第50話 にゃんとの遭遇
「あの、アヌビス様……? 一体何がどうなって――」
「すまぬ実花、実は我にもよく分からないのだワン」
事情を教えて貰おうと問い掛けた私の質問を申し訳なさそうに遮り、アヌビス様は自身が今ここにいる経緯を教えてくれた。
それによると――
アヌビス様はバステト様に呼ばれて、そしてバステト様の所へとやって来たそうだ。
するとバステト様はアヌビス様に何の説明も無く『思った通りにゃ! じゃあ行くにゃ』と言って何やらゴソゴソと始め、その様子に疑問を感じた次の瞬間、アヌビス様はバステト様や店長達と一緒にこのダンジョンのコアの前に立っていた。
それからバステト様はそこにいた『ダンジョンの精霊』と何やらひと悶着起こし、『やってらんねーです!』とふて寝する精霊をその場に残したままアヌビス様の手を引っ張ってダンジョンの最下層からここまでやって来たそうだ。
で、『もうすぐ実花がここに来るからここの犬達を制圧しておくのにゃ』と言い残して上層へと去っていったバステト様を溜め息で見送ったアヌビス様は、訳も分からないままだけど取り敢えず私の安全の為ならばとバステト様の言葉をそのまま実行したそうだ。
このコボルトエリア全体に圧倒的な威圧感を放つ事でこのエリアにボスとして君臨し、私達を見たら仲間と同等の礼儀で迎えるよう全てのコボルトに対して命令する事によって。
「むぅ……そうだったんですか。じゃあやっぱり何が起きてるのかはバステト様に訊くしかないって事なんですね」
「そうだワン。我も奴をきっちり問い詰める所存……奴はさっき一度ここへ戻ってきて、そのまま眷属の猫達と共に階段を降りていったワン。『実花が来たら一緒に降りてくるにゃ』と言い残し、ワンっと言う間に……」
よし、肝心な事はまだ何も分からないけど取り敢えず下へ向かうしかないと言う事は分かった。
「そういう事なのでパルムさん――」
早速先へ進もうと隣のパルムさんに声を掛けたら――
「今度は言葉を話すコボルト……」
あらら、またフリーズしてる。どこかにリセットスイッチとか無いかな……
「ネコの次はイヌって……これもドワーフ?……ちっちゃなちっちゃな犬顔の……ドワーフ……ああ、ドワーフって一体何……」
うーん困ったな、流石に今度は回復に時間が掛かるかも――
どうしようかと悩む私の目の前で、アヌビス様から凄く清廉な気配が噴き出した。
――何だろうこの気配の懐かしさ
――ああそうだ、これって
――神界でずっと感じてた気配だ
――神様の放つ神気だ
そしてアヌビス様がパルムさんに語り掛ける。
「聞くがよい娘よ――」
神気に乗せたアヌビス様のその声は、囁きのように小さく静かだった。
それなのにまるで重低音サウンドのように魂を揺さぶって、一気にパルムさんを正気へと引き戻した。
おおっ凄い!
抜け掛かってたパルムさんの魂が身体の中に引っ込んだ!
「我はアヌビス、異界より来た冥界の神である」
「えっ、神……様?」
「うむ、キュートでプリティな黒柴の神である」
ちょ待てーーい! 今その情報っている!?
台無し感ハンパ無いんですが!
でもパルムさんは特に変だとは感じなかったみたい。というかこのアヌビス様の神気に圧倒されてるようだ。
「これから我はこの実花と共に先へと進む。娘よ、お主はどうする? 我らと共に来るか一人で戻るか――今この場で決めるのだ」
「わっ私は……」
パルムさんの視線が激しく彷徨う。
下層への階段、アヌビス様、それから私へ……
そして私と目が合った瞬間、パルムさんの目が力を取り戻した。パルムさんっ!
「行くわ! 私はミカさんの護衛だもの、一人で帰るのはミカさんが死んだ時だけよ!」
「なな何カッコよく不吉な事言っちゃってるんですかぁーーーっ!!」
こうしてパルムさんは無事復活を果たし、私とアヌビス様と一緒に階段を降りた。
そして私達はいよいよ本来の今日の目的地であったにゃんこエリアへと足を踏み入れる。
さっきからあまりに色んな事が起き過ぎたせいで、感動も実感も全く湧かなそうだけど。
――だったんだけど!
やっぱり来て良かった!
だって、お洒落なジャケットを着たにゃんこ達が普通に二本足で歩き回ってるんだよ!?
だって、こんなリアルファンタジーなにゃんこに初めて出会ったんだよ!?
……あっ『ただし神様は除く』、ね。
行き交うケットシー達と挨拶を交わしながら先へと歩を進める。気分はまるでテーマパークの散策だ。
小型中型種の第八層、そしてほとんど猛獣の第九層。様々な亜種のケットシー達を見て楽しみ触れ合って親交を深め、やがて辿り着いたのは第十層へと続く階段の前――ケットシーゾーンのボスの間だ。
◇◇◇◇◇◇
実花御一行様
ようこそ
下フロアはこちら
◇◇◇◇◇◇
――階段の脇でそんなプラカードを持った白猫店長さんが一人ぽつんと立っている、きっとここがボスの間だ。
「にゃっ!」
店長さんは私達と目が合うとプラカードを下ろし、そして小さな三角の旗を掲げた。
その旗に書かれた『バステト観光』って……流石に悪ノリが過ぎるんじゃないかな?
白猫店長さんの先導で階段に足を踏み入れる私達、その横では床に置いたプラカードがダンジョンの床へと吸い込まれていった。
おおっ、何て便利にリサイクル!
こうして私達探検隊一行は想定外のドタバタの末、ついに最終目的地である第十層『ふれあいボスの間』に辿り着いたのである。
――さあ、説明を聞かせて貰おうじゃないの。
▽▽▽
「さあ、説明を聞かせて貰おうじゃないの!」
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