第19話 店長、開店ですよ

「おおーーー、ここが実花のお店にゃのにゃ!」


ついにやってきました、バステト様&店長ズ!

バステト様は物珍し気に店中をきょろきょろと見て回っている。

――そしてその足元では店長達も。


ふんふんと匂いをかぎ、そろそろと歩く。

頭を低くして歩く。そして止まる。見回す。少し歩く。ふんふん。

こういう仕草はやっぱり猫よねえ。


店長達は思い思いに店の中を探検中。

気が済むまで一通り見終わるには、まだもう暫く時間が掛かりそうだ。


「バステト様、彼らの名前を教えてもらえますか?」

にゃ前にゃ? みんにゃ、自分のにゃ前って持ってにゃいのにゃ。そもそも人間たちは好き勝手にゃ呼び方で呼ぶにゃ。街を歩くと誰も彼もが違うにゃ前で呼ぶから、人界でにゃ前がアイデンティティににゃるのは難しいにゃ」


なるほど。確かに猫の室内飼いが一般的になったのって割と最近の事だ。地域によっては猫は今でも普通に家の外を出歩く。

まあ田舎だと縁側フルオープンの家とかも多いしね。


猫達からすると、そもそも飼い主の家が自分の家だって意識すら持っていないのかもしれない。

だって行く先々で自由に家に入るから。

むしろ「我こそがこの猫の飼い主である」なんて思っている人がそこら中にいそうだ。

そんな状態なら、出入りする家の数だけ名前を持っていても不思議じゃない。


「あ、でも一猫ひとりだけにゃ前持ってる奴がいるにゃ。コーメイにゃ」

「コーメイ?」

「そうにゃ。さっきにゃ前つけてやったのにゃ」


って、バステト様が?


「ハチワレのコーメイ。奴は恐るべき天才にゃ。天才軍師にゃ」

「ああ、そういう……コーメイってつまり、あの孔明な訳ね」


「まあ、にゃ前が必要にゃら付けたらいいにゃ。みんにゃそんにゃに拘りがにゃいから、よっぽど酷くにゃい限りは嫌がらずに受け入れると思うにゃ」


そっかー、ちょっと考えてみようかな。

あ、でも三国志とか水滸伝関係は避けた方がいいかな……神格を持った人とか結構いそうだから、元ネタの人がお客さんとしてくるかもだし。




一通り店内を歩き回って嗅ぎ回って、どうやらみんな気が済んだようだ。

動きに遠慮がなくなってる。ていうか走り回ってる。

おっと、どうやらキャットウォークへのアクセス経路が発見されたようだ。

今度はみんなで空中をふんふんし始めた。


そして……


遂に第一陣がこたつに辿り着いた。

潜り込む。


さらに。

潜り込む、潜り込む、潜り込む。続々と潜り込む。


そして現在の猫充填率は約九十パーセント。

この空中こたつは店長全員プラスバステト様が入って丁度いいサイズにした。

なので、十匹全員入った状態で約九十パーセントだ。


「バステト様、行きますか? 行けますよ?」

「にゃ……にゃんという誘惑! こたつが……しかも高いところに……全てを見下ろせるにゃんて……」

「どうぞ遠慮なさらず」


「にゃっ!」ひゅぱっ


WOW……いやまさか直行するとは……流石は猫、ジャンプ力半端ないな。


そしてこたつに潜り込んで他の猫と一緒に薄目で見下ろすバステト様。

やっぱ薄目で見下ろすんだ……


「バステト様、今ってどういう気持ちです? 『ふはははは、見ろ、人がゴミのようだ』って感じです?」


にゃんにゃ? その悪役っぽいのは? そんにゃ事思った事にゃいにゃ。ただこうしてると不思議と落ち着くってだけにゃ」


そりゃそうか。まあそんな訳ないよね。元ネタだって知ってる筈ないし。


「薄目になったのはちょっと眩しかっただけにゃ。『目がぁ~』ってやつにゃ」


いや、知ってるなコレ……




「さあ実花、そろそろ入口を繋げようと思うんだけど」

「あ、パブリックスペースにですね。って事はいよいよ開店ですか?」

「ええそうよ。どうかしら? そろそろいいんじゃないかと思うけど?」


うわあ、ドキドキしてきた。


「そうですね。あとは勇気だけです」

「ふふふ。じゃあ加速していきましょう」


打てば響くっていうか、どのコースに投げて確実に打ち返してくるっていうか……

まあ勝ち目が無いのは初めから分かってるけどね。


「わかりました。開店しましょう。店長達もいいですね?」

「「「「「にゃにゃああなにゃ!!(やぁあってやるぜっ)」」」」」



店長の皆さんも気合十分っ! 忍っ!!


「それじゃあ天照さま、お願いします」

「ええ、じゃあ繋げるわよー……一等地に! って言いたいところだけど、行列の出来る店にはしたくないし、ちょっと外れの方がいいわよね」

「大賛成です。それでお願いします」


「ええと、そうねえ、うん、この辺りがよさそうかな。それじゃあ、えいっ」


おお、「えいっ」いただきました。


「さあ、繋がったわよ。外に出てみる?」

「はい、出てみたいです。パブリックスペースからお店も見てみたいです」

「じゃあ扉から外に出ましょう」

「はいっ」



ついにお店がパブリックスペースに。さあ、いよいよ開店ですよっ!

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