第49話 思わぬ再会
ゴブリン。
全身緑色で知能は幼児レベル以上、ただし中には大人レベルの知能を持ち合わせる個体もあり。
道具を使い、ゴブリン間でのコミュニケーションが可能。
そして、素材となる部位はない。
魔力を持つ個体はゴブリンマジシャンやゴブリンメイジ、ゴブリーダー等に進化する事がある。
だが、素材となる部位はない。
これが里で教わったゴブリンの全て。
なるほど、素材としては使えないらしい。
って、ちょっと教える内容片寄ってないかな!?
そんなゴブリン達が今、私の目の前で駆逐されようとしている。下層に続く階段を駆け上がってきたケットシー達によって…………え?
「ねえミカさん、今私達の目の前で一体何が起きてるの? 私にはサッパリ理解出来ないんだけど」
「そんなの私もですよーー!」
今私達がいるのは第五階層の最奥、ゴブリンのボスの間だ。
この階層に降り立った時、パルムさんお願いされて私の
通路の端まで飛ばされ壁に貼り付くゴブリン達だったが、それでも悲痛な表情で立ち上がり何度かは逆襲に戻って来て……そしていいスイングを受けてまた飛ばされてゆく。
その繰り返しを見ているうち、迫ってくるゴブリンの表情でそのゴブリンが何度飛ばされた個体か判別出来る様になった……そんなスキルいらないのに!
そして最後にゴブリン達が逃げ込んだのが今私達がいるここボスの間。そこで来る者を待ち構えていたであろうボスのゴブリンソーサラーは、ポカンとした表情を浮かべたままゴブリンの波に飲み込まれ姿を消した。
――その時だ!
ダンジョンの魔物の悲しさか、ゴブリン達はどれだけ追い詰められても下層への階段に近付く事は無い。その階段から突如として二本足で立ち服を着た猫――ケットシー達が飛び出し、そしてすし詰め状態のゴブリン達に襲い掛かったのだ。
同じダンジョンの魔物に襲われるというあり得ない事態に混乱していたゴブリン達だったが、いい笑顔を浮かべるパルムさんと襲い来るケットシーの二択からはケットシーを選んだようだ。
ケットシー達を取り囲むと数の利を活かして圧し潰そうとするゴブリン達、だが統制の取れた素早い動きと軽やかな剣捌きを見せるケットシー達に成す術も無く……そして今に至る。
「あれ? でもケットシー達の階層って第八階層からじゃ?」
「そう言えば……はっ、まさかこの下ではイヌ対ネコの壮絶な闘いが……」
「そっ、そんな悲しい闘い……」
パルムさんと二人でそんな恐ろしい想像をしているうちに、目の前で繰り広げられていたゴブリン対ケットシーの戦いはどうやら幕を閉じたようだ。
床に横たわるゴブリン達がダンジョンの床に飲み込まれてゆき、その場に残るのは勝利した十体のケットシー達だけとなり――
彼らは互いにハイタッチを交わすと私達の前に歩み寄り、そして横一列に整列した。
「なっ、何が起きるっていうの……?」
「たっ、立ちにゃんこカワイイ……!」
混乱と恍惚。
そんな対照的な表情を浮かべるパルムさんと私だったが、その時立ち並ぶケットシー達が動いた。
中央に空間を残して左右にスッと分かれ、列の並びを縦に変える。これは……通路?
そしてその向こうから姿を現す小さな影、それは――
「実花、久し振りだにゃ!」
「ばっ、バステト様ーーぁ!?」
こんな所で出会う筈の無い、神界にある私のお店『
「ちょっとバステト様! 一体何故こんな――」
思わずバステト様に詰め寄ろうとした私の裾が横から引っ張られ――
「ねえミカさん、こちらミカさんのお知り合い? それに喋るケットシーって……」
「あ……」
あまりにビックリし過ぎてパルムさんが隣にいるの忘れてた。
「そちらは初めましてだにゃ? ミカの古い知り合いのバステトにゃ。よろしくにゃ。それで後ろに並んでるのはウチのアイドル達にゃ」
「はぁ……これはどうもご丁寧に。私はパルム、ヒトツメギルドで受付担当やってます」
こんな訳の分からない状況でも取り敢えずちゃんと挨拶を返せるパルムさん、ギルドの受付で揉まれてきた経験は伊達では――ってあれ? バステト様今『アイドル達』って……ああっ!
「店長さんーー!?」
よく見たら後ろで並んでるケットシーって、みんな顔が店長さん達だあっ!!
思わず口に手を当てて驚く私に『やっと気づいたか』って顔で尻尾を振ったり手を振ったり。
ああ、そんな人間っぽい仕草をする店長さん達って何て……私を萌え死させる気ですかぁっ!!
バステト様は『いい画が撮れたにゃ』と言い残し、店長さん達を引き連れて階段を下りて行った。
残された私達は暫くその場で立ち尽くしていたんだけど、さっきからずっと隣に立つパルムさんの小さく呟く声が私の耳に届いてくる。
「ケットシーが喋った……挨拶も……ミカさんが知り合いって……それにアイドルとか店長って……古い知り合い……って事はドワーフの里の……じゃあ……ドワーフの里にケットシーが……実はケットシーじゃないとか……ならネコっぽい顔のドワーフ……にしては毛深い……ああドワーフって髭とか凄いし……ならただの毛深い……でもあのネコ顔……ああ訊きたい……問い詰めたい……でも下手に踏み込むのは……ヤバい地雷かもだし……ギルマスの二の舞は嫌だし……この年で胃薬ご愛飲とか絶対嫌だし……」
やがてパルムさんは考えるのをやめたらしい。
火山の噴火で宇宙に投げ出された究極生命体みたいな顔で、最後にこう呟いた。
「……そろそろ行こっか」
第六階層へと降り立った私達は、あれから無言で先へと進み続けている。
どうやら心配していたようなわんにゃん大戦争は無かったみたいで、ここまで出会ったコボルト達はダンジョンの中を普通に過ごしていた。
そう、私達を見ても別に襲い掛かってくる事なんて無く、軽く頭を下げるとそのまま普通に通り過ぎて……
ん、普通? 普通じゃ……ないよね?
そんなコボルト達を暫く警戒していた私達だけど、一向に襲ってくる気配の無い彼らをこちらから攻撃する訳にもいかず、少しだけ緊張を残したまま歩を進めてゆく。
第七階層に下りてもそれは変わらずで、時々現れる大型犬種のコボルト達はまるで私達を人間じゃなくって仲間の魔物だとでも思っているみたいな対応。
ダンジョンの魔物が襲い掛かって来ないって……これも塩対応っていうのかしら?
こうして私達は何事も無い平穏無事なダンジョンを歩み続け、やがてコボルトの階層の最後の地である第七階層最奥へと辿り着いた。
そこで私達を待っていたのは……小さな黒柴の――
「実花、よく来たワン」
アヌビス様でした。
……そろそろ誰か説明してくれないかな。
▽▽▽
「やっ……やってくれたわねバステト様ぁっ!!」
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