第51話 そんなミステリー
セントラルダンジョン第十層。
第六層と第七層のコボルト、そして第八層と大九層のケットシー達を一体も倒さずに辿り着いた場合にのみ『ふれあいボスの間』に変化する、そんな条件付きボスの間である。
そして色々と想定外のドタバタがあり結果としてその条件を満たす事が出来た私達は今、ダンジョンからのご褒美タイムに突入していた。
即ち、にゃんことわんこによるモフモフパラダイスである。
――はっ!?
気が付けばもうご褒美タイムが終了の時を迎えたようだ。
私の可愛いモフモフ達は、可愛い手を可愛く振りながら一匹また一匹と可愛らしい姿を消していった。
そして最後の一匹が姿を消すと、あれだけもふもふと賑やかだったこの部屋は祭りの後のような静寂に包まれ、やがてその静寂の向こうから見慣れた影がゆっくりと近づいてきた。
ああ、遂に訪れた再会の刻――
「バステト様……」
「実花……」
私が両手を広げバステト様を迎え入れる姿勢を取ると、バステト様は私の胸目掛けて飛び込んで来た。
「うにゃぁぁ実花ぁーーーー!!」
私はそんなバステト様を力一杯ギュッと抱き締め――
「確保ぉーーーっ!!」
「にゃんにゃーーーーっ!?」
ふっふっふ……
それではバステト様、色々と訊かせてもらいましょうか。
「二人とも、その前に少しだけ待つワン」
アヌビス様は私達にそう言うと、パルムさんと向き合った。
「パルムよ、我々は今から実花に関する重大な話をするがお主はどうするワン? 秘密を知りその上で秘密を守るか、それとも知らぬままとするか。どちらを選ぶワン?」
そんなアヌビス様からの問い掛けだったけど、どうやらパルムさんの答えは初めから出ていたみたい。パルムさんは私に優しく微笑んでからアヌビス様に向き直ると、実に堂々とした態度で言い放った。
「知りたい訳なんて無いじゃない! いつも私がギルマスに胃薬を用意してるのよ? 巻き込まれた者の末路を散々見てるのに二の轍を踏むほど馬鹿じゃないわ!」
「そっそうか……分かったワン」
ですよねーー。
パルムさん、堂々と関わらない宣言。
なんて漢らしい……
「では我々は場所を移すとしよう。お主は暫しここで待つワン」
「分かったわ」
そしてアヌビス様は天井の一点を見つめて声を上げた。
「ダンジョンの精霊よ、そういう事だからこのパルムを除いた我々三名をそちらに転移させるワン」
えっ、あそこに精霊がいるの?
驚いた私もそこに視線を向けたけど、天井以外何も見えない。
でも――
『気付かれてたです!? ……ちっ、すぐ準備するから少しだけ待つです』
どこからかそんな声が頭の中に響いてきた。
って事はあそこにはカメラ的な何かがあるだけで、精霊さん自身はどこか別の場所から見てるのかな……?
あれ……?
「さっき三名って言いましたけど、店長さん達は?」
アヌビス様、さっきの精霊さんとの話で確かにそう言ってたよね。
……ケットシーの姿をした店長さん達がバステト様の後ろに並んでいるんですが?
「バステトの眷属達よ、その方らは我らの話が終わるまでこの場で『
「ちょっ!? それってどう――」
『待たせたです。じゃあ転移するです』
「私が見たパルムさんの最期、それは焦った顔で仔犬に詰め寄り問い質そうとする、その救われぬ姿であった」
ダンジョンの精霊の声と共に消えたパルムさんの姿に思わずそう呟くと、腕の中の
「実花、お前も大概ひどい事言ってるにゃ……」
さあ、切り替え切り替え。
一体どこへ転移させられたのかと周囲を見回すと……
ここは落ち着いた感じの割と広い部屋だ。
そしてそのすぐ前に立っていたのがロ――小学生くらいの女の子だった。
「歓迎する気は全然無いけど、よく来たです」
あ、この声……そうか、この子が『ダンジョンの精霊』なのか。
そんなロ――小さな精霊の可愛らしい風貌に和んでいると、その彼女もまた私をじっと見つめ……
そして唐突に爆弾発言を投げ付けてきた。
「こうして近くで見るとやっぱりほんのちょっとだけ違和感があるです。本来の魂に何か異物が混入してるみたいな……成程これが異世界転生ですか」
ええっ、私って異物なの!? 混入しちゃってるの!?
そんなの即時回収&出荷停止案件じゃない!
「にゃあ。天照は『短期転生』って言ってたから、実花があっちに戻ってからもミカとして元通りやっていけるように、そんにゃ感じにしてあるんだにゃ」
「ほほぉ、じゃあその『天照サマ』がこの事件の黒幕です? ダンジョンコアに干渉してお前をここに送り込んだ犯人もそいつです?」
あれ? 私を差し置いて精霊ちゃんが尋問始めちゃった?
「実花をミカに入れたのは天照にゃ。でもア
「つまりこれは『二つの事件が別々に発生し、その犯人も別々』っていう変化球的ミステリー小説みたいな事件って事です?」
「そうにゃ」
いや精霊さん、ミステリー小説って……
て言うかバステト様の一人称って『アニャー』なの!?
「その『天照サマ』です――ここの世界の神より更に上位のヤベー奴って事は分かるです。それが何故この実花をここへと転生させたです?」
あ、それ私も知りたかった。
「実花は天照のお気に入りの眷属にゃ。でも人間にゃ。だから天照は次の転生のタイミングで神ににゃるか人ににゃるか実花に選ばせる事にしたにゃ。にゃのに眷属として神界に留まるうちに実花の魂は神ににゃりつつあったにゃ。それで天照は実花を暫く人の世に置く事で魂を人に戻す事にしたのにゃ」
ああ、そうだったんだ。天照さまは私の為に……
「ですか……まあ実花については理解したです。じゃあ次です。お前が私のダンジョンコアに不正アクセスしたのはどんな理由です?」
「アニャーは元々護り猫にゃ。そして今は実花の護り猫にゃ。それなのに実花がいつのまにか別の世界に転生してて……
ばっバステト様!
……って、いつから私の護り猫に?
「ふーん、全くの嘘って訳でも……でもそれだけじゃないです? ズバリ一番の理由は!? さあ運命の最終問題、回答どうぞですっ!」
「にゃっ!? 店長ズに新機軸の動画を作りたかったにゃ! ここで一気にバズりたかったにゃ! でもCGとか作るの大変にゃ? だから実写で撮ってCGだって言って公開するのにゃ! そのチャンスは実花がここにいる今しか
ああ、そうだったんだ。バステト様は『いいにゃ』の為に……
「待て! バステトよ、それに我を巻き込んだのは何故だ?」
「アヌビスは冥界の神……つまり転生システムの関係者にゃ。実花の転生先にリンクする為にその神力が必要だったにゃ」
「ほほう……つまり其方は我の神力を無断で使用した、と……?」
「んにゃっ……」
アヌビス様からの冷え切った視線にバステト様はしきりに目を泳がせ、やがて救いを求めるように私に視線を送り……
でもね――
「動画の為にリハビリ中の私を利用したんですね?」
「にゃっ!?」
「そして我の神力を無断で利用した訳だワン」
「にゃにゃっ!?」
「その挙句にラルのダンジョンコアへの不正アクセスと不正利用です!」
「にゃにゃにゃっ!?」
そして私とアヌビス様と精霊さんは顔を見合わせて頷いた。
「「「ギルティ!!」」」
「…………うにゃぁ」ガクッ
▽▽▽
「ギルティ! ギルティ! ギルティ! 絶対ギルティよ、もうっ!!」
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