第25話 サイコロは振らないけど
「あれ、そういえば天照さまは?」
今日は見てないな……?
まあきっと神様だって忙しいだろうから、何時もここいるって訳にはいかないんだろうけど。
なんて思ってたら……
「大変よ! 実花大変! 大事なものを忘れてたわ!」
急に飛び込んでくる天照さま。
何だか猫型と言い張る子育てロボットの話の導入部分みたいな……?
だとすると天照さまの役回りって……いやこれ以上は言うまいっ!
「そんなに慌ててどうしたの、のび――天照さま?」
「くじよクジ! 籤なのよ実花っ!!」
――はい?
「コンビニって言ったらアレでしょう! ほらっ! あのワンコインでフィギュアとかクリアファイルとか当たるアレ!」
……アインシュタイン博士、神様ってサイコロ振らないけどクジは引くみたいですよ?
「いやそうじゃなくって、ちょっと待ってください天照さま。今時点でも既にグレーゾーンどころか怒られたら謝るしかないかもですけど、でも著作権無視は駄目ですよ!」
いくら神様だって……いや、神様だからこそ越えてはならない一線が、ここにはある!
「安心して実花。もちろんコピー品販売に手を染めるつもりなんて無いわ。アニメ見たりスイーツ食べたりっていうのは『文化の把握』業務の一環、言ってみれば神として必要な行為よ。だからフィギュアやグッズもあくまで個人で楽しむだけ。当然くじの景品にはしないわ」
あれ? でも前にお土産にしたとか何とか?
あと自分の趣味を業務って言い切っちゃったよこの
「まあ厳密に言えば、この世界って人界の時間とリンクはしてるけど切り離されてる状態だから、著作権の有効期限はある意味切れてるようなものなんだけどね」
神様黒い! 法の解釈が黒い!!
「でもやっぱりリンクしている以上は合わせるべきだと思うのよ。だって『何でもあり』って楽しくないじゃない」
最後の一言が本音な気がする。
神様って、本当の意味での「何でもあり」が出来ちゃうのだろうから。
「何でもあり」ってのは確かにつまらない。
昔シューティングゲームで無敵コマンド入れたら一瞬で飽きたし。
「多分実花が今考えている通りだと思うわよ。『何でもあり』の事を考えてたんでしょう? ……でね、だからこその『クジ』なのよ」
と言うと?
「クジをね、神力の影響を一切受けない仕組みにするの。何が当たるか誰にも分からない。これって神にとってはあり得ない事よ。そして、だからこそ凄く特別な事になるの」
成程、何だか分かった気がする。
「しかもその結果が『ちょっとした小物』にしか反映しないんだから、逆に新鮮に感じられる出来事って訳なのよ。これ絶対来るわよ! みんな飛びつくわよ! 勝利の方程式よ!」
もしもしお姉さん、途中から妹さんのしゃべり方になってますよ?
「じゃあクジ販売は採用するという事で。あとは景品を何にするか、ですね」
「そうね。いくら『何が当たるか分からない』からって、同じ物が売り物として並んでたら興ざめよね」
まあ、コンビニだとそんなクジもあるけどね。
「ええ、そう思います。ましてうちの店は全商品一律価格ですから」
「そうよね。『当たれば買うよりお得』って商売も出来ないのよね」
今の天照さまの言い方、何だか俗っぽい……って今更か。
まあ、正論どストレートなんだけどね。
「じゃあやっぱり?」
「ええ。景品は権利または限定グッズ、よね」
ん? 限定グッズは私と同意なんだけど、権利?
「あれよ。ほら、『握手できる』『1分間お話しできる』『記念ツーショット写真』みたいな」
ああ、アイドルとかの……
「神様にアイドル的存在っているんですか?」
「うーん、いるようないないような……ていうかそもそもアイドルの語源って……まあそれは置いといて、今回だったら実花が丁度いいと思うんだけど?」
「はいぃぃぃぃ!?」
またとんでもない事言い出したよこの
「いいい、いや何言ってるんですか! 私にアイドルなんて務まる訳ないじゃないですか!!」
「あら、実花ってば自覚ないのかしら?」
「え?」
そんな大変な存在になった自覚なんて持ち合わせていませんよ!?
「いい? 人界の商品を販売する神界で唯一のお店であるこの『実花照』、実花はその経営者でしょ? もうこの時点で既に実花は特別な存在って言えるわよね」
う、そう言われると否定できない、かも?
「しかもそのバックに私がついてるんだから、それはもう神界のアイドルにだってなれるわよ。 ……ねえ実花、あなた『私の歌を――』とか言ってみたくない?」
「言・い・ま・せんっ! 神様たちを前にして『聞けぇ!!』とか絶対言えませんから!!」
「……まあいいわ、その辺りについてはおいおいって事で。じゃあ今回のところは限定グッズが景品って事で話を進めましょうか」
うわぁ……分かりやすく濁してきたよ、このプロデューサー。いつか私がアイドルやらされる日が来るんだろうか……
そしてクジの打ち合わせは続く。
「景品、何種類くらいにします?」
「そうねえ、今回は第一弾ってことで6種類くらいでどう? A賞~F賞って」
「うわぁ、賞の名前がまんまワンコインくじなんですけど?」
「あら、それくらいはいいでしょう? 一般名詞よ一般名詞」
「次は景品の内容ですけど?」
「ランクとかグレードとかはそんな気にする必要ないんじゃないかしら」
「そうすると、あくまで種類分けって感じです?」
「そうね。例えばだけど、オリジナルグッズで作ったスノーグローブ、あれなんかでも中のフィギュアが違う六種類を用意すれば景品として成り立つと思うの」
「成程……今回はその案でいいかも。記念すべき第一弾は実花照のオリジナルスノーグローブ、ってどうです?」
「んーー……っうん、いいかも。じゃあ第一弾はそれでいきましょうか」
「はい!」
「中のフィギュアはどうしようかしら」
「やっぱりこのお店は入れたいですよね。あとはどう差別化していくか……」
「いっそ店長さんたちで種類作っちゃいましょうか?」
「っ!? ……素晴らしい! 実に素晴らしいアイデアだと思いますっ!!」
「あら、私ったらうっかり実花のスイッチ押しちゃったかしら……」
「このお店の横に、同じくらいの大きさの店長を一匹……それを店長ごとに六種類……あとはポーズとかでシリーズ化も……いやむしろ店長だけで……いっそ店長✕店長で……うわぁ! 何て背徳的で冒涜的――」
「帰ってきて実花!! ……今回は実花照の店舗とその横に座る店長って事で! 六種類だと数が合わないから店長さん全員で十種類、それとシークレットにバステト様。以上! コレでいくわよ!!」
思考の海から急浮上すると、目の前には私の両肩を掴む天照さま。
そんな必死そうな表情で一体どうしたんです?
ああ、でもなんて素敵な案!
店長ズが全種類でしかも統括のバステト様がシークレットとか!
これはもう採用せざるを得ないでしょう!
「今回の景品はそれとして、じゃあ後考えなきゃいけないのは……あ、クジの名前とか?」
「ふっふっふ、それはもう考えてあるわ」
自信満々の天照さま。
どんな素敵案を――
「ミカテラくじよ!!」
……べたな四文字略称でした。はい採用で。
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