第52話 あとかたづけ

「では次、私から質問いいですか?」

「一番の被害者なのだ、当然だワン」

「ラルも構わないですよー」


あの、ずっと気になってたんですけど……


「バステト様とアヌビス様って前の姿そのままじゃないですか。でも店長さん達って顔だけ神界にいた時のままでそれ以外が全然違うんですけど?」


身体も大きいし、それに服着て立ってるし。


「にゃ……それはあれにゃ、ここのダンジョンコアでよく似たケットシーの身体を作ってそれに入ってるのにゃ。アニャーとアヌビスの身体は特別製に誂えたからそれにゃりに頑張ったのにゃ……ここのダンジョンコアが、にゃ」


ああ、なるほ――


「っそれマジですーーっ!? ああっ、よく見たらコアがクタクタでヘロヘロです!! エマージェンシー、エマージェンシー、管理者権限で緊急スリープを……うわあぁぁん、カルアお兄ちゃぁーーん!!」

 

ああ、後ろで精霊ちゃんが大変な事に……

バステト様に絶対零度の視線を送ったら分かり易くスッと目を逸らされた。この神様はもう……


「何とかしてあげて下さい」

「……この身体じゃ無理だにゃ」

「何とかしてあげて下さい」

「だからこの身体じゃ――」

「何とかしてあげなさい」

「うにゃあ……」


ケットシーベースのボディによる制限で神様パワーが使えないらしいバステト様は、散々渋ってからやっと動き出した。


「しょうがにゃい、にゃんとかやってみるにゃ。ええと『地』の魔力が枯渇したのにゃら最寄りの『木』から補填するのがセオリーにゃ……んにゃっ!? 『木』もにゃんかヤバイ感じににゃってるにゃ! これじゃ『木』からは無理にゃ……じゃあ『空』、は地下までは無理そうにゃ……にゃらもう残る選択肢の『海』からに決定にゃ」


祭壇に手を乗せてブツブツとそんな事を呟くバステト様。何言ってるかはよく分からないけど、どこか他の場所からダンジョンコアの魔力を調達しようとしてるみたい?


「『海』方面の精霊よ、アニャーの声が聞こえるにゃ? にゃ? イズミって言うにゃ? それはどうもご丁寧に、アニャーは――って自己紹介は後にするにゃ。今は急いでやって欲しい事があるのにゃ」


そんな感じで虚空に話し掛けていたバステト様だったけど、そのうちその表情がパッと明るくなった。

「来た来た、来たにゃーーー!」

「『根幹の魔力』が……戻ったです? ……ああっ、マジです! 魔力がどーんとコアに流れ込んできたですよぉ!」


笑顔でハイタッチを交わす二人――精霊ちゃん思い出して、それ犯人!


「……にゃ! こっちは上手くいったにゃ。大成功にゃ。お陰でここの空白地帯が消えたのにゃ。感謝感激大歓喜にゃ!」

通信の向こう側の相手に結果の報告とお礼を伝えたバステト様。そのバステト様に精霊ちゃんが訊ねた。


「それで一体どんな手を使ったです? さっきまでこの地域一体全部の『根幹の魔力』が空っぽだったですよ?」

「にゃ? にゃければ他から持ってくればいいにゃ。今回は『海』の精霊に言って海の魔力を陸側に押し込んで貰ったにゃ。その圧力でこの辺りの空白地帯が一気に魔力で満たされたのにゃ」


それを聞いた精霊ちゃんの表情は笑顔から硬直、そしてそこから一転青ざめて、その小さな両手で口を覆った。


「なっ……世界中の海を管理するあの大精霊にそんな事やらせたですか!? そんな……そんなヤベー事、非常識殿堂入り間違いなしのカルアお兄ちゃんにだって出来っこないです」


あらら、精霊ちゃんそれフラグ……




…………さて、と。

ここでやる事はもう無さそうだし、目的だった可愛いにゃんこ達との触れ合いも十分果たせたし……それにパルムさんも待たせちゃってるし。


「じゃあバステト様、アヌビス様、私そろそろ帰りますね。あと精霊さんもお世話になりました」

「ラルはセントラルって言うですよ。セントラルダンジョンの精霊セントラル。覚えとくといいです」

「はい、セントラルさん。うちのアレがお騒がせしました」

「アレってアニャーの事にゃ!? 扱いがぞんざいに過ぎるにゃ、改善を要求するにゃ!」


はいはい、ほとぼりが冷めてからね。


『じゃあ転送するですよー』っていうセントラルちゃんの声と共に目の前の景色がさっきまでいたボスの間のそれへと切り替わった。

そしてそこには――

立派なソファーセットに身を沈めたパルムさんと、その両サイドからパルムさんを挟むようにすり寄るように座る店長さんの姿が!


他の店長さん達は奥のカウンターでフルーツの盛り合わせを作ったりカクテルっぽい何かをシェイクしたり……

おいコラ。


「あ、お帰りミカぁ。ちょっとあなたのお店結構いいじゃない。私これから贔屓させて貰っちゃう。ねっ店長さん」

「「にゃあー」」


いや、あのね……


「私のお店はそういうお店ホストクラブじゃありませんっ!! 店長ズ、撤収!!」

「「「「「にゃっ!!」」」」」

「ああーーーっ……」


油断してた。

店長さん達もバステト様の眷属だもの、悪い影響だって受けてるに決まってるじゃない。

――どこかから撮影とかしてないだろうな?


ふと気になって周囲を見回すと……

「え? バステト様……それにアヌビス様も。何故いるんです?」

神界に帰る二人とのお別れはさっき済ませたばかりなのに……

あれ、そう言えばさっきお別れの挨拶ってセントラルちゃんからしか……?


「アニャーとアヌビスはもう暫く実花と一緒にいる事にしたにゃ。にゃあアヌビス?」

「すまぬ、そういう事になってしまったワン……。我が力及ばず申し訳ないワン」


ええっ!?


「あの、でも見るからにケットシーとコボルトなお二人を連れて帰ったら大騒動になっちゃいますよ?」

「にゃ。それは問題にゃいにゃ。さっき言ったにゃ? このボディーは特別製にゃって」


そう言ったバステト様、そしてその横のアヌビス様の身体が急に白く輝き――


「にゃあ」

「わんっ」


その光の中から姿を表したのは、どことなーく見覚えのある顔をした子猫と子犬。

ああ、これってやっぱり……


「どうにゃ、これにゃら一緒にいても問題にゃいにゃ?」

「……という事だワン」


という事でした。

その後、神界へと戻っていった店長ズを寂しさと共に見送り、脱け殻となった無表情のケットシーボディ達がダンジョンの床に吸い込まれていくのを微妙な気持ちで見送り……

そんな複雑な心境の中、今回のわんにゃんダンジョン探索は終了を迎え、私達はセントラルダンジョンを後にした。


ダンジョンに一人残る精霊のこんな呟きには気付く事無く……


「シュッとしたケットシーがおもてなしするお店……新機軸、です」




▽▽▽

「バステト様――それにアヌビス様まで帰ってこないつもり!? 二人ともずるい!! ……あ、店長さん達お帰りなさい」

「「「「「にゃあっ!」」」」」

「それで早速で申し訳ないんだけど、ちょっと奥の事務所の方へと来て貰えるかしら? アナタタチノ『カイヌシ』ノコト、デ」

「「「「「………………にゃあ」」」」」

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