第47話 猫の日
よし、方針は決まった。
今から私はこの世界を遊び倒す!
だけど……
私この物語が好きなのよね。だからそれを壊したくないって気持ちも当然ある。
そうか、だったら主人公には接触せずに私は私で――
ってあれ? それだと天照さまの事を思い出す前に考えてたのと一緒……
そうだ、転移! ストーリーと関わりが無さそうなどこか遠くへ行ければ、チート的な無茶とか色々やっちゃっても大丈夫じゃない?
でも転移の魔道具って手に入るのかな……物語の中では主人公が作ったのしか出てきてないんだよなあ。
じゃあ自前の転移魔法で……って言ってもミカには時空間魔法の適性は無いし実花は魔法そのものが使えないし。あーあ、概念だけなら小説で読んで何となく理解出来てるし、感覚的なのはさっきの転送で何となく把握出来たんだけど、そもそも前提条件を満たしていないって言うのが悲しすぎるよ。
って事で、遊び倒すにしても出来る事から。
まず最初は次の休みにセントラルダンジョンに行こう。渇ききってカラカラになったにゃんこ成分を蓄えねば……
「え? セントラルダンジョンへ? うーん、行けるかなぁ」
翌日ロベリー師匠にセントラルダンジョン行きについて相談した時のロベリー師匠の第一声がこれだった。師匠、説明プリーズ。
「実は私達が行ったすぐ後に扉と転移装置が設置されてね、今はまだ秘密で非公開だから場所バレしないようにって『隠蔽』も掛けてあるのよ」
ええっ、そんなぁ……
「じゃあ私……行けない、だの? にゃんこに会えない、だの?」
私のにゃんこ成分……
あ、急に脱にゃんこ症状が……
うう……
「ああっ、泣かないでミカ。分かった私に任せて、室長に頼んでみるから」
「ふぐっ……お願い、しますだの」
「大丈夫任せて。元はと言えばあなたにあの階層の事を教えちゃった私に責任があるんだもの。無駄に権力持ってる室長を今使わずにいつ使うの、ってね」
爽やかな笑顔で酷い事を言うロベリー師匠。そんな師匠がとっても素敵だ。
部屋を出ていったロベリー師匠を待っていると、暫くしてセントラルダンジョンに行ける事になったという知らせを持って師匠が帰ってきた。
やった!!
その師匠によると、モリスさんの応えは『んーー? 別にいいんじゃない?』って感じだったそうだ。しかも『何ならミカ君を
どうやらこんな理由で私ってばギルド本部のユーレイ職員になっちゃったらしい。
これが権力……か。
そしてロベリー師匠が持って帰ってきたギルドの職員カードを受け取った。これを冒険者のカードみたいにダンジョンの入口の転送装置に翳せばダンジョンの中に入れるんだそうだ。
この物語の開幕ベルの役回りを果たしたあの転送装置……それを使って私もダンジョンに入る、そう考えると何だか感慨深い。
でもそれよりも何よりも……これで次の休みはいよいよセントラルダンジョンだ!
猫の日だっ!
そして今日はいよいよその当日。
セントラルダンジョンに向かうため冒険者ギルド本部にやって来たんだけど……その私を待っていたのは超意外な人物だった。
「こんにちは、あなたがミカさんね」
初めて見る顔だけど……誰?
「こんにちはだの。あの、あなたは……?」
「私はパルム。ヒトツメギルドで受付嬢やってるんだけど、今日は護衛としてあなたに同行する事になったの」
「っ!? わっ私はミカです。今日はよろしくお願いします……だの」
何とか挨拶を返せたけど、マジですか!?
だって、パルムさんって言ったら……
ヒトツメギルドの受付嬢にしてピノさんの同僚。そして突然呼び出されていなくなるピノさんの仕事が全部降りかかってくるという、実はこの物語屈指の苦労人だったりする。
そんなパルムさんが何故、私の護衛に……?
「おはようミカ、早速来たわね」
「ロベリー師匠、おはようだの。それで護衛、って?」
「行先はダンジョンだもの、流石にあなた一人で行かせる訳にはいかないでしょ。でも私もピノも今ちょっとあそこに行く訳にはいかないし、あそこはまだ非公開だから冒険者に依頼する事は出来ないし。それでピノと相談して――」
「この私に白羽の矢が立ったという訳」
うん、ピノさんの紹介って事は分かった。でも……
「ギルドの受付さんなのに護衛、だの?」
「あら、パルムさんは強いわよ? 学校の冒険者クラスを上位で卒業してて上級冒険者くらいの強さはあるし、その上ギルド職員としての膨大な知識があるもの」
「ふふっ、まあそういう事だから安心して。まあピノみたいな人外レベルと比べられちゃうと困るけど、それでもあなたの安全は私が保証するわ」
そのパルムさんと二人、ダンジョン用の装備に着替える為に更衣室へ。
そこで魔法の鞄から取り出したのは里から持って来た革の鎧だ。里の周りに出没する熊型魔物ヒベアの革で出来ている、軽くて頑丈な防具一揃えだ。
「うわぁ、ミカさんそれってかなりいい品なんじゃない」
すぐ隣で着替え中のパルムさんから驚きの声が上がった。
「こういうのは里だと普通に貰えるの。どっちもこの間の誕生日プレゼントで、この防具はミヒャエル兄貴、こっちの剣はマイケル兄貴が」
「へえ、いいお兄さんなのね――ってまさか、あのミヒャエル工房とマイケル工房の!? 嘘ぉ!!」
そっか、どっちの兄貴の工房も王都じゃ有名なブランドなんだっけ……まあ今はあまり深く考えないようにしよう。
「そんな凄い装備を日常使いに……あれ? もしかして私って要らなかった?」
「そんな事無いって、装備だけで実戦経験は全然だから。それに今日の武器はこれを使うし」
そう言って魔法の鞄から取り出したのは、ロベリー師匠に教わりながら一緒に作ったこの
説明しよう。
ああ、両親と見た古いアニメで毎回そんな解説が流れる作品、あったなぁ……
その
だって……魔物と言っても生き物だから刃物で切り付けるのはちょっと、ね。
「なので今日はよろしくお願いしますっ……だの」
「あ、うん。分かった」
やがて私とパルムさんは支度を終えセントラルダンジョンに向けて出発した。
さあ、猫の日だっ!
◇◇◇
「いい感じよ実花。記憶が戻ったのは想定外だったけど、魂は無事に人間の世界に馴染んで人間寄りに戻ってきてるし、これならそう遠くないうちにこちらに戻せそうね。良かった…………そう言えば今日は珍しく他に誰も来てないのね。バステト様と店長さん達は――あら? お店の方にもいないみたい。そうか、新作動画の撮影……。ふふっ、きっとバステト様達も早く実花に見せたくて張り切ってるのね」
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