第20話 妹あらわる

──お姉さん、聞こえていますか? 私は今、あなたの背後から直接呼び掛けています


「ぴゃっ!? だっ、誰?」

振り返ると誰もいない。


──おねえさんおねえさん、聞こえていますか? 私は今、あなたの背後から直接呼び掛けています


「ひょわっ! また聞こえたぁ!?」



そしてついに……



「あら、ヒルちゃんじゃない。久し振りね」

「アマおねえちゃん、お久しぶりよ。お久しぶりのヒルがきたよ」


私の背後からちっちゃ可愛い子が現れた。



お願い止まってこの胸のドキドキ。そう、きっとこれは恋……

じゃないっ!!

こんな吊り橋マッチポンプで落ちるかーーっ!


……よし、少し落ち着いた。

今日もセルフボケ突っ込みリラクゼーションが心の中で冴え渡るぜ!


「ええっと、……どちら様?」

「初めましてよ。私は初めましてのヒルコよ。でもこの名前可愛くなくって好きじゃないからヒルって呼んで欲しいよ」


ヒル……様?


「この子はうちの三番目。多分三番目だと思うから……じゃなくって、私と月読の妹でスサのお姉ちゃん。見た目からは信じられないかもしれないけどね」


確かにこのちっちゃ可愛い子がスサさんのお姉さんって……ねえ。


「あとこの子、人見知りって訳じゃないけど昔から人前に立つのが好きじゃないのよ。そのせいもあってあの二人程は知られてないの」

「知らない人と会うのは好きじゃないよ。知らない人と話をするのも好きじゃないよ。だから知らない人には後ろからそっと声をかけるよ」


いいや、絶対それだけが理由じゃないよね。

だって……愉快犯の香りがする!


「だからみんな私を『サイレント・ヒル』って呼ぶよ。静かなヒルって意味よ。他意はないから敢えて字は伏せないよ」


誰が呼ぶのその二つ名!?

ってか誰が考えたの!? 上手いけど!


「最初にそう呼んだのはスサの奴よ。あの愚弟が言い出したのよ」


うっわ、目に浮かぶわー。

でもこの子、普通に受け入れてるわね。


「二つ名はいいものよ。勲章よ。称号よ。例え……例え言い出したのがあの愚弟だとしても! よ」


にしても、スサの事あまり好きじゃないのかしら? どことなく同じ香りがするんだけど。


「ふふん、姉より優れた弟などいねえ! よ」

うん、やっぱりちゃんと姉弟ね。確信。


「ええっと、それでヒル様――」

「ストーーップ、よ?」

「はい?」

「様はナシよ?」

「じゃあ、ヒルさん?」


「……ちょっと認識にズレがあるようよ。いい実花、あなたはアマおねえちゃんの眷属よ?」

「はい」

「それなら実花は私の身内よ? ちなみに実花は私から見ると『従妹のちっちゃい女の子』くらいの感覚よ」


なんと! 『ちっちゃい子』はむしろ私の方だったとは……流石神様、見た目じゃなくって概念ファーストなのね。


「実花は『ちっちゃな従妹』から『実花様』とか『実花さん』とか呼ばれたらどう思うよ? 相手は『ちっちゃい子』よ? そこを重視して想像してみるよ」

「ああ……それは確かに距離を感じて嫌かも」

「だから、ここは『ヒルちゃん』が正解よ。ホントは『ヒルおねえちゃん』が至高だけど、アマおねえちゃんとの立ち位置を考えると、実質『ヒルちゃん』一択よ」


結果、私からも呼びやすくなったし。

これもちっちゃなWinーWin、なのかな?


「じゃあ改めて。それでヒルちゃんはなぜパブリックスペース、しかも私のお店の前にに?」

「もちろんお客様よ! 一番乗りよ! 開店祝いよ!」


おお……って、あれ?


「ありがとうございますヒルちゃん。でもよくこの場所にオープンするって分かりましたね? 天照さまがこの場所を選んでくれたのって、ついさっきだったのに」

「それくらいアマおねえちゃんの性格とスサから聞いた実花の性格をトレースすれば簡単よ? それくらい出来ないと、そっと背後から近づくなんで出来ないよ?」


うん、最後のは聞かない方が良かった系の情報だった。お店が接続される場所をピンポイントで特定して待ち構えるとか……

怖いわ!


「もう一つ聞いていいですか?」

「もちろんいいよ」

「そのエキセントリックな語尾は何ですか? 不自然さと無理矢理感が半端ないんですけど」


私は突っ込む女。故に切り込む。むしろよく今まで我慢したと自分を褒めよう。


「もちろんキャラ付けよ。アマおねえちゃん達に学んだ『文化』から取り入れたよ」

「その『文化』ってもしかして……」

「アニメと漫画とラノベよ」

「ですよねーーー」


うん今度は聞く必要がなかった系の情報だった。

私はもう少し突っ込むところを考えるべきだ! と敢えて自分に突っ込んでみる。


「さあさあ、二人ともそろそろ扉の前での立ち話は終わりにしましょう。ヒルちゃんゆっくりしていってね。このお店は外観も自慢なのよ」


仕切る女神、天照さま。素敵です。


「うん、さっそく見せてもらうよアマおねえちゃん、それと実花もよ」

「はい、ごゆっくりー」




さて、お店の外観だ。

このお店、敷地と道との境に塀や垣根などは作っていない。

だからどこからでも敷地に入る事が出来ちゃう訳なんだけど、一応お店の扉の正面には道からそこに至る小路として石畳の敷いてある。

きっとお客様はそこを通って扉の前に立つんじゃないかな。


敷地は一面の芝。そして店の前にはテーブルとベンチをいくつか置いてみた。

買い物の後もそこでゆっくりしていってくれたら嬉しいな……って事で。


そこからぐるっと店の周りを囲む芝生のスペースは今のところは何もなくただ一面の芝生だけど、ここをどう使うかはこれからの展開次第かな。

あ、バーベキューとかやったら楽しそう。ブルおじさんみたいにおっきな肉焼いてみたい!


「アマおねえちゃんが自慢なのも分かるよ。ここならいつでもゆっくりのんびり出来そうよ。でもこの芝生って顔の濃いひと達とかパリピなかみ達に占拠されそうよ」

「え? パリピな神様っているの?」

「いてもぜんぜん不思議じゃないよ。奴らフリーダムよ」


うーむ、今からでも塀を付けようかな……?


「ふふっ、心配しなくても大丈夫よ。みんないいひと達だから。私が怒るような事をする訳ないから」


ちょっと待て、最後の一言の真意っ!?

今まで聞いてた「いいひと」と完全に意味合いが違って聞こえてきたんだけど。


「それもそうよ。ここはアマおねえちゃんのお店だって周知しとけば確かに何の問題もないよ」


追撃のヒルちゃん……

ああ、これはもう気のせいじゃないな。

よし、気付かなかった事にしよう。


みんな「いいひと」! 以上っ!!

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