第44話 今日のミカは……
ええっと、ちょっと整理しようか。ベクトルを付与出来るのは魔法――というより魔力っていう話だった。
じゃあさ、もしも周囲のモノに自分の魔力を浸透させたら? それらは自在に動かせるって事?
いやいや、流石にそんな事は……あれ? でもそう言えばこの世界では錬成に近しい分類の魔法って、物質に影響を及ぼすとか……
んー、ちょっと試してみようかな。
まずは足元に落ちてる小石、これを……
あっいけない、ついいつもみたいに『錬成』をやっちゃった。私の魔力を帯びた小石が融解や温度変化なんかの待ち受け状態になって宙に浮かび上がる。
あ、でもこれって好都合かも。もう既に浮かんでるって事は『ベクトル』も発動してるんだよね? なら今のこの状態なら『ベクトル』の追加発注だって受け付けてくれそうな気がする。って事で試しに……右に10センチ移動っ!
おお、小石がすーーっと右に移動した。じゃあ今度は上、そして左……成程、確かに私の意思通りに動いてくれるな。つまりこれが『ベクトル』な訳か。
うん、何となく理解出来た気がする。じゃあ次は――――
「ミカ、さっきから一体何をしてるのかな?」
っ!?
いけない、ついつい自分の世界に入り込んじゃってたみたい。
これは実花ってよりミカの方の悪いクセだ。
急いでロベリー師匠の方に顔を向けミカモードで返事を――
「だの?」
えっと、何故か三人揃って私の目の前に浮かぶ小石をじっと見てるんですけど?
今訊かれたのってもしかしてこの石の事? それなら――
「ピノさんの飛ぶ姿を見たら、ちょっと私も『ベクトル』を試したくなって」
興味本意でやりました。
「――だの」
「ああそう、試したくなっちゃったんだ。じゃあ仕方ないのかな」
そうそう、仕方ないだの。
「……で、それはそうとどうしてミカは『ベクトル』を知ってるの?」
ああ、それはもちろんロベリー師匠も参加してたあの主人公とモリスさんの実験の時のセリフで――って駄目だ、『原作で読みました』なんて電波な事を言える訳無いじゃん!
ならば往く道は一つ! ここは絶対防衛、私は
「ええっと、たまたま……だの?」
と、ちょっと自信無さげな返答からの前世で鍛えた『ジャパニーズスマイル』の必殺コンボを炸裂すればっ!!
「ちょっとミカ、イキナリ何なのその胡散臭い表情は……?」
なっ、通じない……だとぉ!?
「まあまあロベリー、あの論文って結構前に発表されてるからさ、どこかで目にしてたとしても別に不思議じゃないって。しかもドワーフの里の出身なんだし」
おおっ、ミレアさんからナイスフォローをいただきました!
師匠それですよそれ、そういう事ですって!
「それはまあ、そうかもしれないけど……でもほら、何の前振りも無く急にあんなの見せられたらどうしたって反応しちゃうじゃない?」
「まあ分かるよ、私だって弟弟子君のアレには散々引っ掻き回されてるし。つい反応しちゃうよねー」
「ああっカルア君への評価が……言いたい事は分かるけど。……分かっちゃうけど!」
うんうんと頷きあうロベリー師匠とミレアさん、と消極的肯定のピノさん。
よーし逃げ切ったぁ!
――ああでもそっか、つまり私ってばあの天然無自覚やらかし主人公と同じ事やっちゃってたと……うん、これは今後気を付けなきゃ!
やるなら絶対バレないように、ってね。
この出会いから暫くは特に何事もなく、私は日々クリームの製造に勤しんでいた。
そしてプライベートの時間のお楽しみって言えば、もちろん他人には見せられない秘密の研究。ここまでのストーリーに出てきた伏線っぽい部分を思い出しながら裏設定を考察、そこからこの世界の法則を導き出す――
これはミレアさんみたいな正統な研究とは違って、通常はあり得ないメタっていうか神様的な目線からの魔法研究。だから当然世間には公開できないし、そもそも公開しちゃあいけない類の研究なんだけど、でも見つけた小さな一つ一つを繋げて大きな発見に辿り着くっていうのが面白楽しいから止められない止まらない。
だってドワーフだものっ。
――とまあそんな毎日を過ごしている今日この頃ですが。
仕事柄私のところへは冒険者ギルドや商工ギルドを通じて色んな噂が流れてくるんだけど、最近その中にいくつか面白い噂があった。
ゴブリンで有名なセカンケイブダンジョンが資源ダンジョンへと大きく様変わりしたらしい、とか王都近くの森に新しいダンジョンが発見されたらしい、とか。
そしてその両方に、とある学生が関わっているらしい……とか。
これって多分あの主人公とその仲間達の事だ。
つまり今この瞬間にも私の知らないところで物語は進行中、って事なんだろう。
とは言え、もちろん私から積極的に主人公やストーリーに関わるつもりはない。のだけれど、どうやらロベリー師匠としても最近私の前ではその話題を避けてるっぽい。これってきっと私と主人公は『混ぜるな危険』とか思われてるんだろうな。
でもそんなある日、ロベリー師匠から思わぬ一言がポロっと溢れ落ちた。
「はぁーーあ…セントラルダンジョンの『にゃんこ』、可愛かったなぁ」
にゃっ……にゃんですとぉーーーーっ!?
「ろろろろろロベリー師匠!? 何ですか『にゃんこ』って!? もしかして猫ですか、それともまさか猫ですか、いやそう見せかけて実は猫だったりするんですかっ!?」
「えっ、やっ、ちょっ……」
突然の私の詰め寄りに目を白黒させてるロベリー師匠、でも今はそれどころじゃない。だって猫だよ!? 実家を出てからこれまでずーっと飼う事が出来なかった猫の目撃情報なんだよ!?
「ちょっと落ち着いてミカ! 話すから! 今から話すから! 話すから離してよぉーー」
あっいけない、ついロベリー師匠の両肩をギュッと……
すみません師匠、別にコレ問い詰めてるとか詰問してるとか尋問してるとかじゃないんです。本当ですよ?
ですから……
さあ、洗いざらい
◇◇◇
「うにゃ、最初に会った頃の実花そのものだにゃ」
「実花ったら猫が絡むと性格変わるものね」
「愛が重過ぎるのにゃ。重量オーバーにゃ。グリップが慣性に負けてオーバーランにゃ」
「それで事故とか起こさないといいんだけど……」
「次回『神様はお客様ですか』っ! 『ダンジョンに潜むモノ』……我々は事故現場を目撃するにゃ」
「――世紀末救世主的な予告は止めてくれるかしら」
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