第42話 休日の出会い

大通りにはカフェやレストランも多く、歩いていると時々美味しそうな匂いが漂ってきたりする。

あ、そう言えば今日は朝御飯食べてないや。


私の胃袋はこの小さな体に比例して小さく、一度にたくさんの量は食べられない。なので当然一人でガッツリ系の店に入る事なんて出来る訳も無く……という条件で私が入れそうな店は、っと…………

おお、あちらに雰囲気の良さそうなカフェを発見!




カランカラン……

扉を開けると暖かみのあるベルの音が鳴り――――えっ!?

ちょっ、この涙が出そうなくらい強烈な懐かしさは一体…………何なの?


心の奥底から押し寄せてくる意味不明な感情の波を何とかやり過ごし、店員さんが薦めてくれた席へと歩を進める。

そして少し震える足でゆっくり椅子に座ると、少し気遣わし気な笑顔を浮かべた店員さんがテーブルにそっとメニューを置いてくれた。

あの、心配お掛けしてすみません……


メニューに目を走らせながらも、さっきの強烈な郷愁感から中々意識が離れてくれない。何だか最近の私って、突然意味不明な言葉が頭に浮かんだりさっきみたいに感情が揺さぶられたりと、ちょっと情緒不安定過ぎない?

実はコレ異世界転生とか人格統合の副作用でした……とかだったらヤダなあ。


暫くメニューと格闘したけど全然内容が頭に入って来ない。それどころか空腹感も何処かに行っちゃったよ。困ったな……


とその時、そんな私の背後から伸びた手が、メニューに書かれた中の一つを指さした。

「この店のお勧めはコレね」


聞き慣れたその声に振り返ると、そこにいたのはやっぱり――

「ロベリー師匠……だの」

「おはようミカ。ミカもここで朝ご飯?」

「えっ、ナニナニ? このが例のミカちゃん? うっそ、すごくカワイイじゃないの。あなたホントにミッチェルさんの血縁?」

「ええっと……?」


ロベリー師匠の隣、急に賑やかなこちらは一体どちら様?


「あっ突然ゴメンね。私はミレア、よろしくねミカちゃん。あなたの話はロベリーからよく聞いてるのよ」

「ミ――っ!?」


ミレアさん……ってあのミレアさん!?


「うんうん、そういうリアクションになるわよね。あの有名な王宮魔法師長のミレア様が突然目の前に現れたりしたら」

突然の事に思わずフリーズした私にそう微笑み掛けるロベリー師匠だけど……私がビックリしたのは王宮魔法師長だからというよりも物語の主要キャラに出会ったから。

だってミレアさんって言ったら……主人公の姉弟子で超マイペースでオートカさんの事が大好きでモリスさんとの掛け合い賑やかな、あのミレアさんなんですよ!?


「あの初めまして……私はミカだの。お会い出来て嬉しいだの。それでお二人はどうして一緒に? お仕事の関係だの?」

「ああそっか、それはそう思うわよね。実は私とミレアは友達なの。一緒に走ろうって約束して本当に一緒にゴールを迎える、そんな友達」

「それは……真の友達だの」

「でしょ?」


――ってそのネタ、この世界の学校にもマラソン大会とかあるの!?


「昨夜はちょっと最後の調整で盛り上がっちゃって……私達徹夜明けなのよ。あ、ここ座っていい?」

「あっはい、どうぞ」

「ありがと。まあその甲斐あってついに完成したんだけどね、このメタルピノスーツが。ふふっ、ピノ様の喜ぶ顔が目に浮かぶわぁ」

そう言ってミレアさんがテーブルにゴトリと置いたのは……え? コレって――

「ナックル、ダスター……だの?」




一緒に朝ご飯を食べながら、聞くとは無しに二人の会話を聞いていると――

どうやらあのナックルダスターはこの物語のヒロインであるピノさんの持ち物らしい。

そのピノさんからのお願いでロベリー師匠とミレアさんがナックルダスターに改造を施して、その最後の調整が昨夜ようやく完了し今日これから届けに行く、と。


「そうだ! ミカちゃんも今日予定が無かったら一緒にピノ様の所へ行かない?」


何ですと!? そんな面白イベントへの参加チケットを頂けると!?


「ええっと……いいんだの?」

「別にいいんじゃない? ねえ、ロベリー?」

「ええ。もともとミカの事はピノに紹介したいと思ってたし、丁度いい機会なんじゃない?」

「じゃあ決まり! ミカちゃんもいいよね?」

「はいっ! 大丈夫だの!」


ん? マイケル兄貴とミヒャエル兄貴はって?

別に約束とかはしてないし!


思いがけなく賑やかになった朝ご飯を終えた私は、二人と一緒にカフェを出た。

「じゃあ今から私の家に向かうわよ」

さっき聞いた話によると、この前ロベリー師匠とミレアさんピノさんの三人で夜中の女子会を開いたんだって。で、その流れでブツの引き渡し場所もそこになったみたい。あとは一度行った事でピノさんが転移先に指定できるようになったのも理由の一つらしいけど。


そうそう、ピノさんにはまだその事は連絡していない。多分呼んだらすぐに来るだろうから、通信機を使うのはミレアさんの家に着いてからにするそうだ。




そして今、私はミレアさんの部屋にいる。

『ピノ様? うんそう私。アレ出来上がったから渡そうと思って連絡したんだけど、今日これから私の部屋まで来れる? ……りょーかい、じゃあ待ってるね』

通信を切って数分、小柄で可愛らしい女の子が姿を現した。


「やっほーピノ様。いらっしゃーい」

「こんにちはミレア、ロベリー。と……そちらは?」

「このはミカ、うちの会社の頼れる製造管理者よ」

「そう、あなたが……。よろしくねミカさん。私はピノよ」


この愛らしい少女があのピノさん……ちょっと感動!

小説から想像してたのは頼れるお姉さんな感じだったけど、実物はロベリー師匠とかよりかなり幼い雰囲気で……あ、そう言えば実際ロベリー師匠より年下なんだっけ。


「じゃあピノ様、早速見て貰おうじゃない。私達の最高傑作をね」




◇◇◇

「姉上、何やら実花が妙な事になっていると聞いたのだが」

「あらスサいらっしゃい。実花だったら短期の『異世界転生』に行ってもらってるわ。魂の構成が神寄りになってきちゃったから」

「ああ、そういう事か」

「ええ。あと折角だから実花の読んでた小説の世界に転生させてあげたの。もちろんここでの記憶はちゃんと封印してね」

「ふむ、なら然程さほど時を掛けずに戻ってくるか」

「もちろんよ。抜かりは無いわ」

「ちなみに『チート』は何を与えたんだ?」

「それだったら――――」

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