第23話 そしてお客様へ

「ちょっと名残惜しいけど、ついに戻る時が来たよ」


え? ヒルちゃんもう帰っちゃうの?


「帰らないよ。そうじゃないよ。お手伝いからお客さんへ戻る時が来たよ」


ああ、そうだった。

ヒルちゃんはそもそも開店第一号のお客様として来てくれてたんだったっけ。


「じゃあ私も改めてご挨拶しなくちゃね。……いらっしゃいませお客様、どうぞごゆっくりご覧ください」

「うん、じっくりねっとり見させてもらうよ」


そう言ってヒルちゃんが実体化させたのは――何と小型のショッピングカート。

そこにお店のレジかごを載せて店内を見て回り始めた。


ちっちゃいショッピングカートって可愛い……

あとで通常サイズの横に用意しておこうかな。



レジに戻った私と天照さまを他所に、凄く楽しそうに店内を見て歩くヒルちゃん。

イイネ!


「天照さま、ヒルちゃんってどんな物が好きなんです?」

「どうだったかしら……? そうね、はっきりコレってのは無かった気がするわ。スイーツとかも美味しそうには食べるけど『大好き!』って感じではないし、何か好きな食べ物ってあったかしら?」


「あ、そうそう。食べ物以外だと、人を驚かすのが好きかしら」


それは知ってます……



そんなヒルちゃんが店内のとある一角で足を止める。ああ、あそこって……

そして――


おや!? ヒルちゃんの ようすが……


いや、もちろん進化とかする気配はない。

そうじゃなくって、ヒルちゃんは表情に興奮の色を浮かべ、次から次へと商品を手に取っては選び始めた。

立ったりしゃがんだりと何だか忙しそうに見えるけど、一生懸命選ぶその姿はとっても楽しそうだ。


それにそれを見つめる天照さまも何だか楽しそう。というか嬉しそう。

そうよね、だって可愛い妹があんなに楽しそうにしてるんだから。


そしていつくかの商品をレジかごに入れ、上気した顔でこちらに来るヒルちゃん。

その表情は、あたかも人気の壁サーから……いやこれ以上は言うまい。


「これください! よ」

「はい、お買い上げありがとうございます。お代として、こちらに神力を注いでください」

そう言って、かごに入った商品と同じ数の石を差し出す。


ヒルちゃんはその上に手を翳すと、

「むむむむむ」

って感じで神力を注ぎ込んだ。


おおー、どの石も段々と……綺麗な青色に……輝いて……

わぁ、これがヒルちゃんの神力の色なんだ……まるで海の色みたいな綺麗な色。


私はその石を受け取り、

「はい。ありがとうございました」

の言葉とともに、茶色いペラペラの紙袋に入れた商品をヒルちゃんに手渡す。やっぱ駄菓子入れるならこの袋でしょう!

そしてヒルちゃんの石はレジの後ろに作った神力の石を置く棚の一番左上のボックスに。


「ほら見てヒルちゃん。実花があなたのを第一号の場所に置いてるわよ」

「おおお、やったよ。第一号よ。ヒルが永遠の一番よ」


ヒルちゃん嬉しそう。

よかった、天照さまがお茶会用に買ったスイーツの石を一番にしなくて。

あれはお店を作る前だったから、カウント外の零番サンプルとして事務所に飾ってあるのよね。


そして大事そうに袋を抱えたヒルちゃんは、すぐ横の飲食スペースへ。

「さっそく開けるよ。食べるよ。楽しみよ!」

「それじゃあ実花、私達もご一緒しましょうか」

「そうですね。こういうのはみんなで食べるのが楽しいんですよね」


という訳で。


「ヒルちゃん、ちょっと待っててね。私達の分を選んでくるから」

「分かったよ。ここで待ってるよ」

椅子に座って足をぶらぶらさせながら答えるヒルちゃん。

うん。その仕草、実に駄菓子っぽい。


私と天照さまは駄菓子をひとつずつ選んでから、ヒルちゃんの待つテーブルへ。

そして――


「まずはこれから行くよ」

そういってヒルちゃんが手に取ったのは「よっちんイカ」。

「んんーー!酢っぱいよ。でもその後にはほんのり甘みが来るよ。おおー、噛むとイカがじゅわっと来るよ。……これは旨味の三重奏よ」


的確な食レポありがとうございますっ。


「私はこれよ」

天照さまは「キャベ太」の袋を開け中からひとつ指でつまむと、それを小さく開いた口に入れる。

サクッ


うん上品。どことなくお茶会っぽい感じで……つまり駄菓子っぽくない。うーむ……


そして私は……

「ボトルっぽいラムネ」を中から一粒手に転がし、口に入れる。

特徴的な香りと甘酸っぱさが口一杯に広がって――

んーーっこれこれ。久し振りに食べたなぁ。

「ヒルちゃん、おひとついかが?」

「うん、ありがとう。口の中の味が消えたら貰うよ」


……まあそうよね、よっちんイカだしね。




こうして、お客様第一号に戻ったヒルちゃんとまったり駄菓子パーティ。

あ、ちなみにバステト様はこたつで「砕いたラーメン」をポリポリと。

店長ズは興味なしって顔で伸びてたりまるまってたり。


そんな実花照の記念すべきオープン初日、でした。



そして最後に。


「ヒルちゃん、これ、お店のオープンを手伝ってくれた人へのプレゼント」

そう言ってヒルちゃんに手渡したのは、スノーグローブ。

中に入っているのはこのお店、そしてその前に並ぶ天照さま、月読さま、スサさん、ヒルちゃん、そして私。

屋根の上にはバステト様、店長ズは屋根と庭でゴロゴロと。


「おおーーー、すごいよ」

「さっきグッズ作ってた時、記念にって同じのを6個作ったの。みんなでお揃いですよ」

「ありがとう実花。仲間入りよ。殿堂入りよ。うれしいよ!」


そしてヒルちゃんは店の扉を開け――


「ありがとうございました。またいつでも来てくださいね」

「絶対くるよ。確定よ。当確よっ!!!」


記念すべきお客様第一号はお帰りになりました。

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