手ね」
「以前別のバイトでやってましたからね。嫌でも慣れましたよ。まったく、大規模フェスの会場でソフトクリーム販売なんてやるもんじゃないですね。とんだデスマーチでした」
「――大変だったのねえ」
ちなみにソフトクリームの傍らには濃い目のブラックコーヒー。当然ホット。
甘くて苦くて熱くて冷たい、私のお気に入りの取り合わせ。
「ミルク味以外のも作る予定とかある?」
「どうしましょうか。定番のバニラ、チョコレート、ストロベリー、抹茶を揃えるだけでもミルクと合わせて五台マシンを置かないといけなくなるんですよねー」
って言ったら天照さまが『ん?』って顔。
あれ? 私今何か変な事言った?
「全部の味を同じ一台から出るようにすればいいじゃない」
「いや、中身が違うから無理ですよー」
「出来るでしょう? だって神様だもの」
『神様だもの』って……あっそうか、そういう概念でマシンを実体化すればよかったんだ。
……うーん、人界の常識が抜けきらないなあ。まあまだここに来て間もないんだから仕方ないよね、という事にしておこう。
なんて感じでお茶会、いや新商品試食会は進み、ソフトクリームを完食した時。
カランカラン……
お客様のご来店。
「いらっしゃいませー」
入店してきたのは浅黒い肌の少年。あらイケメン。
「あらクリシュナ様、お久しぶりですね」
「天照様こんにちは、ご無沙汰してます」
またも天照さまとは顔見知りのようだ。
「天照さま、お知合いですか?」
「狭い業界だもの。案外どこかしらで繋がっていたりして、みんな顔見知りみたいなものよ」
何だか某業界の人みたいな事を言う。
しかし、ちょいちょい神様界隈の事を業界って呼ぶけど、もしかしてそれが普通なの?
「こちらはクリシュナ様よ。ヒンドゥー教だからインド方面の方ね」
「クリシュナ様ですね。私は実花と言います。天照さまの眷属をやらせてもらってます」
「実花さん、素敵なお名前ですね。それにとてもお綺麗です。僕はクリシュナです。仲良くしてくださいね」
あら、綺麗とか言われちゃった。なかなかのイケショタっぷり。これは将来モテ男間違いなしね。
「ちなみに実花、クリシュナ様にはとてもたくさんの奥様がいらっしゃるのよ」
「えっ? ショタ婚ハーレム?」
「実花……こちらも神様だから、見た目通りの年齢じゃないわよ」
「ああそっか……そうですよね」
やっぱりまだこちらの常識に馴染みきれてない。
「以前天照様からいただいたスイーツに衝撃を受けて、何とかもう一度食べてみたいと思ってたんです。そしたらこちらのお店をオープンしたって聞いて」
おおっ、神界スイーツ系男子だ!
「ちなみにクリシュナ様はどういったスイーツがお好きですか?」
「僕は断然乳製品系です! もうそれだけあれば全然生きていける勢いです。バターなんかもう丸かじりですよ」
やっぱりこの
「でしたら、生クリーム系やチーズ系、ヨーグルト系なんかが揃ってますよ。あとは……あっそうだ、ちょっと待っててくださいね」
キッチンでソフトクリームをうにょーーーん。
「こちらもしよかったら。試作品ですけどご試食どうぞ」
「これはどんなスイーツですか?」
「ソフトクリームっていいます。上に載ってるのが冷たいミルククリームなんですよ」
「ほほう、ミルクと聞いたらこれはもう食べない訳にはいきませんよ。ありがとう、早速いただきます」
先端をパクリといくクリシュナ様。驚愕に目を見開く。カッ!!
「これは何という新感覚! 凍る程に冷えたミルク、それを口に入れた瞬間に頭の天辺にまで広がる濃厚な味わいと香り! まるで新鮮で濃厚な牛乳の塊がそのまま口に入って来たかのようだ。原料の牛乳も恐ろしく上質! そして素晴らしい食感! これはそう、正に新世界! ああ、僕は新世界の神となる!!」
喜んでもらえたみたい。よかったよかった。
最後にヤバめなセリフが聞こえた気がしたけど知ーらないっと。
ひとしきりソフトクリームへの感動を語ったクリシュナ様は、カートを押して店内を巡回し始めた。使うカートはやっぱり小型のもの。うん、ホント作ってよかったよ。
そしてスイーツコーナーに差し掛かったところで急停止。目、血走ってない?
と思ったら、すごい勢いで次から次へとスイーツをカゴの中へと入れてゆく。きっとあれ全部乳製品関連なんだろうなあ……
そしてレジにてお支払い。はいこちらに神力をお願いします。
受け取ったクリシュナ様の神力は、夜を迎えたばかりの空の色だった。ほんの少し青の入った黒。落ち着いた綺麗な色。
「ありがとうございました。また来てくださいね」
「うん、また来るねっ実花おねえちゃん!」
心中吐血っ! カフッ!
ショタ属性を持たない私にすらこれほどのダメージを与えるとはっ!!
「ふふふ、気を付けてね実花。あれ、クリシュナ様のいつもの手だから」
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