第24話 猫派? それとも――

「にゃあ実花、ちょっといいかにゃ?」


ふと私に話しかけてくる店長統括。


「実はにゃ、この店の事を昔にゃじみにはにゃしたんだにゃ。そしたらにゃ、じゃあ早速今日見に来るにゃって、そんにゃはにゃしににゃったにゃ」

「バステト店長、お店の宣伝してくれたんですね。ありがとうございますっ」


口コミ、大事。


「多分もう少ししたら来ると思うから、来たらよろしくしてやってくれにゃ?」

「はい、それはもちろん。それでその昔馴染みさんって、何ていう方なんですか?」

「アヌビスにゃ」


アヌビス様……見覚え? 聞き覚え? ある気がするんだけど……?


「あの、名前は何となく聞いた事ある気がするんですけど、どんな方なんですか?」

「わんこにゃ」


あ、思い出した。


「あのシュッとした黒い犬っぽい頭の……」

「ストップにゃ!」


はい?


「奴にとってもあれは黒歴史にゃ。避けてやってほしい話題にゃ」

「理由はやっぱりバステト様と――」

おんにゃじにゃ」


古代エジプト人センス被害者の会……

何だか他にも出てきそうな気配。


「分かりました。他に注意点とかありますか?」

「特にはにゃいにゃ。ただ、奴が神だって事は忘れにゃいでいてやって欲しいにゃ」

「――? 分かりました。心に留めておきます」

「頼むにゃ」



……それから開店準備――って言うか店長達と戯れる事暫し。



「む、どうやら来たようにゃ」


カランカラン……

「バステトよ、我は来た」

「よく来たにゃ。久しぶりだにゃ。アヌビス」

「いらっしゃいま――!?」


いや、バステト様が直立猫神だったから、多分同系列だろうとは予想していたけど……

その予想は合ってたけど……

だけど……


まさかの黒柴!?

和犬なの!? エジプトの神様なのに!?

そんな事ってある? いや可愛いけど。超可愛いけど!



私思わず二度見しちゃいましたよ?

何処と無くとした愛嬌のある、でも不思議と知性を感じさせる顔。

やっぱり、どう見ても黒柴よね。


でも……でも!


「何故に黒柴……?」

「うむ、良い質問だ!」


おっと、言葉に出てたか……


「失礼しました。凄く不思議だったのでつい口に出てしまいました」

「構わん。いや、むしろここは『構ワン』と答えるほうが相応しいか」

「流石はアヌビスにゃ。見事なプロ根性にゃ」

「いや、無理なキャラづくりはいりませんからね?」


この感じ、きっとこれってバステト様の仕込みなんだろうなあ……てか『プロ根性』って。


「それでだ。何故我が黒柴か、という話であったな」

「あ、そこに戻していただけるんですね」


なんて律儀な神様。


「エジプト人のデザインとの戦いについてはバステトより聞いておるな? 我もバステトと同様、壮絶な戦いの末にこの姿となったのだ。奴らの黒くシュッとした不思議なデザイン、あれは実に気に食ワン!」


まあ、ねえ。


「そもそも我の元の姿は狼なのだぞ。それが何故あのような……まあそれはもういい。そしてその姿との壮絶な綱引きの結果、最終的に落ち着いたのが双方が融合したこの――たまたま何処と無く黒柴と似たこの姿であった、という訳なのだ」


『何処と無く』というか、何処から見ても黒柴そのものなんですけどね。偶然って怖い……


「バステト店長からも聞きましたけど、アヌビス様もやっぱり苦労されたんですね」

「うむ。だがまあ、今の姿は慣れたというか気に入っておるから結果オーライだ。気にするでない」


そういって私のすぐ目の前まで歩み寄ってくるアヌビス様。

潤み気味の真ん丸な目で上目遣いが私を直撃して――


気づいたらモフっていた。モフり倒していた。

むにっとしたほっぺを引っ張ったら……アヌビス様は尻尾をブンブン振るから……その全身を撫で回すと……私の周りをぐるぐる回って……そして目の前でおなかを出してゴロンて……だから今度はそのおなかをわしゃわしゃと……




「はっ……、もっ申し訳ありませんアヌビス様。私ってばつい……」


一連のモフを終えたところで我に帰る私。

気付けばそこにあったのは、一匹の黒柴と戯れる幸せな私の姿だったという……


「はぁはぁはぁ……ぜぇぜぇ……ふうぅ…………、うむ構ワン。なかなか得難い体験であったぞ」


ああ、何て心の広いアヌビス様。

ぜひ次の機会もいただきたいっ!


「…………だから神だって事を忘れるにゃって言ったのにゃ。無駄な忠告をしてしまったにゃ」


店長ゴメンにゃさい……


「それでは改めまして……いらっしゃいませお客様。本日のご用向きは如何でしたでしょうか」

「うむ、バステトに誘われてな、興味が湧いたので見に来たのだ」

「それはありがとうございます。では、こちらのかごとカートをどうぞ。お気に召した商品をかごに入れ、最後にあちらのレジにお越し下さい。ご不明な点がありましたらいつでもお声がけくださいね」

「うむ、それでは見せていただこう」


店内を颯爽と見て回るアヌビス様。

作ったばかりの小型のショッピングカートが早速役に立った!

私GJ!! 心のピクチャーフォルダにアヌビス様の雄姿をスクショッ!!

かーらーのー、削除禁止フラグ!

うん、これで万全。




そして店内を一通り見て回ったアヌビス様がレジへとやって来た。

「これをもらおう」

そう言って差し出したかごに入っていたのは……


魚肉ソーセージとカニカマ、そしてビール。

何と言うか、仕事帰りにコンビニに寄ったおじさん?


「古代エジプトではビールがよく飲まれていたのだ。そして我の元にもよく捧げられていた」


へーーー、意外な歴史を聞いてしまった。

じゃあもしかして魚肉ソーセージとカニカマも?


「いや、それらはただ美味そうだったからだ」


ですよねー。考えてみれば昔見たテレビ番組でどちらも日本が発祥って言ってたし。


「ではこちらに神力をお願いします」

「うむ」


……アヌビス様の神力は綺麗な黄色でした。


「こちらでお召し上がりになりますか?」

「ふむ……いや今日のところは帰ってゆっくり飲むことにしよう。近いうちに再び来る。その時にはゆっくり見させてもらおう」


あ、これビール飲みたくなって買い物中断したパターンだ。道理でレジに来るのが早いと思ったよ……


「ありがとうございましたー」




今日のお客様は、とっても黒柴なアヌビス様でした。


あれ?

……そういえば天照さまは?

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